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音楽×NFT、ファンクラブからファンコミュニティへ

僕は音楽を聴くことが大好きで、駅と家の往復、電車内、運転中など、人と話すときか集中する時以外はほぼ常に音楽を聞いています。Airpods proの外部音取り込み機能がとにかく良くて、イヤホンをつけていることを忘れてしまうこともあります。

多分、寝ている時間の次くらいに音楽を聴いている時間が長いのではないかなと思うのですが、僕がApple Musicで音楽を聴くのに支払っている額は月額480円程度です。
ありがたいなと思う一方で、ここまで私の生活に入り込んでいる音楽に支払う額がここまで安くてもいいのだろうかとも思っています。

今回はそんな音楽業界に関する事業機会について書こうと思います。

音楽業界の問題点

まずは世界の音楽業界の動向から見ていきます。

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IFPI(国際レコード産業連盟)の調査によると、グローバルでの音楽業界の売上は以上のような結果となっています。

赤がCDなどのフィジカル音楽、青がSpotifyなどのストリーミング音楽の売上で、2017年を境にストリーミング音楽の売上がフィジカルの売上を超えその差は年々開いています

2020年時点でのストリーミングサービスの有料ユーザー数は世界で4億4300万人と、前年(2019年)比29.9%増となっています。

一方で日本の状況を見ると、音楽ソフト、つまりフィジカル音楽の売上が同様に減少しており、ストリーミング音楽の売上は増加傾向にありますが、その成長速度は世界と比べて非常に緩やかであり、フィジカル音楽の売上減少分を補うことができていませんので、全体としては減少しています。

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日本の音楽市場はアメリカに次いで二位をつけていますが、音楽配信の売上は783億と未だ全体の29%程です。
第三位のイギリスではストリーミングの売上が全体の82%、第四位のドイツでは72%と、日本にはまだまだストリーミングは浸透する余地があるように思えます。

これは、日本の再販制度のためです。再販制度により日本ではCDの価格を他国と比べて高い値段に設定できたため収益性がとても良かったので、多くのレコード会社はサブスクリプションのストリーミングサービスに魅力が感じられず、参入が遅れました。

日本からアジアへ視点を広げて見ると、アジア地域全体としての音楽業界の総売上は前年(2019年)比9.5%増となっています。この数字は欧米の伸びと比べても圧倒的です。特に韓国では、BTSのアメリカ市場での大成功が後押しして前年比44.8%と大きく成長しています。

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ここまで見てきたように、世界全体で音楽業界の市場は大きく伸びていますが、実は平等なマーケットではありません。

Spotifyには世界中に800万人のアーティストがいますが、そのうち500万円以上を稼ぐのは15000人程で、1000万円以上を稼ぐのは7800人程度です。

NFT TONEのホワイトペーパーによれば、トップ1%のアーティストが総売上の90%をとっています。
また音楽業界の総売上のうち、アーティストが手にするのはたった12%で残りは業界のその他の組織が持っていきます。

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これらの不平等は音楽業界の構造の問題によって引き起こされています。

旧来の音楽業界はアーティストを擁する事務所とプロモーションを行うレコード会社、CDの販売店、アーティストを露出するメディア、という構造が大きなバリューチェーンになっていました。
メディアのうち影響力が強いのがテレビやラジオで、トップ層のアーティストがここに露出することでCDが売れる、という仕組みです。

よってアーティストはテレビ業界とコネクションを持つ事務所やレコード会社に所属する必要がありました。

そのためアーティストに収入が入ってくるまでに
ファン→販売店や音源使用者(カラオケや配信サイト)→著作権等管理事業者(JASRAC)→レコード会社→事務所→アーティスト
と、多くのステップを踏みます。

その度にマージンを取られ、アーティストに収入が入る頃には全体の10%ほどになってしまいます。

Audiusは全ての収益の90%をアーティストに還元する、Solana基盤の分散型音楽配信プラットフォームです。ホワイトペーパーを見ると、アーティストに入ってくる収益が少ないという音楽業界の構造に対して強い問題意識を持って作られたサービスであることがわかります。

Spotifyキラーなどと呼ばれていますが、実際、ブロックチェーンを応用し、さらに$AUDIOという独自の暗号通貨を発行することで作ったエコシステムがあることで成立する収益モデルなので、Spotifyなどの既存ストリーミングサービスが到底真似することはできない、アーティストへの還元率を実現しています。

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(↑登録されているアーティスト数は少ないですが、普通に使いやすいです)

これまではCDを買ってもらうにはメディアに露出して認知を広げるしかなかったのですが、現在はSNSやYouTubeによって認知面が増え、テレビに出なくても売れることが可能になりました。
実際、近年の日本ヒットチャート上位には高確率でTikTokで流行した曲が入っています。

