見出し画像

冠水しても予定通り試合できるスタジアム

※トップ画像出典:国土交通省 関東地方整備局 京浜河川国道事務所HP

 こんにちは!都市整備課、改め流域治水推進室です!
 さて、「まちとかわの関係を考える連載」ということで、前回は河川部局へのインタビューを通して、流域治水へのまちづくりの関わり方を考えました。

今回も引き続き、流域治水の取り組みの中で、まちづくり側でどんなことがされているのか、事例を見てみたいと思います。


試合直前に冠水した日産スタジアム周辺

 令和元年10月13日、日産スタジアムでのラグビーW杯開催の直前、台風19号による大雨で、日産スタジアム周辺が冠水していたのをご存じでしょうか。下の写真は映画「天気の子」を彷彿とさせるような浸水状況ですが、実際の試合直前の写真です。

浸水した日産スタジアム周辺(出展:カナロコ 国土交通省京浜河川事務所提供)

 この数時間後、日産スタジアムでは予定通りラグビーW杯の日本対スコットランドの試合が行われ、日本が勝利。その後も無事試合は運営され、W杯は盛況のうちに幕を閉じました。

■実は冠水することは想定内

 日産スタジアムは新横浜公園の中に建設されています。普段は下の左側の図のように公園として使われてますが、大雨になり鶴見川の水位が上昇すると新横浜公園に水が流れ込み、水を貯められるようになっています。日産スタジアムはその”上”にあります。そのため、周辺が浸水してもスタジアム自体は無事だったのです。

新横浜公園の多目的遊水地(出典:日産スタジアムHP

この写真でもピロティ構造になっていることがわかりますね。

■なぜ公園に水を貯めるの?

 「洪水時に川から溢れる水をいったん公園に流し込んで貯めておき、洪水がおさまってから川に戻す。」このように、一時的に川の水をためる場所のことを、”遊水地”と呼びます。
 遊水地に水を貯めることにより、鶴見川の水位を下げることができます。そうすることで、鶴見川の下流にある横浜市等の市街地が浸水を防ぐことができます。

町田市から横浜市へ流れる鶴見川

 この連載でも、度々話題に上がる鶴見川。
鶴見川は、東京都町田市に源を発し、多摩丘陵と下末吉台地を東流し、神奈川県横浜市街地を東へと貫流、 左岸に神奈川県川崎市街地を望みながら南東に流下、京浜工業地帯から東京湾に注ぐ河川です。

鶴見川流域図(出典:鶴見川水系河川整備計画

 しばしば洪水・氾濫を繰り返し、「暴れ川」として恐れられてきました。 鶴見川の流域は、昭和 30 年代中頃から急激に市街化が進展した結果、森林などの緑豊かな自然環境が減少し、コンクリートやアスファルト舗装で地表が覆われたことなどによって、降った雨は地中にし みこまずに一気に川や水路に流れ込むようになり、浸水被害の危険性が増大しました。

鶴見区上末吉付近 昭和41年台風4号(出典:国土交通省HP 鶴見川の主な災害
鶴見区潮田町付近 昭和57年台風18号(出典:国土交通省HP 鶴見川の主な災害
鶴見川の主な災害(出典:国土交通省HP 鶴見川の主な災害

 これを少しでも緩和するために、と、「特定都市河川」に指定され、遊水地の整備など、総合的な対策が行われてきました。

特定都市河川とは?

 「特定都市河川浸水被害対策法」により以下のように定められています。

「特定都市河川浸水被害対策法」
 都市部を流れる河川の流域において、著しい浸水被害が発生し、又はそのおそれがあり、かつ、河道等の整備による浸水被害の防止が市街化の進展により困難な地域について、特定都市河川及び特定都市河川流域として指定し、浸水被害対策の総合的な推進のための流域水害対策計画の策定、河川管理者による雨水貯留浸透施設の整備、雨水の流出を抑制するための規制、都市洪水想定区域の指定等、浸水被害の防止のための対策の推進を図る。

特定都市河川浸水被害対策法の概要(国土交通省関東地方整備局京浜河川事務所HP)

 簡単にまとめると、下記のような3条件に当てはまりリスクが大きい川について、特に集中して対策を実施するために都道府県知事が指定した川のことです。
  ①都市部を流れる河川
  ②大きな浸水被害が生じる恐れがある。(生じた)
  ③市街化の発展により河川の整備が難しい。

 この特定都市河川の流域では、雨水貯留浸透施設の整備などにより、雨水が川に集まりすぎるのを防ぐための規制が行われます。規制の対象となるのは、”雨が浸透しづらくなる”行為で、例えば、田んぼを宅地化したり、森林を運動場にするような開発行為などが挙げられます。このような開発を広い範囲(1,000㎡以上)で行う場合は、地表で雨が浸透しづらくなった分を補うため貯留施設の設置が義務づけられます

貯留施設の設置が義務付けられる開発(出典:東京都HP

あなたのまちでも雨水貯留浸透施設

 ただ貯留が必要、規制すると言われても、開発側にとっては費用はかかるものです。そんな時に使える支援制度が用意されています。

■特定都市河川では、固定資産税・都市計画税の減免。
 特定都市河川流域内では、「貯留機能保全区域指定に係る特別措置」という制度があります。都市浸水の拡大を抑制する効用があると認められる土地を貯留機能保全区域として指定し保全する場合、3年間、その土地の固定資産税等が減額されます。
(割合は市町村によって異なり2/3~5/6となります。)

■特定都市河川でない、ほかの河川でも使える助成制度
 
こちらは特定都市河川でなくても使える制度で「流域貯留浸透事業」というものもあります。
 民間企業が、貯留機能や浸透機能をもつ施設の整備等を行う場合に、地方公共団体から助成を受ける事ができます。

他にもあります、遊水池スポーツ施設

 大阪府の寝屋川流域にある花園球技場も同じ遊水地機能があります。大阪市花園球技場は日産スタジアムと同様の役割を担っています。花園ラグビー場のまわりには野球場や広い公園があり、大雨が降った時には、周辺一帯が大きな池に変身します。
 普段は公園や球場として使われていますが、大雨が降り川の水位がこれ以上上がると溢れてしまうという時に、自動的に公園一帯に流れ込むようになっています。そのおかげで、住宅地側には溢れ出さないようになっているのです。

花園多目的遊水地の貯留できるゾーン(出展:大阪府HP

平成30年7月豪雨時の記事を見ると、まるで池に変貌しております。

 花園では年末年始にかけてラグビーの全国大会が行われます。野球でいう甲子園です。今年のお正月も白熱した試合を見せてくれました。

おわりに

 このように、川の中の整備だけでなく、流域全体で洪水被害を軽減するための取組が全国で進められています。ラグビーで言うなれば「One for all. All for one.」河川管理者だけでなく、まちづくり関係者も、民間企業もそれぞれが当事者としてで取り組んでいけるのですね。

 今回は、遊水池×スポーツ施設の事例を紹介しましたが、次回以降、水辺の素敵なまちづくりについても探していきたいと思います。引き続きよろしくお願いします。

※R6.11一部修正