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「体験コワーキングデイVol.4〜大阪泉佐野.COMMUNE編〜」古民家をコワーキングにする現代版「家守」でまちづくりを〜カフーツ伊藤のカブト虫の紐日誌#15
日頃、あまり行ったことのないコワーキングに出かけていって、仕事もする、イベントもする、交流会もする旅イベント「コワーキングツアー」の近場編として4月からはじめた「体験コワーキングデイ」。その4回目は、去る6月7日に、大阪泉佐野市の.COMMUNEさん(以下、さんづけ略します)におじゃまして開催した。
泉佐野市は大阪の南、泉南(泉州)地域にある人口約10万人の地方都市だ。泉州と言えば玉ねぎがすぐアタマに浮かぶが、タオルも有名。タオルと聞くと(例のデザイナーさんの功績か)今治というイメージがあるが、実はこちらが本家らしく、明治20年から「泉州タオル」を生産している日本タオル産業発祥の地でもある。
それと関西国際空港、略して「かんくう」のある町。りんくうタウンなんていうJRの駅もある。かんくうで仕事に従事する人は、他府県から来られる人を含めて2万人はいるらしいからまさにタウンですね。
が、今回のコロナ禍で空港を軸にした町が受けたダメージは相当大きいとか。なにしろ、人が来ないのだから。
空港周辺に続々とホテルが進出、その数、3,700室に及ぶらしいが、建築工事も終わらない前からオーナーが入れ替わるホテルもあるらしく、先行きは不透明。実は泉佐野市自身、過去に財政破綻の可能性があったらしく、日本の地方都市の実態を見る思いがする(が、ヒトゴトではないゾ)。
だが地元にはサステナブルなまちづくりを志向する人たちが、さまざまな方法で活動している。.COMMUNEの代表、渡辺さんもそのひとりだ。
渡辺さんは元々、泉佐野商工会議所の職員として過去に400社以上の地元企業の経営支援をしてきた人だ。その後、南海泉佐野駅周辺の再生・活性化を進めるまちづくり会社で空き家・古民家再生に携わった。
泉佐野にはなんと築100年〜200年の古民家がゴロゴロあるらしいが、相続しても維持管理できず、解体して売却し、駐車場になる例が跡を絶たないという。それではせっかくの町の資産が失われ、町全体が廃れていく。
そこでまちづくりを自分ごと化する「まちゼミ」をはじめ、市民を対象にワークショップを開催するなどして民意を盛り上げてきた。
そうしたキャリアを経て、個人事業主として「ヒトツナギ」を起業、.COMMUNEの運営に至る。
その.COMMUNEのコンセプトは「衣食住」ならぬ「居職住」。
居=居心地の良い場所(居場所、コミュニティ)
職=スタイルに合わせた多様な働き方
住=人とつながることで地域での暮らしを豊かにする
ずーっとまちづくりに携わってきているからこそ、こういうコンセプトが生まれる。もちろん、.COMMUNEもまちづくりの一環という立ち位置にある。それは、前述「かんくう」と密接につながる。サイトから引用すると、
関空の玄関口である泉佐野で仕事をするための(電源、wifi環境が揃った)場所がないことを地域が発展する上での大きな課題と捉え、同じく課題となっている空き家問題の両面を解消するコンテンツとしてここでつながり、.COMMUNEがこれからの泉佐野の未来を考える上で大事な拠点となることを目指しています。
つまり、町の課題を町にすでにあるもので解決する、それが古民家を再生利用したコワーキングというわけ。こういう合理的な発想はありがちに見えるかもしれないが、実際にまちづくりに関わってきて町の細部まで知悉している者にしかできないと思う。
ちなみに、おじゃました前日はタイからかんくうに降り立ったビジネストラベラー数人が、京都に向かう前にここで打ち合わせして行ったらしい。まさに想定した通りの展開だ。徐々に日本への入国受け入れも門戸を開きつつあるので、今後も期待できそう。
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さて、その.COMMUNEは4月15日にオープンしたばかり。南海泉佐野駅から歩いて7〜8分。のどかな住宅街を歩いていくと、築100年(!)の大きな古民家が現れる。
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この古民家を有志の協力を得て自分たちでリノベーションした。その際、クラウドファンディングにも挑戦し、見事160万円余りの資金調達に成功している。自分たちの町にコワーキングを開設するというプロジェクトに、皆の希望が託されている。スバラシイ。
入るとこんな感じで、当たり前だが人の家に来たみたい。100年の空気のせいか、もうすでに気分は和らいでる。当然、靴は脱ぐ。
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と、「体験コワーキングデイ」のことも告知いただいていた。有難い。
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ツツツと進むと、まず少人数用のデスク。左奥にキッチンが見える。これがコワーキングでは大活躍する。
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その右手にオープンデスクの部屋が。ガラス戸が懐かしいでしょ。
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その右手はこんな感じ。ここでちょっとしたプレゼンもできる。お茶飲みながらモナカを食べてもいい。
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その奥の床の間はアート作品の展示スペースに。
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オープンデスクの奥は、元々玄関だったところを改装して、子供さんが遊べるゾーンになっている。お母さんたちはこの椅子に座って情報交換かな。
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さらにその向こうにまだ小部屋がある。ガラス戸を閉めれば内密な打ち合わせや、オンラインミーティングとかに使えそう。
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2階にもオープンデスクがある。この梁は天井を剥いであえて露出したとのこと。天井が高くなって開放感が出た。
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こちらはカウンタースタイルのデスク。
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そしてブース型個室スペースもある。
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こういう古民家らしいところを残すセンスがいい。
