イノベーションの主役は誰??ーミズベリングディレクター岩本唯史氏インタビュー(後編)
皆さんこんにちは!都市整備課です。
今回も前回に引き続きミディレクターディレクターで水辺総研代表取締役・岩本唯史さんのインタビューをお届けします。前回のインタビュ―記事では、ミズベリングの取り組みやイノベーションについての考えをうかがいました。
後編は、河川分野と都市分野の連携や、情報発信の仕方がテーマです。それでは本編へどうぞ!
3. 川と都市の境界線を超えていけ!
〇ともに議論する
■岩本さん:
東京都の足立区に、高台の整備とあわせてまちづくり検討している地区があります。そこで、かわまちづくり支援制度で何かできないかという話になり、面白い案を思いついたんです。
老朽化している下水道施設の上に広場を造るというコンセプトで、高台施設のイメージを僕が作ってみました。
■岩本さん:
河川堤防には、環境施設などを設置できる堤防天端はあるんですけど、広場を造れるような堤防天端はないんですよね。広場を作れる天端を道路敷や、高規格堤防の上に造れたら、河川敷の利用がどんどん進むと思うんですね。
このエリアは水害が発生したら全員避難することが前提になっています。でも、高齢化が進んでいることもあって、避難が難しい人もいると思います。そういう人たちが上に登って、水が引くまで待機できるような堤防天端を計画したら社会課題解決につながるのではないかと妄想しました。
これまでは、河川管理者から「堤防に近づかないように。」と言われていたのですが、堤防を通って安全なところに逃げられるようにした方がいいのではないかと僕は思います。
そんな議論を進めるときに、PLATEAUはすごく使えます。災害が起きた時のリアリティを可視化させて、幅広い人たちとの合意形成を図るんです。
■岩本さん:
河川を専門にやっている人たちは、建築業界の人たちがCGのツールを使いこなせるということをあまり知らないみたい。河川の専門家だけでなく、建築業界の人も含めて、あらゆる案を皆で議論して社会的合意を形成することが必要な時代なんだと思います。
建築家は建築条件に則って、堤防が崩れないことを前提に建築を造ります。でも、水害の発生頻度が高くなっているので、建築条件の見直し、つまり堤防が崩れて浸水するかもしれないことを前提にした建築も必要になってきている。つまり、建築家だって川の状況を考えなければいけない時代ということ。
〇お互いを理解する
■今(関東地整 都市整備課):
川と町を接続するような取組は、できる人が少ない印象があります。
■柞山(関東地整 都市整備課):
行政においては、「川は川。町は町。」という縦割り感がありましたね。最近は、流域治水やかわまちづくりの考え方が浸透してきて、少し状況が変わってきた気がしますが。
■岩本さん:
河川敷に地域スポーツができるような施設を作って、色んな人に活用してもらうのもいいですね。
河川敷の運動場は、週末はすごい使われているんですけれど、平日は全く使われていません。だから、河川敷にキッチンカーを置いたりやカフェを誘致して、子供たちがスポーツの練習をしている間に親御さんが時間をつぶせるようになるといいですよね。
■岩本さん:
僕は今、こんな風に施設を融合させることに大きな可能性を感じています。地域スポーツのことを悩んでいる人がいたら、かわまちづくりのこと、河川敷を有効活用するということを考えてほしいです。
こういうことを言える人がいっぱい増えてくると動くと思うんですけれど、そこに気がついていない人たちにどう気がついてもらえるか、ですね。
■柞山(関東地整 都市整備課):
川と都市のそれぞれの領域は尊重しつつも、お互いに理解し合わないと分からないこともあるんですよね。
私が河川管理者だった時は、町のことは町側がやるとしか思っていませんでした。流域治水とは言いつつ、市や町がどのように考えているのかは意識できていませんでした。河川管理者側から、市や町に対して「こんなアプローチができますよ。」と伝えることもできていなかったと思います。
お話を伺って、河川側と都市側でお互いに色々なことができるんだって分かった気がしました。
4. 情報を当事者にどう届ける?