近年多くのアーティストが事務所から独立していく背景には、このようなことが考えられます。
ちなみに僕の好きなラッパー、ZORNも2年前に独立しましたし、
他にも、ジャニーズの手越祐也やMrs. Green Appleなども事務所から独立しています。

音楽業界が向かう未来

Substackが、日本ではMedyが、ライターがファンに直接作品を届けることを可能にしたように、アーティストもファンと直接繋がるようになると考えています。

ただ、音楽業界はより複雑で、特に日本ではストリーミングサービスへの参入が遅れたことからもわかるように保守的であるので、より難しい道になることが予想されます。

既にアーティストはBitfanなどのサービスでファンクラブを作り、ファンと直接繋がり、ファンに直接物を売ることが可能になっています。
しかし、ファンクラブにも問題があると考えています。
それは、継続的な収入が得られる一方で新規のファンが増えづらいということです。
ファンクラブ会員を優遇して限定コンテンツや限定アイテムを作成するばっかりに、SNSやYouTubeでの発信が疎かになってしまうためです。

私は、既存ファンだけを大事にするファンクラブではなくファンと共に成長していくファンコミュニティの時代になっていくと考えています。

事業機会(音楽×NFT)

ここからは日本の音楽業界の売上がどのようにしたら増加していくのか、またアーティストがより多くの収入を得られるようにするにはどうしたらいいのか、という視点を含めてファンコミュニティの未来を書いていきます。

まず、日本の音楽業界の売上を増やすためには
①日本の音楽業界の売上は縮小傾向
②世界規模で見るとストリーミングサービスの売上が伸び、全体としては増加傾向
という2点から、J-popをグローバルな市場に流通させ、海外からの印税徴収を狙う必要があると考えています。
CDソフトの売上は減少しましたが、ストリーミングになったことで容易に音楽を世界に届けることが可能になりました。

興味深いのが韓国出身のアイドルグループ、BTSの例です。
Twitterを起点に結成されたBTSのコアファンコミュニティ「BTSx50STATES」がアメリカ市場を開拓しました。

彼らは全員がボランティアでありながら、HR、デザイン、リサーチ、広報までを行い、アメリカの音楽市場において重要なラジオ放送を攻略することで、BTSの世界的成功に大きく貢献しました。

従来、このような仕事は事務所やレコード会社のプロデューサーが行ったのですが、彼らにとってのプロデューサーはファンコミュニティでした。

このケースの場合はファンは皆ボランティアとして活動しましたが、多くの場合でそれは難しいように思えます。
好きなクリエイターを応援したいという気持ちと共に、自分だけのものであって欲しい、というような欲が往々にしてあるためです。
所謂「古参マウント」のようなものです。

しかし単なるファンクラブではなく、オーナーシップを共にしたファンコミュニティならば話は別です。

ファンがオーナーシップの一部を持ち、ロイヤリティ収入を得られるなら
好きなアーティストを応援したい、という情熱的なインセンティブに加えて、投資のリターンが得られるという金銭的なインセンティブを与えることができます。

投資のリターンが100円しかなかったとしても、ファンは好きなアーティストと成功を共有できます。
私はコミュニティを制するものがその業界を制すると考えています。そのための手段の一つとしてコミュニティにインセンティブを与えるのは非常に有効だろうと考えています。

アーティストがオーナーシップを与え、ファンと成功を共有できるサービスは海外では多く存在しています。

1社目は前回の記事でも紹介したRoyalです。

Royalは、作品の所有権をNFTとして売ることができるマーケットプレイスで、所有権の二次流通市場も存在しています。$16Mを調達したシードラウンドから3ヶ月も経たないうちにシリーズAラウンドを行い$55M調達した大注目のスタートアップです。

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スタートアップ投資を民主化したRepublicも同じように、クラウドファンディングのリターンとして音楽の所有権を与えるサービスを提供しています。

sound.xyzはミドルマンがいない音楽業界を目指し、web3のツールを提供しています。

Spotifyなどのストリーミング配信のビジネスモデルは、ユーザーからの月額課金をプールした後、曲の再生回数に応じて一再生あたり$0.003~$0.005で比例配分される仕組みになっています。

そのため、人気の曲をいかにリピートして聴いてもらうか、というところに比重が置かれ、新曲を発表するインセンティブがありません。

Sound.xyzでは曲のリリースのタイミングでリスニングパーティが行われ、NFT保有者が動画内にコメントができるようになっています。実際僕も先日リスニングパーティを覗いてみたのですが、多くの人がNFTを購入し、瞬く間に大金が集まっていく光景を目にしました。

このタイミングで得られるNFTには番号がついていて、古参アピールをすることができるようになっています。
さらに、曲の特定のランダムタイムスタンプに「ゴールデンエッグ」が埋め込まれており、運良くそのタイミングでコメントできたファンが持つNFTは限定盤にアップグレードされます。