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漆喰(しっくい)やアマニ油、ベンガラなど、自然素材にこだわって内装し、扉や建具もあえて古材を仕入れたり、近隣の古民家からもらい受けたりして再利用している。古いものを大事に引き継いでいくには、そういうこだわりも必要だ。
*****
さて、.COMMUNEを運営するのは創業メンバーの前述渡辺さんと、原さん、御厨さん、川島さんの4人だ。この4人がまたユニークな組み合わせ。
原さんは泉佐野地域通訳案内士協会の会長で中国語ガイドをされている。御厨さんは同じ泉佐野市内でDIYでリノベーションしたシェアキッチンを運営されている。川島さんは「おてつだい執事くん」と銘打って、買い物代行や部屋の片付け、家具の組み立てから夏休みの工作手伝い、パーティーの準備と片づけ、さらにはサンタクロースなどなど、困っている人のお手伝いを仕事にされている。その活動領域は違えど、皆、まちづくりの一翼を担っている。
この共同運営というスタイルは、多様なワーカーを受け入れるコワーキングの運営に相応しいと考えていて、実はぼくのやってるカフーツも近々共同運営方式に変えようと思っている。
ここで例によって脱線する。
コワーキングのユーザーであり、かつ、コワーキングの理念に共感するコワーカーが、当番制(輪番制)で担当曜日を受け持つ。一応、大原則を決めておきつつも、その日その日によって担当が変わり、各自の個性で現場を回してもらっていいことにする。もちろん、仕事しながらでいいし、なんなら自分のイベントも開いてもらっても構わない。そこは自律的に。
ぼくは自分をオーナーとは思っていない。自分もカフーツのいちユーザーであって、たまたま言い出しっぺになったので管理人として常駐している(たまにいなくなるけど)、という考え方にある。だから、利用者をお客さんとは思っていない。そうではなくて「仲間」として遇していて、それがコワーキングの本質だと理解している。
なので、その「仲間」とコワーキングを共同運営するというのは、コワーキングをさらにコワーキングならしめる方法だと考えている。それに、複数でやると課題を多面的に考えられて解決策を見つけやすいし、役割分担すると時間もコストも按分できるので何かと合理的だ。
で、話を戻すと、この写真の左から渡辺さんと、原さん、御厨さん、と来て、右端は、この古民家のオーナー(家主)である宇賀さんだ。(川島さんは後ほど出てくる)
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この宇賀さんもただの家主ではなく、渡辺さんとはまちづくりの活動である「まちゼミ」で出会い、コワーキングのことを知って、この計画に協力することになったという。
つまり、家主さん自身がコワーキングの本質を理解した上で、自身の持つ古民家を有効に再利用せしめ、まちづくりにコミットしているということ。←ここ大事。
コワーキングの本質とは、これね。
コワーキングの5大価値
・Accessibility(つながり)
・Openness (シェア)
・Collaboration (コラボ)
・Community (コミュニティ)
・Sustainability (継続性)
実はここに「家守」の概念が持ち込まれている。これは、家主に代わって家屋敷を維持管理する江戸時代から続く制度だそうで、その現代版を、古民家を.COMMUNEというコワーキングにすることで実践しているワケだ。先人の知恵もこうして受け継がれていく。
さて、オープンデスクではまちづくりのこと、コワーキングのこと、SDGsのこと、あるいはふるさと納税のことなど、ローカルならではの話題に花が咲き興味が尽きなかった。
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途中、渡辺さんにプレゼンしていただいて.COMMUNEの成り立ちのこれからを伺った。
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.COMMUNEの今後の展望としては、前述の現代版「家守」制度を普及させ、「古民家Xコワーキング」の可能性を追求し、運営ノウハウのシェアと啓発に努め、併せてワーケーションも推進することで古民家活用のフラッグシップとなるとのこと。とてもいい取り組みだと思うし、他のローカル都市でも同様の課題を抱えているので、きっといいお手本になると思う。
で、交流会へ突入。お待ちかねのたこ焼きパーティー。美味かった〜。
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準備万端整えて、
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美味しく焼いてくれたこちらが川島さん。奥のハゲオヤジは何にもしていない。
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この水なすがまた美味しかった。これも泉州の名物です。
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ちょっとピンぼけしてるけど上げておこう。
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空き家問題は、まちづくりのキモになる課題だ。そこを自治体任せではなく市民が自分ごととしてコミットすることが、次世代へのバトンタッチの成否を分けることにもなる。.COMMUNEはそのバトンを次へ渡そうとしている。
少し視野を広げて考えてみると、こと古民家に限らず、公民館や廃校など今となっては有効利用されていないローカルの資産はたくさんある。公民館は全国に14,000館もあるらしい。こうした公的施設の再利活用を促すひとつの手立てとして、コワーキングの開設・運営を検討してもいいはずだ。
まず、地域の皆が利用できる環境を整え、それを共用することで、いわゆる「コモンズの再生」を実行する。コモンズがローカルに根付くことで、まちづくりもより実効性を帯びてくる。そのエコシステムの中にコワーキングがあることが望ましい。
そして、その運営を市民が自らやることが大事。市民が共同運営に関わることでサステナブルなまちづくりに参加できる。コワーキングとは、要は助け合い。そういう関係ができれば、その町はなくならない。そう思っている。
今回、参加いただいた皆さん、ご協力いただいたCOMMUNEさん、誠に有難うございました。このたびの出会いに感謝いたします。
さて、次回の「体験コワーキングデイ」はどこへ行こうか。久しぶりに京都に行こうかと思ってる…んだけれども、7月後半に島根におじゃましようかという話もある。と思ってたら、今日、弘前も行きたいねと…。追ってまた告知するので、ご都合つく方はぜひ参加くだたい。
それでは。
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