■岩本さん:
僕は、「プッシュ型規制緩和」がキーワードだと思っています。
河川敷の利用を促進するために規制を緩和して待っていても、詳しくない人たちにとってはどうでもいい情報なんですね。「これやったらすごいことになるかもよ!」と直接言ってあげないと動いてくれないです。規制緩和をしている当事者が、「絶対いいですよ!」と営業しに行くのがとても大切です。
■今(関東地整 都市整備課):
スマホのポップアップ通知みたいにこちらから営業するということですね。
■岩本さん:
通知を見て、「あ、何かやらなきゃ!」と思いますよね。
行政の人たちは、全員に届かせないといけないと思うことがすごく多いでしょう。でも、イノベーター理論で言うと、全員に届くものは、結局、届かないんです。まずはイノベーター(革新者)が受け取って、そしてその先にアーリーアダプター(初期採用者)が出てきて、その次にアーリーマジョリティ(前期追随者)が参入してきます。
■岩本さん:
私たちが、やる気になった人たちをちゃんと扱わなければいけない理由は、イノベーター理論と全く一緒です。
最初のイノベーターとアーリーアダプターが情報を認知をしてからでないと、その次のステップにはいけません。
いきなり全員に届かせるような新聞紙面広告を打ったって効果が薄いんです。だから、ミズベリングのような情報発信がとても大切です。
■岩本さん:
国から何らかの方針が下りてくるのを自治体が待っていた時代から、自治体側から「こんなことがしたい。何かいいメニューはないか?」と国に問いかけて、国もそれに答えるという時代が今まさに来ているわけです。
それで輝くのは市民、企業の人たちです。彼らがこの機会を使って、価値をどう創出していくかというところにつながってくるわけですね。
5. ミズベリングの10年とこれから
■岩本さん:
来年でミズベリングをはじめて10年目なんです。本当に変わってきました。まだ知らないという人もいるんだけれど、それでも本当に浸透したなという感じですね。
若い人と話していて、いいアイデアがすぐ実現できる社会を目指している人が多いんですね。優れたアイデアを実現させてあげられる社会的環境。やる気がある人たちが重要なのではなくて、”やる気がある人を支える人たち”が大切です。ですが、やる気がある人たちを支える環境が現状まだない。そのことを前提にして、いいアイデアを提案しなければいけない。
将来的には、いいアイデアがちゃんと合意形成されて実現される社会を目指したほうがいい。でも今はまだ、いいアイデアかどうかよりも、アイデアを社会的に合意できるかを考えているフェーズです。その社会的なフェーズを認識することが大切です。
ミズベリングの活動を通して、やる気のある人たちを支えるローカルの大切さが色々なところに伝わって、いいアイデアと出会いたいと思うローカルの人たちがたくさん増えてくるに違いないと思っています。
それは、今後10年で達成されるビジョンではないかなと思っています。
それまで僕は屍になって、僕を越えていく若い人たちが出てくることを楽しみにしているという感じですね。
〇都市行政への応援メッセージ
■今:
やはり河川を都市の一部として見て考えられる人は少ない気がします。このnoteの連載は、河川と境界領域を攻めていくような仕事だと認識していますが、関心を持つ人がもっと増えていくように発信していきたいです。
最後に、自治体の都市部局の人たちにメッセージをお願いします。
■岩本さん:
地方自治体の都市部局の人たちにとっては、これからどうやって地域の中にチャンスを作っていくか考える時間が必要です。
労力をかける時間も手間もないというのもよく分かりますし、大変だと思うんです。でも、ぜひ、「チャンスをつくる町」みたいなことをテーマにして、都市行政に取り組んでもらいたいです。
幹部の人たちは、今ある都市課題だけではなくて、新しい創造的な取組を促すようなチャンスをぜひ都市行政の人たちに渡してほしいと思います。その中に解決すべき社会的課題はたくさんあって、そこにはイノベーションのチャンスがたくさん眠っていると。それが起業を促したり、雇用を生んだりします。
雇用を生むような効果をぜひ狙って、意思決定をしていくと、都市行政だけの問題ではなくて、地域自治に役立つことになるのではないかなと思うんです。
■今:
社会的課題はいっぱいあるけれど、その中にイノベーションの種が眠っている。励まされる言葉です。本日はどうもありがとうございました。
★このメンバーでお話を伺いました★
インタビュアー
(左から2番目):今佐和子(関東地方整備局 建政部 都市整備課 課長)
(右から3番目):柞山このみ(関東地方整備局 建政部 都市整備課 技術指導係長)
インタビュー補助
(右から2番目):山川仙和((株)オリエンタルコンサルタンツ)
(左端):梅川唯((株)オリエンタルコンサルタンツ)
(右端):日向惠里名((株)オリエンタルコンサルタンツ)