世田谷区の雨水貯留浸透戦略
みなさん、こんにちは!都市整備課です。
流域治水にも関連している、「グリーンインフラ」という言葉をご存じでしょうか??
令和5年1月、世田谷区にある小田急線上部の利用施設が第3回グリーンインフラ大賞に選ばれました!おめでとうございます!
世田谷区では、昭和後期から雨水貯留浸透対策が積極的に行われていて、グリーンインフラを用いた雨庭づくりなども盛んです。
今回は、世田谷区役所豪雨対策推進担当参事の鎌田さんに、世田谷区の取組についてお伺いします。
1.今までの取組
世田谷区民は環境意識が高い?
■鎌田参事:
実は、世田谷区では道路の舗装を透水性のアスファルトにすることを昭和の時代から取り組んでいます。
■柞山(関東地整 都市整備課):
昭和の時から雨水の浸透に積極的だったんですね。
近年は、全国各地で取り組みが増えていますが、昭和~平成の時から盛んだったのには、何か理由がありますか。
■鎌田参事:
世田谷区には国分寺崖線というところに湧水があって自然環境が良く、それを守っていきましょうという雰囲気があります。地下水涵養とか、地下水を大切にしていきましょうといった気運もあって、雨水浸透施設の整備や助成制度もあります。そういった意味では、自然環境に寄り添うような対応をしてきた地域です。
■柞山:
世田谷区は、雨水浸透が重要という意識がむかしから住民の方々に根付いているんですね。
世田谷区で取り組むグリーンインフラ
■鎌田参事:
近年は浸水被害軽減のための流域治水対策のひとつとして、雨水貯留浸透施設とグリーンインフラを促進しています。例えば、企業がマンションを建てたり、家を建てる時には雨水流出抑制、雨水浸透ますなどを作ってくださいということを定めています。
最近だと、冒頭でご紹介した下北線路街という名称の中で広場整備して、グリーンインフラ産業展でグリーンインフラ大賞を頂きました。その他にも、レインガーデンなどの整備を、いろんなところで取り組んで頂いています。
住民による雨水貯留浸透対策の重要性
■鎌田参事:
世田谷区の人口は約90万人いて、住宅都市と言われます。そのため、世田谷区内は民有地が多く、7割近くを占めています。郊外の田んぼダムのような対策ができないので、区民の皆さんのご協力をいただかないと、なかなか流域治水の取り組みは難しい状況です。そのため、住民による雨水貯留浸透の取り組みが重要です。
住環境条例
■柞山:
どうやって住民の方々にご協力いただいているんでしょうか。
■鎌田参事:
世田谷区では、マンション等を造ったりする時に豪雨対策の一環として雨水浸透施設を設けていただくことを、住環境条例の中で定めています。
また、「雨水流出抑制施設の設置に関する指導要綱」というものがあり、建物を建てる時は雨水流出抑制対策をやっていただくように定められています。ただ、各家庭についてはなかなかそこまでできないので、お願いする形で、「雨水浸透ますや雨水タンクの設置に対する助成もありますよ」と取組を呼び掛けています。
2.区としての取組
取組を進める庁内連携と地域連携
■梅川さん(オリエンタルコンサルタンツ):
雨量10mm分の対策を進めるという目標がある時、例えばグリーンインフラを整備するのか、雨水貯留タンクを設置するのか、いろんな方法がありますよね。区全体で取り組むというのは、具体的にどうやって取り組むんでしょうか。
■鎌田参事:
グリーンインフラは幅広い概念ですので、世田谷区では庁内で連携して取り組んでいます。下図がグリーンインフラによる取組体系図です。
実際に道路工事をする部門や、公園整備の部門、あとは、学校などの公共施設などにも貯留浸透施設を設置していますので、営繕の部門があります。いろんな部門が協力しながらグリーンインフラの取り組みを進めているところです。
外部団体は、世田谷トラストまちづくりや、区内にある東京農業大学の方々などと連携しています。
■梅川さん:
色んな施設整備を受け持っている課が違うと、(とても悪い表現をすると)押し付け合いになったりしませんか。誰が旗振り役となって、まとめていかれるんでしょうか。
■鎌田参事:
庁内連携組織の事務局は、私のいる「豪雨対策・下水道整備課」が担当しています。
それとは別にその雨水流出抑制について、例えば「どういう広さの建物だとこれぐらいの規模の流出の抑制をしてください」とか、「舗装道路だと透水性舗装どれぐらいをやってください」とか、そういうところは条例や要綱で決まっているので、なるべくそれをクリアするようにお願いしています。
ただ全てやればいいというわけではありません。例えば、地下水位が高いところに浸透施設を設けても効果はありません。大規模盛土がなされたところに浸透施設を設けると、土砂災害につながったりする危険性があるので、そういったことがないように地域特性に合わせてできるものは作ってくださいとお願いをしています。
■梅川さん:
大きな方針は条例や要綱で決めていて、それぞれの課ができることに取り組むということなんですね。
東京都の目標を超えろ!世田谷区豪雨対策行動計画とは
■柞山:
流域の対策として、区としてどのような目標をたてられているのでしょうか。
■鎌田参事:
令和元年台風第19号の時には、内水被害が多くありました。それらも踏まえつつ、令和4年に「世田谷豪雨対策行動計画」を改定しました。この中では具体的な流域の対策量について数値目標を位置付けています。
■柞山:
これは区独自の目標でしょうか。
■鎌田参事:
東京都で流域毎に決められている目標値がありますが、それだけでは浸水被害を防げない現状があるため、世田谷区ではより大きな目標値を流域毎に定めて取り組んでいます。
具体的には、目黒川、谷沢川・丸子川、野川、呑川流域と、大きくは4つの流域毎に目標値を立てています。下の表の一番右側の数値が、東京都が定めた対策目標量です。左側が実際に世田谷区の取組んだ実績です。目黒川、谷沢川・丸子川流域では目標値に近い状況です。そのため、さらに高い目標として、世田谷区で独自に定めた目標値が真ん中の赤枠の中の数値です。
例えば目黒川流域では東京都の目標では29.5万m3ですが、区の目標では48.2万m3にしています。呑川流域では10.3万m3と東京都の目標と同じになっています。このように、ある程度流域毎に濃淡付けているという状況です。
呑川流域においては、令和2年度末時点で、都・区の目標値から大きく下回っている状況です。こういう状況を何とかしなければならないというのが今の課題です。
■梅川さん:
呑川流域が目標値から乖離がある状況というのは、どんな要因がありますか。
■鎌田参事:
呑川流域は戸建てが多い地域で、土地柄的に不利ということです。マンションなど大きな建物があまり無いため、一気に大きな貯留浸透施設を作ることができません。戸建ては建替えも頻繁には無いため、地域の皆さんのご協力なくしてはなかなかその時間10ミリ対応が進んでいかないのかなと考えております。
■梅川さん:
地域毎の特徴を踏まえた目標設定というのも重要なんですね。
3.住民のとりくみを促す戦略
助成制度の工夫 ーセット割で上限UP
■鎌田参事:
流域対策としての区の助成はいろいろあります。単に、雨水タンクに対する助成だけでなく、セットの助成っていうことで、「シンボルツリーと雨水タンクの設置をセットで行う人には、助成の上限額を上げます」というような試みをしています。なるべく相乗効果が持てるような形で事業を展開しています。
広報戦略 ー誰にいつどんな情報をどうやって届けるか
■鎌田参事:
住民を巻き込んでやっていくために、助成の他にPR活動に力をいれています。「グリーンインフラを拡げていきましょう」というタイトルで、庁内横断しながらグリーンインフラの切り口で、雨水に関する助成だけではなく、みどりに関する助成も掲載させていただいています。せたがやトラストまちづくりなどの助成もパンフレットに掲載しています。
ですが、地域の区の施設にパンフレットを置いているだけだとなかなか・・・。
■柞山:
たしかに。置いてあるだけだと、関心・興味がある人しか手に取らないということもありますよね。
■鎌田参事:
そうです。ですので、取り組んでくれそうなお宅には個別でポストに入れさせていただくことも検討しています。
過去に耐震化を進めようとしたとき、旧耐震の建物を把握して、旧耐震のお宅に、地震の時に崩れます、というちらしをポスティングさせていただくとともに、助成もこういうのがありますということをお知らせしました。そうすると、かなり反響があって、耐震の診断をしてみたい問い合わせが多く来た事があるんです。
やっぱり置いておくだけじゃなくて、積極的に広報活動を取り組んでいかなければ、必要なところに届かない、と思っているところです。
■山川さん(オリエンタルコンサルタンツ):
タイミングも重要かもしれませんね。雨の時期に集中的にPRするだとか、災害起きた後に周知するとか、そうでもしないと自分ごとになりづらいですよね。
■鎌田参事:
そういう点、区長は機を逸しません。梅雨前にFM局に出演し、「これから雨の時期の話になるので、区でも雨水タンクだとか雨水浸透施設の助成をやっているので是非活用してください」というお願いをしていますね。
取組を紹介して活動を盛り上げる ーグリーンインフラライブラリー
■鎌田参事
あとは、住民のみなさんに知っていただくために、ホームページ上に今まで区内で整備した雨水流出抑制を中心とした例を事例集の形で、「せたがやグリーンインフラライブラリー」として掲載しています。
実践的な啓発活動 ーグリーンインフラ学校
■鎌田参事:
その他、地域の方々向けに自分でもできる雨庭づくりということで、「世田谷グリーンインフラ学校」というのを実施しています。実際に講義だけではなくて区の公園を活用して実際に雨庭を作っています。
雨庭を作っていただいた方は環境問題や豪雨対策関係の話にすごく詳しい方がいらっしゃいます。そういう方には、ここで雨庭づくりを行った経験をご近所の皆さんや知り合いの方々に、どんどん広めて伝えて欲しいっていうお願いをさせていただいているところです。
■柞山:
区全体に対してはFM局などを使う。一方、取り組んでくれる可能性が高い人に対しては個別訪問でピンポイントの広報を行ったり、住民の方々のコミュニティに頼るなどという、いろいろな状況に応じた広報をされているんですね。
4.まとめ
最初お話を聞き始めた時は、世田谷区住民の意識が高いだけなのかと思いましたが、それだけではなく、区の取り組みとして条例や助成制度、庁内の連携、PR戦略など、様々な工夫をされていることが分かり、とても勉強になりました。
昨今、局地的な豪雨による内水対策に悩まれている自治体は多いですので、他の自治体でも世田谷区の取組は参考になる部分があるのではと感じました。
★このメンバーでお話を伺いました★
インタビュアー
(右から2番目):柞山このみ(関東地方整備局 建政部 都市整備課 技術指導係長)
(左端):牧野文香(関東地方整備局 建政部 都市整備課 専門員)
インタビュー補助
(右端):山川仙和((株)オリエンタルコンサルタンツ)