イノベーションの主役は誰??ーミズベリングディレクター岩本唯史氏インタビュー(前編)
皆さんこんにちは、都市整備課です!
さて、今回は、ミズベリングのディレクターで水辺総研代表取締役・岩本唯史さんのインタビュー記事をお届けします。
岩本さんは、水辺を地域と公共の接点、人々と風土の接点として捉え、
多様な主体の参画を促し、創造的な協働・連携の伴走支援を通して、
豊かな社会へ向けた価値創出を行ってきました。
岩本さんが携わっているミズベリングプロジェクトを通じて、地域が盛り上がっていくために大切なポイントを紐解いていきましょう。
1.ミズベリングってなに?
〇「何もない」から魅力溢れる場所へ
■今(関東地整 都市整備課):
岩本さんといえばミズベリングですが、そもそもミズベリングとはなんでしょうか。
■岩本さん:
河川敷はもともと、管理者以外の人が手を加えられない空間だったので、せっかく整備してもあまり活用されないという問題が全国的に起きていました。使う人を想定していない、造る人たちだけの都合で造られた河川敷が多かったんです。そこで、2011年に規制緩和が行われ、管理者以外の方々も河川敷を活用できるようになりました。
ただ、「規制緩和して色々なことができるようになりましたよ。」と言っても、中々使ってくれない。河川敷を含め、水辺を活用するための啓蒙活動、一種のムーブメントがミズベリングです。
■岩本さん:
ミズベリングの活動を通じて、僕が地域の方に言ったのは、「一緒に飲んでください。」とか、「一緒に乾杯してください。」とか、「一緒に地域のことについて話してください。」とか、それだけです。でも、そこにイノベーションの種があると信じていました。
■今:
それぞれの地域ではどのような変化があったんですか?
■岩本さん:
官民で共同連携する事例がたくさん起こりました。
例えば秩父には、三峯神社までの参道にコンクリートの橋があったんですが、そこにポテンシャルがあると感じた人がいて、バンジージャンプを作りました。
■岩本さん:
これを作り上げた方は、秩父の渓谷の環境、岩や空気の感じを全て体験できると言っていました。
ここにチャンスがあると思った人たちの声を、どう拾い上げるかが大切なんです。声を取りこぼさないで価値化するということが、地域の次の未来の活力を生み出すんです。
■岩本さん:
大阪の北浜テラスもまさにそうで、建物の裏にテラスを造ったらいいんじゃない、と思った人がいたんです。
■岩本さん:
官民区分を超えて建物を造るのはとても大変なんですが、頑張って実現することができたんです。
北浜テラスには今は16店舗ぐらいあって、「北浜に行くと良い体験ができる!」と多くの人が思えるような場所になっているんです。こんな場所がどんどんできていくのが理想ですね。
■岩本さん:
盛岡の木伏(きっぷし)は、駅前と商店街がある大通りが離れていたため、それぞれを繋ぐエリアを整備することが地域の課題でした。そこに水辺があり、木伏緑地が生まれました。
■岩本さん:
新潟市では、地域課題を解決しようとしているところに大きな企業が入ってきて、「自分の会社のコンセプトに合致しているから、ぜひ手伝わせてください。」と言ってきたんですよ。
さらに、それがちゃんと地域に浸透していて、「私、ミズベリングしてきます。」なんて言う人も出てきました。
■岩本さん:
もともと魅力があるってみんな気がついていたけれど何もなかった場所で、ゼロから1を生み出したということです。
■岩本さん:
ここは東京都港区の竹芝です。劇団四季の劇場の裏側が汐留川が東京湾に流れ着く場所でした。「この水辺、何かに使えるんじゃないですかね。」と言ってきた発想力の豊かなJRの社員さんがいて、僕達のところに相談に来たんです。
担当者さんが社内で合意形成を取ってきてくれて、創り出したのがこの桟橋と干潟。民間が造ったので、行政のお金は一切使っていません。
「多くの人に、自分たちの施設のそばの水面が価値のある場所だということを知ってほしい。」という思いが動機になっています。東京湾の環境を学ぶ機会を作ることによって、東京湾の将来を良くしていく人たちを生み出していくことに繋がるので、地球環境にとっても良いと思います。
■岩本さん:
ゼロから何かを創り出して魅力を高めるということが、ミズベリングの本質だと思うんです。
ミズベリングでいろんな地域、ゼロベースのイノベーションが起きていますが、皆さんも自信を持ってイノベーションを起こしてほしい。
そもそもイノベーションは類いまれなる天才が起こすものではなく、どこでも誰でもできることです。何かと何かの間に生まれる新しいものが、イノベーションだから。
〇楽しむことからはじめよう
■岩本さん:
江東区では、Eボートを使った防災訓練レースをやっています。すごく盛り上がります。
■山川さん(オリエンタルコンサルタンツ):
継続的に実施できるイベントだと、また来年頑張ろうと思えますよね。
■岩本さん:
こういう風に楽しみながらやっていくことが重要だと思っています。参加した後でその意義にちゃんと気がつくようなものを、社会に対して提供していきたい。
■今(関東地整 都市整備課):
防災が目的ではなくて、気づいたら防災能力が高まっていたということですね。
■岩本さん:
いかに地域の人たちがやりたいと思えるかが大切だと思っています。そのためのインセンティブを作るのが行政の仕事。
2. ローカルよ、輝け!
