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教えて流域治水!まちづくりはどう関わる?

 こんにちは!都市整備課、改め流域治水推進室です!
 さて、前回、「まちとかわの関係を考える連載、はじめます」ということで、川と街が大きく関係してきていることを学びました。
 今回は、流域治水について都市部局の関わり方を考えるべく、都市整備課(の土木に明るくない建築職)から関東地方整備局 河川部 河川計画課にインタビューしてきました。


1.これまでの治水と流域治水の違い

流域治水について話す河川計画課の後藤課長(左)と野谷技官(右) 

■河川計画課 野谷技官:
 従来の治水は、河川区域を中心に、河川・下水道・砂防・海岸などの管理者が主体となって行うハード対策が主流でした。ハード対策とは、例えば堤防整備など。管理者それぞれの役割が明確に区別されていて、対策を行う場所が河川区域等に限定されていました。

 しかし、近年の大雨による甚大な被害や気候変動を受けて、「流域治水」という考え方が生まれました。「流域治水」とは、国・都道府県・市町村・企業・住民など、あらゆる関係者が協働して進める治水対策です。対策を行う場所は、河川区域に限らず、”氾濫域や集水域”を含めた流域全体で、対策を実施していきます。

■都市整備課 牧野専門員:
 「氾濫域」は、川からの氾濫により浸水するエリアですね。「集水域」とはどのような範囲のことですか?

■河川計画課 野谷技官:
 「集水域」とは、降った雨が河川に入ってくるエリアのことで、「流域」とも言います。たとえば荒川だと、下図のピンクの枠内に降った雨が全て荒川に流れていきます。この範囲が「集水域(荒川流域)」です。

荒川流域図(出典 国土交通省HP)

■河川計画課 野谷技官:
 流域治水においては、大きく3つの柱に分けて対策を行っています。

【流域治水の3つの柱】
①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策
②被害対象を減少させるための対策
③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策

【流域治水の施策イメージ】(出典 国土交通省HP) 

2.  都市部局も住民も、みんなで取組む流域治水。

■都市整備課 今課長:
 河川管理者だけでなく、多くの人が施策に関わっているんですね。施策のイメージ図にある「利水者」というのはどのような人たちで、流域治水にどのように関わっているのでしょうか。

■河川計画課 後藤課長:
 ダムを例にすると分かりやすいです。「利水者」というのは、発電や農業のためにダムの水を使う権利を持っている人たちのことです。利水者は、発電、農業や水道に使うためにダムに水を貯めて、必要なときに必要なだけ水を使っています。

 逆に、河川管理者が管理する治水のダムは、洪水が来る前には、ダムから放流して容量を空けて、水を貯められるようにする必要があります。

 流域治水においては、利水者にも「治水のためにダムを空けてもらう」ことが必要になります。大雨が降りそうなときには、利水者の方々にダムの容量を空けるために、事前に水を流していただくことになるのです。

ダムの事前放流(国土交通省HP)

■都市整備課 今課長:
 今までの治水では、「河川管理者が河川区域の中で対策する」という考え方が主流だったところが、利水者も対象に広がったということですね。

■河川計画課 後藤課長:
 そうです。利水者だけでなく、多くの人に協力してもらうことになります。

■河川計画課 野谷技官:
 関東地方整備局管内では、8水系16の一級河川(令和4年12月現在)でそれぞれの流域治水協議会を立ち上げ、流域治水プロジェクトを策定しています。協議会のメンバーは各河川で異なりますが、自治体、気象台やJRなど鉄道事業者の方にも入っていただいて、流域治水で定めた目標に向けてどういった対策に取組むかを協議しています。

鶴見川水系流域治水プロジェクト 位置図(国土交通省HP)

■都市整備課 牧野専門員:
 流域治水協議会ではどういったことを議論しているのでしょうか。

■河川計画課 野谷技官:
 国や自治体、関係者などが一体となって流域治水を推進するために、具体的には何をするか、対策を議論しています。
 たとえば、鶴見川流域では
①氾濫をできるだけ防ぐ・減らすための対策として、
 ハード整備の堤防整備や護岸整備、
②被害対象を減少させるための対策として、「雨水貯留浸透対策」、
③被害の軽減、早期復旧・復興のための対策として、
 マイ・タイムラインの作成など
を行っています。このような対策を計画的に推進するために、短期・中期の目標の達成に向けたロードマップも作成しています。

