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「貯める」だけでなく「使う」SDGsな流域治水 ~渡辺亮一先生 インタビュー 前編

こんにちは。都市整備課です。
今回は、はるばる福岡にやってきました!
ここ福岡には、なんと100mm/1時間の雨が降っても、下水道に流れる水が「ゼロ」というご自宅をお造りになった福岡大学の渡辺教授がいらっしゃいます!

雨水流出率0%の渡辺邸(出典:ミツカンHP

渡辺先生は、環境に配慮した河川の整備や、水害・防災・水循環に関する研究に従事されています。
今回は、地域との協働によって、流域治水を推進するためにどんなことができるのか、お話を伺いたいと思います。


1.公共施設でできる流域治水

■柞山(関東地整 都市整備課):
ここ、福岡の地域で取り組まれている流域治水の取組にはどんなものがありますか。

福岡大学 渡辺先生

■渡辺先生:
今、私たちがいる福岡大学周辺は、1970年代から開発が進み、市街化調整区域から外れてさらに開発が進められ、ため池が埋め立てられたところが大学の敷地になっていったという歴史があります。
近年は豪雨による浸水被害も発生しています。そのため、過去にあった治水機能をキャンパス内にグリーンインフラで再生することが責務だと考えています。
私は、大学の敷地を使った流域治水というものを進めたいと考えています。

福岡大学周辺の土地利用の変化(渡辺先生提供)
平成 21 年 7 月中国・九州北部豪雨時の樋井川周辺の浸水被害(出典:樋井川水系河川整備計画)

■渡辺先生:
このキャンパスは、樋井川の上流に位置していますので、雨を貯留することによって、下流での浸水被害を低減できる効果は大きいと考えます。

ただ、福岡市内、特にこの大学の周辺には田んぼがありません。あるのは住宅地かグラウンドです。
田んぼがあれば、「田んぼダム」を実施すればよいのですが、福岡市内での流域治水は、違うことを考えなければなりません。

福岡大学のある七隈川の流域面積は428ヘクタールで、そのうち大学の面積は約1割を占めています。下流域には浸水被害が発生しやすい所があるため、流域の上流に位置する大学全体で雨水を貯留することは、浸水被害の低減に効果があると考えられます。


福大サッカーグラウンド下にため池

■渡辺先生:
私が提案したものでグランド貯留というものがあります。通常時はグラウンドとして利用することが可能で、大雨のときにはため池になる「ため池グラウンド」を造りませんかという話を福岡県に提案しました。
大学の敷地は、もともとため池があったところです。そのため、自然に水が集まってきやすい地形になっています。

地下に貯留槽のある福岡大学のサッカーグラウンド(筆者撮影)
福岡大学サッカーグランドの雨水貯留の仕組み(出典:渡辺先生提供)

■柞山:
大学の構内であれば、土地利用がコロコロ変わったりせず、継続的に貯留の効果が期待できますね。

■渡辺先生:
さらに、隣には体育館があります。ここは避難所に指定されているので、災害があったら2000人ぐらいの人が集まる可能性があります。横のラグビー場もテントを張るなどして、防災拠点としていろいろ使えるでしょう。
しかし、もし断水した場合は、避難者が使う水がないのです。そこで、その下に貯留タンクを造っておけば、トイレを流したり洗濯したりするぐらいの水の確保がすぐできる避難所として良いと思います。

■柞山:
なるほど!
今までは、「貯める」や「流出を抑える」ということを中心に流域治水を考えていて、貯めた水を「使う」というところまでの考えが及ばなかったです。

■渡辺先生:
しかもグラウンドから濾過された水なので、とてもきれいな水が下にたまります。これだけ大きいタンクなので、大学で常時トイレや散水に使ってもすぐにはなくならないです。防災ため池のように、消火用水にも使えると思います。

■柞山:
普段はサッカーに使えて、貯めた水を日常利用もできるということは、災害時だけでなく日常のメリットがすごく大きいですね。

グラウンド貯留の説明状況

学校ダム

■渡辺先生:
福岡大学のグラウンドは民有地ですが、この仕組みは公立の小学校・中学校でもできます。
ため池は隣接して複数あっても浸水被害に対する低減効果があまりないですが、人口規模のある所ごとに1・2か所あれば、すごく効果があります。小学校区というのは人口規模で決めていて、学校のグラウンドはまちなかである程度点在しているので、ちょうどよい立地なのです。