〇アイデアをかたちにする
■岩本さん:
「やる気がある人に情報を届かせる、やる気がある人がさらにやる気になる」という循環もミズベリングの本質なんじゃないかと思います。
■岩本さん:例えば、紫波町のオガールは都市再生で有名ですが、オガールを開発した時に最初にできた調節池には雨水を貯めるだけ機能しかなくて、せっかく広い面積があるのに調節池以外には何にも使えなかったそうです。
プロデューサーの岡崎正信さんは、オガールの拡張とあわせて、調整池の上にサッカー場を建設して岩手県サッカー協会を誘致しました。遊水機能がある場所を、サッカーをする人たちが利用できる場所にもしたことで、ようやくザリガニしかいない池から脱却できたということでした。
■岩本さん:
そういう多角的なものを、アイデアとして出すことが必要です。でも、それを事業として起こす人がいなければ、アイデアはただ単にアイデアのままになってしまいます。
各地域の人たちがやりたいことを実現していく。「アイデアを出してください。」と言うだけじゃなくて、アイデアを出している人たちに直接語りかけて、実際に手を貸す。そうすると、周囲の人たちも、「こんな風にやればいいんだ!」と気がついて、どんどんやる気になっていきます。
〇イノベーションの種を育てる
■岩本さん:
ミズベリングに限らず、グリーンインフラでも流域治水でも、全てローカルな人たちがルールを決めていいと思うんです。
管理者の人たちにすべての責任を負わせるのではなく、ローカルな自治の範囲で意思決定をして、何か新しいことを起こしていく。そうやって地域で合意形成を図って、管理者の責任を少しずつ減らしていくことができれば、イノベーションの環境が出来上がると思います。
例えば広島の太田川や北九州の紫川には、川のそばに人が歩ける道があるんですが、川辺に手すりがないんです。手すりが無い方がいいと地域が合意しているから、それが実現できているんですね。
■岩本さん:
地域の人たちが合意すれば、今まで課題だったところに新しい価値を創り出すことができるチャンスになる。そのチャンスをどう活かすかは、行政側ではなくて、ローカルの人たちにボールがあります。
ローカルが主役でエリア主体で考えることをローカルワンと言います。ローカルの人たちを応援することがまさに必要になっています。
■今:
今までは、施設管理者が責任を負うのを恐れて色々なことができなくなってしまっていたんですね。
■岩本さん:
何でもかんでも行政が手取り足取りやってあげること、が当たり前になってしまって、ローカル側が考える機会を失ってしまっていた。
「ローカルの人たちが主役。責任もあるけれど楽しさもあって、幸福度の追求の機会を作り、それをどう社会的・人的な基盤にしていくか」ということが、ミズベリングとしてずっと戦ってきた領域です。
■岩本さん:
「ローカル」とは、エリアのことではなくて、人が形成するものです。従来の町内会のコミュニティではなく、人が形成するコミュニティにもっと注目したほうがいい。そのコミュニティの強さが、都市の強さを決定していく時代に入ったと思っています。
〇イノベーションの輪を広げる
■山川さん(オリエンタルコンサルタンツ):
最初の取っかかりとして、キーマンとなる人がいないと進まないんじゃないかなと思っているんです。住民から始まったのか、行政が主導的にやっているのかどちらでしょうか。
■岩本さん:
行政主導で進めて成功している地域もあれば、住民が盛り上げて成功している地域もある。キーマンはやる気がある人であれば、組織はどうでもいいと思っています。やる気が継続するような人たちに参加してもらうということがすごく大切だと思っています。
やる気がある人たちが最初に環境を整えて、実施できる土台をつくっていく。「高いハードルを超えてでも地域を良くしたい」という想いがある人たちが存在することが、ミズベリングの活動でわかった。だから、想いのある人同士をつなげていくことも大切。そうしてやる気が生まれていく状況がまさに今、起こっているんです。そういう人たちと地域内、地域外で出会うことの両方が大切ですね。
・・・と、盛り上がってきたところですが、前編はここまで。(名残惜しい・・・!)
次回は、岩本氏インタビュー記事の後編をお届けします!河川分野と都市分野の連携や、情報発信の仕方についてです、お楽しみに!
★このメンバーでお話を伺いました★
インタビュアー
(左から2番目):今佐和子(関東地方整備局 建政部 都市整備課 課長)
(右から3番目):柞山このみ(関東地方整備局 建政部 都市整備課 技術指導係長)
インタビュー補助
(右から2番目):山川仙和((株)オリエンタルコンサルタンツ)
(左端):梅川唯((株)オリエンタルコンサルタンツ)
(右端):日向惠里名((株)オリエンタルコンサルタンツ)