鶴見川水系流域治水プロジェクト ロードマップ(出典:国土交通省HP)

■都市整備課 今課長:
 協議会には自治体の都市部局も入っているのでしょうか。

■河川計画課 野谷技官:
 都市部局も入っているところが多いです。都県や市町村などがまちなかで実施する対策もあるんです。

■都市整備課 今課長:
 都市部局も流域治水の当事者だということですね。 
グリーンインフラのロードマップも作られているんですね。グリーンインフラの取組としては、緑地保全やかわまちづくりも含まれていますね。こういった取組は、都市部局の仕事にも関係するなという感じがします。

鶴見川水系流域治水プロジェクト ロードマップ(出典:国土交通省HP)
グリーンインフラのイメージ(出典:UR都市機構HP「グリーインフラとは」

■都市整備課 牧野専門員:
 流域治水プロジェクトの内容は、周辺の住民の方にも説明しているのでしょうか。

■河川計画課 後藤課長:
 各河川を管理している河川事務所が、いろいろな広報手段を用いて工夫しながら住民の方々にお伝えしています。住民の方々に取組んで頂く対策としては、避難や備蓄などが挙げられます。
 また、例えば鶴見川流域では、個人が家を建てるときに雨水貯留浸透施設の整備する場合もあったりします。

3.  まちづくりでできる流域治水

■河川計画課 野谷技官:
 鶴見川の流域治水プロジェクトでは、7つの項目・10の指標を使って対策の進捗を示しています。河川の整備率や流出抑制対策の実施施設数などが指標になっています。

鶴見川流域における流域治水プロジェクトに関する主な指標(出典 国土交通省HP)

■都市整備課 今課長:
 まちづくりに関しては、防災指針(立地適正化計画の一部)の作成が指標になっているのですね。
 流出抑制対策というのは、どういう内容ですか。

■河川計画課 野谷技官:
 例えば、学校の校庭貯留等が該当します。鶴見川流域では、雨が降ったときに普段はテニスコートとして使用している場所に雨水を貯留する取組を行っています。鶴見川流域には、このようにな河川への流出を防ぐための施設が209もあります。(令和2年度時点)

テニスコートを貯水池として利用している様子(出典:鶴見川流域治水プロジェクト)

 ■都市整備課 牧野専門員:
 テニスコートに貯留した後、水は排水されるのですか。

■河川計画課 野谷技官:
 河川の洪水が落ち着いたら、溜まった水は自然に排水されます。洪水対策には、河川に集まる水量のピークを抑えるという考え方が基本にあるんです。

■都市整備課 柞山係長:
 1年間365日のうち、大雨が降って水が貯まったら1~2日はテニスコートを使用できなくなるけれども、そもそも大雨が降っているときにテニスコートは使わないですね。365日のうち364日、通常通りに利用でき、非常時には治水に役に立つというのが一石二鳥感がありますね。これは、流域治水の取組で重要なポイントですね。

■都市整備課 今課長:
 その取組が安全にもつながるので、河川管理者だけでなく、都市側ももっと主体的に取組まないといけないということですね。

雨水貯留浸透施設の整備イメージ(出典:国土交通省HP「カワナビ」

■都市整備課 柞山係長:
 流域治水の取組の中にグリーンインフラが位置付けられていましたね。グリーンインフラは、防災にも役に立つということでしょうか。

■河川計画課 後藤課長:
 まさにその視点が重要です。緑地や農地保全の取組は、雨水浸透、流域貯留にも資する部分ですので、流域治水の一環として推進しています

■都市整備課 柞山係長:
 国土交通省が実施している水辺の楽校(みずべのがっこう)などの環境学習では、動植物に関する環境に特化しているイメージがありますが、あわせて防災にも役立つことを理解していただくと、住民の方々にも流域治水という考え方がもっと広がりそうに感じます。

