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タイのビーチで何もしない

レストランで言われた値段を聞き返しただけなのに「こいつ文句言ってやがる」と濡れ衣を着させられ、ふざけるなとひと揉めしたバンコクに中指を立てた後に向かったのは、ヨーロッパの人たちがこぞって日焼けをしに訪れるホアヒンというビーチリゾート。

ヨーロッパの赤黒いじいちゃんは大抵寒い時期にこの場所へ赴き、魚の干物のようにベッドに寝そべって肌がパリパリになるまで日焼けをしている。そう断定してもいいくらいホアヒンのビーチはヨーロッパ老夫婦で溢れかえっていた。そんなじじばばが集まるところなのでビーチを右往左往する馬とその糞に目を瞑れば、ゆっくりするのにうってつけの場所だった。また不思議なくらい若者がおらず、若ヨーロピアンは「ホアヒンは定年退職をしてから」というお預けをくらってるのかと思うほだった。

そんな落ち着いたビーチで潮の満ち引きを眺め、波の音を聞き、太陽の移動に合わせて日陰で寝そべるだけの1週間ではたいしてネタになるような出来事はなく、僕は毎日アホみたいな顔してダラダラよだれをたらしながら息をするだけの生き物になっていた。何もせず、ただぼーっとする。ただ意外とこれが難しい事に気が付いた。初めのうちは大した用事もないのにスマホの画面を開いて更新したばかりのインスタグラムを覗いたり、バンコクのレストランでのトラブルに自分の落ち度はなかったかとか、こうすればもっと効果的に相手を不快にさせる事が出来たのではと考えたりしてしまい、無意識にぼーっとする以外のことをしていた。

しかし、ビーチでただ寝そべるだけの日々の繰り返しなので考えごとが続くわけもなく、3日目には本格的にぼーっとしているだけの日本産若干物(わかひもの)が出来上がっていた。これを習得した事によるデメリットは、ぼーっとする事が時と場所を問わず出来てしまうこと。ぼーっとすることに没頭するあまりホアヒンから出てもう数日経ちますが、電車で乗り過ごしてしまったり、コンセントの変換プラグを差したまま宿を経ってしまうなど、見事に生活に支障をきたしています。

ボケた人がホアヒンに行くのではなく、ホアヒンが人をボケさせるようだ。



プロフィール 北村幹(きたむらかん)
1994年生まれ
大学卒業後、都内で保育士として大活躍。
国際協力に興味があり学生時代はアジア、アフリカにて幼児教育のボランティア活動を行い、何年も経った今でもその熱はまだある。
好きな言葉は「源泉掛け流し」と「おかわり無料」。
インスタ:https://instagram.com/kantabiworld


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