南町田グランベリーパークのグリーンインフラと”ちくう”の概念
みなさま、こんにちは。都市整備課です。
今回も、雨と街の素敵な関係の地域を探してきました。都市開発におけるグリーンインフラの事例として、東京都町田市の「南町田グランベリーパーク」におけるグリーンインフラを取り込んだランドスケープデザインの取組を紹介いたします。
南町田グランベリーパークとは
南町田グランベリーパークは、東急田園都市線「南町田グランベリーパーク駅(2019年10月改称)」の南側に位置し、公園と商業施設が一体的に整備され、まち全体が一つの公園(パーク)のような自然とにぎわいが融合したまちとなっています。
南町田は、1970年代に土地区画整理事業で整備されたまちですが、1979年(昭和54年)に開園した鶴間公園と、2000年(平成12年)にオープンした大型商業施設(グランベリーモール)が道路で分断されていて、街としての一体性、連続性に欠ける状態でした。
そこで、グランベリーモールが更新時期を迎えるにあたり、町田市と東急株式会社が連携・共同し、グランベリーモール、鶴間公園、鶴間第二スポーツ広場を含むエリアで、再度の土地区画整理事業を実施し、都市公園と商業施設を一つの大きな街区として(大街区化)、駅と商業施設、都市公園がシームレスにつながる空間を創出しています。
2017年2月にグランベリーモールが閉館となり、その後まちづくりが進められ、2019年11月に「南町田グランベリーパーク」としてまちびらきが行われました。
施設内には、アウトレットモールの「グランベリーパーク」、町田市の「鶴間公園」のほか、公園と商業施設をつなぐ中央に位置する「パークライフ・サイト」には、「チャールズ M. シュルツ美術館」(米カリフォルニア州)の世界唯一のサテライトミュージアム(分館)である「スヌーピーミュージアム」もあります。
雨のみち、雨のにわ
南町田グランベリーパークでは、都市型水害対策として、調整池や雨水貯留槽などの従来型の雨水流出抑制策に加え、自然環境が有する機能を活用するグリーンインフラを採用しています。
敷地周辺を囲むように石を敷き詰めた隙間の多い溝状の「バイオスウェル(雨のみち)」と、くぼ地状の植栽帯である「レインガーデン(雨のにわ)」をランドスケープのデザインへ取り込んでいます。
舗装された地面に降った雨は地面に浸透することなく地表面を流れてしまいます。また大雨の時には土の部分に降った雨も浸透が間に合わず、直接敷地の外に流れ出てしまいます。そうして集まった多量の雨水が一度に川に集まると、川が氾濫してしまう恐れがあります。
そのため、南町田グランベリーパークでは、「バイオスウェル(雨のみち)」と「レインガーデン(雨のにわ)」という仕組みを使って、敷地内に降った雨水をなるべく排水させずに、地中に浸透させることで、まち全体の雨水処理にかかる負担の軽減を図っています。
「バイオスウェル(雨のみち)」は、だいたい70センチメートルくらいの深さで帯状に掘って、そこに砂利が詰め込んであるだけの、とてもシンプルなつくりをしています。この装置に敷地の中で降った雨水をなるべく排水せずに、ゆっくりと時間をかけて土の中に沁み込ませることで、まち全体の雨水処理にていくのです。
「レインガーデン(雨のにわ)」も、雨のみちと同じように、雨水を時間をかけて浸透させていく装置です。
南町田グランベリーパークは、国際標準に達するレベルで多岐にわたりこうした努力を行ったことが認められ、アメリカの環境認証制度「LEED(Leadership in Energy and Environmental Design)」のまちづくり部門でゴールドランクの認証を獲得しています。また、国内では、第1回グリーンインフラ大賞の優秀賞も受賞しています。
その他の雨水対策
自然環境との調和を図っているグランベリーパークでは、館内のあらゆるところに植栽帯が設置されています。植栽帯への潅水には雨水を活用した潅水装置を導入し、水資源の有効活用に取り組んでいます。
また、館内5か所に、日本初の本格的な傘のシェアリングサービス「アイカサ」を設置しています。カサのレンタルで、ビニール傘の使い捨て削減に貢献しています。これも、雨との関わりの一つですね。
また、まちづくりに合わせて、もともとあった調整池の再整備も行われており、調整池の場所を公園区域に編入し、調整池を地下化して上部空間に人工芝グラウンドが整備されています。フットサルの練習場などとして利用されています。
蓄雨~雨をとどめる街づくり
このような都市開発における雨水を貯めて活用する取り組みは、様々な場所で行われています。
日本建築学会では、2016年3月発刊の日本建築学会環境基準「雨水活用技術規準」において、新たに「蓄雨(ちくう)」という概念を示しています。
日本建築学会では、環境工学委員会水環境運営委員会の下で雨水への取り組みが継続的に行われており2011年には「雨水活用建築ガイドライン」を刊行していましたが、2014年4月の「雨水の利用の推進に関する法律」の公布を受けて、その続編として「雨水活用技術規準」を刊行いたしました。
ゲリラ豪雨が頻繁に起き、異常気象が極端気象と呼び替えられるに至った今日、これまでの下水道や河川では雨水に対応できなくなり、流域全体で面的に雨水を管理することが求められています。雨を防ぎ流し去るだけという建築のつくり方を根本的に見直す必要があることから、この規準では雨を貯めて活かす「蓄雨」という新たな概念が示されました。
「蓄雨」は、すべての敷地において100㎜降雨に対応する規準を設けたもので、治水だけでなく、利水、防災、環境の4つの側面からこれらを統合的に管理する技術であり、建築を起点としたまちづくりの手法ともなります。
4つの蓄雨の概要は以下のとおりです。
①防災蓄雨
災害時の生活用水を確保する。
②治水蓄雨
万が一の洪水をやわらげる。
③環境蓄雨
自然の水循環を復活させ、ヒートアイランド対策になる。
④利水蓄雨
日常的に雨水を生活用水として利用できる。
日本建築学会雨水活用推進小委員会において制作された「蓄雨解説アニメーション」(YouTubeコンテンツ)をご覧ください。(制作・著作 日本建築学会雨水活用推進小委員会 近藤デザイン研究室)
おわりに
南町田グランベリーパークのように、都市開発や公園整備などにおいてグリーンインフラを活用して雨水を貯める・利用する取組を行っている事例は、他にもたくさんあります。
みなさんの身近な街や商業施設、公園などでも、どこかに「バイオスウェル(雨のみち)」や「レインガーデン(雨のにわ)」のようなものが整備されているかもしれませんので、散策や買い物などでどこかの街を訪れた際には探してみてください。