(出典:国土交通省HP「水辺の楽校プロジェクト」

4.なぜまちづくりの取組みが大切なのか

■河川計画課 後藤課長:
 鶴見川沿川は上流から下流までかなり市街化が進んでいて、流域に雨が降ると一気に川に集まってきます。
 流域のところどころに水を貯めておいてくれると、「川に一気に集まる」という現象が緩和されて、川の水位が急激に上がるのを抑制できます。それによって、川の水が堤防を越えるリスクを減らすことができます。雨を田んぼに貯めたり、調整池に貯める流出抑制対策は、川のピーク水位を下げる意味合いがあります。

流出抑制対策による河川流量低減効果のイメージ(出典 国土交通省HP)

■都市整備課 今課長:
 洪水のリスクが減ってから、まちなかに貯めていた水を川に流すんですね。台風が通過して晴れたとしても、まだ河川の水位は高いままですから、大雨時にお風呂の水を流すときは、しばらく待って、洪水のリスクが減ってから流さないといけないということですね。

■河川計画課 後藤課長:
 例えば荒川の沿川には何百万もの世帯が住んでいるので、台風の日にみんなが一斉にお風呂の水を流すだけで、内水氾濫のリスクが高まってしまいます。

■都市整備課 柞山係長:
 住民としての私たち自身がいかに川への負担を減らすかを意識することも大切なんですね。

■河川計画課 後藤課長:
 河川への負担を減らすためには、都市整備とあわせてもっと様々な対策を行わなくてはいけません。鶴見川流域は取組が進んでいて、企業や個人、NPOが流域に水をためる対策を進めていただいています。


5.  流域治水プロジェクトのこれから

■河川計画課 後藤課長:
 実は、現在の流域治水プロジェクトの多くの取組は、今までにない新しい取組ということではないのです。各自治体等が実施中の施策から、流域治水に資する施策をプロジェクトに位置付けています。
 その上で、各市町、都県がもっと色々な取組ができないか、個別の施策を検討しています。そういった施策も実施体制が整えば、随時、流域治水プロジェクトにも反映していきます。

 河川側としても、単純に「治水に協力して欲しい」という広報をやると、「河川事業が頑張って浸水解消して欲しい」とか、「都市の開発抑制につながることはやりたくない」という方向性の意見が出てくると思います。
 そのため、「我々河川管理者が河川水位を下げるんだけども、都市側としても流域治水に取組めばもっと被害を軽減できます」という、共により良い方向を向けるよう打ち出していきたいです。その説明ができるように努力していきます。

6.  おわりに

流域治水について教わった感想を伝える牧野専門員(右列真ん中)

■都市整備課 今課長:
 今日お話しを聞いて、私は、①「都市側も流域治水の当事者」②「もっとまちなかでも溜める場所を作っていく努力を」という2点、肝に銘じます。

■都市計画課 牧野専門員:
 私が一番印象に残ったのは、幅広い分野における取組によって、洪水時の川のピーク水位を下げる対策をしているということでした。これまで知りませんでした。特に、台風が来てから2、3日はお風呂の水を流さないことが有効だというのは、初めて知りました。そういった知識が広まれば、全然河川と関わっていない人でも、何かしら流域治水に協力できるのかなと思いました。建築を指導する立場としても、一般の方ができる対策を進めていければいいなあと思いました。
 今日はこういったことを学ばせていただいて、本当にありがとうございました。

ーインタビュー終了ー

 今回の河川計画課へのインタビューでは、流域治水とひとことにいっても、いろいろな取組やいろいろなプレイヤーがいることがわかりました。それぞれの役割を考えながら、関係者とどう連携していくか、が重要になってくるのだと思います。


都市整備課も河川計画課と連携して流域治水に取組みます

★このメンバーでお話を伺いました★
左から順に
後藤祐也(関東地方整備局 河川部河川計画課 課長)
野谷直登(関東地方整備局 河川部河川計画課)
牧野文香(関東地方整備局 建政部 都市整備課 専門員)
柞山このみ(関東地方整備局 建政部 都市整備課 技術指導係長)
今佐和子(関東地方整備局 建政部 都市整備課 課長)