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「歴史を武器にするな」―米CEOの妄言に反論する―黙ってはいられない作家の立場から―


 私は普段、歴史や人間模様を描いていますが、その立場として、今回ばかりはどうしても看過できないと思いました。アメリカの大手鉄鋼メーカー「クリーブランド・クリフス」のローレンコ・ゴンカルベスCEOが、日本を「悪」「寄生虫」と呼び捨てにし、「1945年から何も学んでいない」などと暴言を吐いたといいます。日本人として、そして言葉を扱う作家として、このような侮辱的かつ時代錯誤な発言を見過ごすわけにはいかないと思いました。


■「負け犬の遠吠え」はなぜ始まったのか

 事の発端は、日本製鉄とUSスチールが2023年に交わした買収合意でした。クリーブランド・クリフス社も高額な提示をして参戦していたのですが、最終的に日本製鉄がそれを上回り、ゴンカルベスCEOは涙をのんだ訳です。通常の市場経済では「魅力的な条件を提示した企業が勝つ」というのは当たり前の理屈だが、2025年1月になって突然、バイデン大統領が「国家安全保障」を理由に日本企業の買収を禁止する命令を出したのを受け、ゴンカルベスCEOはここぞとばかりに“日本叩き”に走ったという次第です。

 言うなれば、正々堂々と勝負して負けたにもかかわらず、「お父さん、あいつが僕をいじめるんだ!」とでも言わんばかりに、アメリカ政府の“国家安全保障”という父親の威光に泣きついたようにも映ります(多少、経緯は前後しますが……)。経営者として、企業競争において負けを喫したなら、その敗因を分析し次に活かすべきでしょう。それをせずに政府のご威光を傘に、相手を罵倒するのは、“負け犬の遠吠え”と批判されても仕方がないかと。


■「1945年から学んでいない」は時代錯誤の極み

 ゴンカルベスCEOがさらに問題視されるのは、「日本は1945年から何も学んでいない」という発言だ。私たち日本人は戦争の惨禍を深く刻み込み、耐えがたきを耐えながら、戦後復興を成し遂げてきました。世界有数の経済大国となり、戦後はアメリカとも手を携えて今日の国際社会を形作る一端を担ってきたんですね。にもかかわらず、そいうった歴史を無視し、「昔、戦争で叩きのめされたくせに、まだアメリカに刃向かうのか!」といわんばかりの態度は、もはや人種差別と傲慢と時代錯誤の三重奏としか言いようがない!

 また、ゴンカルベスCEOは「日本が中国にダンピング(不当廉売)の手口を教えた」という、根拠のない陰謀論めいた話まで持ち出しています。世界の鉄鋼市場で中国企業の存在感が増しているのは、あの膨大な国内需要や国策の影響など多岐にわたる要因があります。そこに日本が“悪知恵”を授けたなどと断定するのは、的外れ甚だしいの極みです。言葉を扱う者として、こんなデマまがいの声が無責任に拡散されるのは、実に腹立たしく、呆れるばかりです。


■愛国心を“他国叩き”で示すのは筋違い

 ゴンカルベスCEOは「アメリカを愛している」「アメリカ人を愛している」と豪語するが、だからといって他国を侮辱して良いはずはないのです。愛国心を示す方法はいくらでもあります。例えば、技術革新を進め、米国の産業を盤石にする努力を積み重ね、納得のいく企業価値を築くことが本来あるべき姿だろう。ところが彼は、自らの敗北を認めずに相手国を攻撃し、“父親”役の政府の権威にしがみつくという安直な道を選んだわけです。これを「醜い負け惜しみ」と呼ばずして何と言えるでしょうか。


■真の課題を見失う“炎上商法”的な罵倒

 企業買収はなかなか難しいです。こじれて訴訟合戦になることもありますが、ゴンカルベスCEOは日本をこき下ろすことで注目を集め、いわば“炎上商法”のような手口で話題を攫おうとしているかに見えます。それは結局、日米双方の企業や投資家、さらには鉄鋼市場全体を混乱に陥れるだけではないでしょうか。

 そして、今回の騒動で一体、誰が得をするのか?という点も注目したいところです。下記サイトの順位を見ても分かるように、戦う相手を間違えてはいけない。中国企業の台頭を許してはいけないのですが、このCEOにはその大局が見えていない。

 それとも、あえて1945年を引き合いに出したのです。まさか80年前と同じように、米中が接近し、日本を倒そうとする動きを再現しようとしているのだろうか?

 作家という立場から言いたいことですが、歴史に学び、未来を見据えて協調をはかる方が、よほど魅力的だし、対中政策という意味での利益も大きいはずです。


■おわりに――大局を見据えた冷静な対応を

 日本製鉄とUSスチールの買収交渉がどう転ぶにせよ、ゴンカルベスCEOが見せている“負け犬が父親に泣きつく”かのごとき姿勢は、国際社会からの信頼も得られず、自由競争の秩序をゆがめるだけだと思います。激しい言葉で相手を罵倒し、「家も車も犬も奪う」などと下品な脅しを口にしているようでは、たとえ買収を勝ち取っても、その先にあるのはさらなる対立と混迷でしょう。

 米国は一応、自由と民主主義、そして公正な市場競争を重んじてきた国です。その誇りを自任するのであれば、こんな時代錯誤の暴言を許容してはならないはず。歴史から学び、冷静に大局を判断し、必要であれば国際協調よって対中政策を考える――そうした姿こそが、真の愛国心。日本を卑下して“父親”に泣きつくような手段は、もはや時代遅れの人種差別愚策としか言いようがありません。


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