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(↑リスニングパーティでコメントした人のアイコンが下に表示されています。そのうち「ゴールデンエッグ」が埋め込まれた部分にコメントできた人のNFTがアップグレードされます。)

NFT TONEも分散型マーケットプレイスでファンにデジタルオーナーシップを与えるスタートアップです。アーティストが従来より早い段階でファンから直接収入を得ることを支援しています。

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NFT TONEのホワイトペーパーにはファウンダーの音楽業界への強い問題意識と情熱が書かれているので、是非読んでみてください。

国内の事例だと、Gaundiyはファンコミュニティに対してマンガIPの二次創作権を持つNFTアイテムを配布しました。これによって作者はファンに二次創作をする権利を与えながらも、著作権の管理を行うことができます。
今回は音楽業界の事例ではありませんが、ファンの二次創作はクリエイターの知名度を拡散させることに寄与するので、それを邪魔せずにライセンスを管理する、というのはとても興味深いアプローチだと思いました。

(↑既に読まれた方も多いかと思いますが、とても興味深い記事ですのでまだ読んでいない方は是非読んでみてください)

ファンによる二次創作は認知の拡大のみならず、アフィニティ作りにも有効です。特に音楽はリミックスなど、ファンがオリジナルコンテンツを作りやすい領域です。

アーティストはNFTを売ることで
1. レーベルや事務所を介さず、直接ファンに作品を販売できる
2. セカンダリー販売収益が得られる
3. 既存ビジネスよりも大きな利幅を得られる
4. 楽曲制作してすぐにマネタイズできる
5. デモ曲や楽譜など、従来商品化できていなかったものでさえ活用できる

ファンはNFTを購入することで
1. アーティストを直接支援できる
2. 初期から応援していたファンであることが証明できる
3. 限定品を所有できる
4. 多かれ少なかれロイヤリティ収入を得てアーティストの成功を一部共有できる
と、アーティスト、ファン双方に大きなメリットが生まれるということは間違いないと思っています。

ファンコミュニティがオーナーシップを持ちプロデューサーのように動くということが実現されれば、それはまさにクリエイターエコノミー4.0の世界です。

さらに面白いのは、これらのサービスでインフルエンサーが駆け出しアーティストの作品の所有権をもつ、という使い方も考えられることです。

先に「旧来の音楽業界はアーティストにとってテレビやラジオのみが露出面でしたが、今はSNSやYouTubeなど露出面が増えたので、テレビに出演することがヒットへの必要条件ではなくなった」と書きました。
インフルエンサーに楽曲を使ってもらうことができれば、テレビに負けず劣らずの認知を獲得することができます。

例えば、数百万人のオーディエンスを抱える人気YouTuberが、好きなアーティストに投資をし作品のオーナーシップを持つことで、その楽曲をオープニングやエンディングなど自身の動画内で使用することができるようになります。

「情熱」をマネタイズしているクリエイターが次世代の「情熱」に溢れたクリエイターに投資し、成功を共有することで情熱のサイクルみたいな、良い流れができるんじゃないかなとぼんやりと考えています。

以下、NFTやWeb3.0の文脈から外れますが、音楽業界で興味深い事例があるので共有させてください。

AmPmは日本でこそそれほど知名度はありませんが、日本以外の国で多く再生されている覆面二人組の日本人アーティストです。
彼らはビルボードチャートなどにどれくらいのBPM(テンポ)の曲が入りやすいのか、Spotifyのレコメンドに乗りやすいのかなどを徹底的に研究して作曲しています。

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日本で有名なVaundyも日々のレコメンドのリズムパターンやコード進行を研究して「売れるための曲」を作っている、と述べています。

音楽はアーティストの情熱の表現方法だから、データとかじゃない、というような考え方もあるかもしれませんが、事実として、データドリブンな作曲が可能だということです。

TikTokで偶然バズって一時のやや売れを経験しても、それに次ぐヒット作品を生み出し続けていくことは簡単ではありません。

そこに、データドリブンで作曲しSNSやストリーミングサービスのアルゴリズムをハックするようなプロダクトを提供することで、継続的にヒット作品を出すことを可能にし、アーティストのビジネスの継続的な成長を可能にすると考えています。

以上の市場仮説に共感いただいた方、音楽領域やNFT領域で起業されている方、起業検討中の方、あるいは異なる仮説を持っている方など、どなたでもお気軽にDMください!(@kantakimura_)

またmedyでは同記事に加えて、注目ニュースなども配信予定ですので、チェックしてみてください!
https://kimukan.medy.jp/dashboard/post?id=966d521b-1374-4032-b3d9-367f214d2191


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