ところで、福岡市では小中学校のグラウンドを全部天然芝にしようという計画が検討されています。

しかし、現状では全ての学校で実現するのは難しいと思っています。なぜかというと、芝を維持するには非常に大量の水が必要だからです。現状では水道水でまかなう必要があり、ものすごくお金がかかります。
そこで、芝にするとき、下に雨水タンクを造って貯留機能を持たせることで、日常はそのタンクに溜まった水を使って芝を維持し、雨の時は水を貯めるという仕組みは、これらの問題は解決します。
最終的にカーボンニュートラルで、二酸化炭素排出量の低減量を示せれば取組が進むと思います。
文科省は所管している学校での二酸化炭素排出の低減量を、自治体は水害も抑止できてその分で公共事業費が減るということを示すことができればよいと思います。

■中尾さん(オリエンタルコンサルタンツ):
「田んぼダム」というキーワードがありますが、「学校ダム」というのが実施できそうですね。

■梅川さん(オリエンタルコンサルタンツ):
「田んぼダム」は、田畑を有するような限定的なエリアでしか実施できないと思っていましたが、この取組はまちなかでもできますね。

2.都市でできる流域治水

都市側のデメリット

■中尾さん:
流域治水をどうやって都市側で推進していくかというのが、今回のテーマの一つです。
流域治水によって、都市側のメリットがあるとよいのですが。

■渡辺先生:
そこが一番の問題点と思います。
例えばこれまで地下貯留タンクで、山王公園の下とか、あるいは天神地区等、レインボープランで大きな貯留槽を造ってきていますよね。

確かに、水害を防ぐために投資し、ある程度の安全度は確保できました。 
ただ、このやり方のデメリットは、①予算規模が大きいということ、②限定された区域しか守れないということ、もう一つは、③貯めた水を使えないということです。
山王公園や天神地区だと、低地の地下に水を貯めるため、ポンプを使って博多湾に排水するしかないんです。わざわざ電気を使ってポンプでくみ上げないと排水できないということは、二酸化炭素も排出されます。都市側のメリットが少ないことや、持続可能な社会の実現を考えると、このやり方では福岡市全域では実施できません。

雨水貯留タンクと雨庭という選択

そこで、貯留した水を使うという前提と、緑を豊かにするという両方の考えを取り入れた、ハイブリッドな流域治水を実施することが、安全安心なまちづくりにつながると考えています。
それは、個人住宅での雨水貯留タンクの設置と雨庭です。雨庭とは、雨が浸透しやすい庭のことです。

第一種低層住居専用地域の建ぺい率の限度は大体50%ですが、その庭をコンクリートで埋めるのではなく、土を少し改良して空隙率40%程度で造って、雨水タンクの容量以上の水を全て雨庭に導きます。大雨が降った際、一旦は庭の表面が湿りますが雨水が染み込んでいって、最後には公共下水道へ流せるようにします。
こうすることで雨水が河川へ流入するまでの時間を稼ぐことができ、洪水のピークをずらして、浸水被害を軽減することが期待できます。
樋井川流域で考えた場合、個人住宅全てに雨を3トン貯められる雨水貯留タンクを設置して、雨庭にした場合を想定してシミュレーションすると、平成21年7月九州北部豪雨の雨では浸水被害が生じなくなることが分かりました。

以上のように、各個人・家庭ができることはあるのですが、問題は先ほどの仕掛けを導入するにはやはり費用がかかります

後半では、そこをどうやって解決していくかについてお話いたします。

雨水貯留タンクと雨庭による浸水被害の低減効果(渡辺先生提供)


今回は、公共施設や住宅でできる流域治水の取組を伺いました。
グラウンド貯留はどんな地域でも出来そうですね。ただ、都市部の地下に貯留槽を造ることが、場所によってはデメリットになる可能性もあるということでした。
個人住宅への貯留タンク設置や雨庭は素晴らしい取組ですが、個人にはなかなかハードルが高いかもしれません。
後半では、どうやったらみんなで取り組めるか、についてお伺いしていきます。

福岡大学 渡辺研究室にて

★このメンバーでお話を伺いました★
インタビュアー
左から3番目:柞山このみ(関東地方整備局 建政部 都市整備課 技術指導係長)
インタビュー補助
右端:中尾毅((株)オリエンタルコンサルタンツ)
右から2番目:日向惠里名((株)オリエンタルコンサルタンツ)
左から2番目:遠藤彩夏((株)オリエンタルコンサルタンツ)
左端:梅川唯((株)オリエンタルコンサルタンツ)