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1社目社外役員就任問題

「社外役員に就任する方法教えてください」

twitter(x)でフォローしている会計士の方々が、若手会計士から、社外役員にどうやって就任するのかを聞かれて、どう回答してよいものやら困っている、といったツイートをされているのを拝見しました。

ここでいう社外役員、というのは、「上場会社の」社外「非常勤」役員のことをおっしゃっているものと思われます。よく言われるように、上場会社の社外・非常勤役員の募集時は、「他社で就任実績があること」という条件が付されることが多いです。

他社での実績がなくてもエージェント経由でエントリーは可能ですが、拘束時間は月1~2回の会議の出席、報酬は月数十万円から、他の業務とも兼務可能ということで、多くの就任希望者(案件によっては数十人ともお聞きします)と競合になります。

同業他社で監査の主任(インチャージ)の経験があり業界のことをよく知っているが就任経験はない、というAさんと、その業界は知らないが上場会社の他社で役員経験があります、というBさんが応募したとすると、Aさんのほうが業界への理解があるためよりよい意見をおっしゃるように思いますが、Bさんの方が他社でスクリーニングを経ているという圧倒的アドバンテージがあります。
よって、実績がないとその中から選ばれることは難しく、1社目の会社に就任するハードルは高いものとなっています。

(大手監査法人のパートナー経験者が退職後、法人からご紹介いただきすぐに就任するケースがあるようですが、ここでは例外とします)

ではどうするんだ、という点につき考えてみたいと思います。

方法1 上場準備会社の社外役員に就任する

会計士が何らかの組織を退職し、次に正社員で就職しないとなると、個人事務所を開業(他社でパートあるいは業務委託で働くケース含む)するか、自分の事業を立ち上げるということになるかと思います。

将来的に上場会社の非常勤社外役員への就任を希望する場合、自分の業務を行いつつお話が来るのを待つ、という方法もありますが、前述の通り、1社目就任の機会はなかなか回ってこないことが多いです。

そこでより積極的に機会を得たい場合、あえて上場「準備」会社の常勤監査役に就任する、というルートが考えられます。ここで、取締役でなく監査役とするのは、会計士の場合、監査役のほうが就任自体のハードル、さらに、就任後の周囲の期待値が取締役より(残念ながら)低いためです。
(そもそも執行サイドを希望するような方には、監査役生活は退屈だと思います)
(監査役ももちろん役員なので責任は重いです)

オーナーが、何が何でも(エグジットのため)IPOするんだ!という固い決意で急ピッチで上場準備が進んでいる案件、証券会社の審査上、現在の常勤監査役に体調不良など何らかの課題があって急遽常勤監査役を求めているような案件など、「IPO確率が高く、急に常勤監査役が必要となった案件」をエージェントや主幹事証券が持っていることがあります。そういう会社に就任し、めでたく上場すれば、1社目の「上場を達成した、上場会社の社外役員」というタイトルを比較的短期間で得ることが可能です。

ここで気を付けないといけないのは、上場準備会社の目利きです。上場準備会社は約1000社あるといわれていますが、毎年100社程度しか上場しません。10%の確率です。やりがいをもとめてN-3期くらいからの会社で、ガバナンスを一から作り上げるんだとか言い始めると、上場するまでに何年もそこで従事することを覚悟しなければなりません。
(縁起でもないですが、「永遠のN」「永遠のN-1」「永遠のN-2」・・・と言われている会社は多数あるようです)
(任期途中で華麗なる転身をはかられる方もいらっしゃるとか)

それで上場すればまだしも、最近の景況から上場を断念する会社もあり、会計士による監査役監査が不要となったという理由で退任される例もあるようです。監査法人がついている、証券会社がついているといってもあてになりません。確率的には90%上場しないわけですから。

上記は常勤の話ですが、非常勤を複数受ける方法もあります。上場の確率的には10%ですが、5-6社就任すればその中の1社くらいは上場するかもしれません。成長可能性のあるいろいろな会社に頼りにされてやりがいがありそうにも思えますね。但し、案件としては非公開であることが多く、多くは役員の知人であるとか株主からの紹介で決まってしまうため、案件にアクセスできるルートがないと就任は難しいかもしれません。

(念のためですが、上場自体がゴールではないことはいうまでもありません。また、早期に上場できるということはそれだけ業績が安定してガバナンスもきいている良い会社だと考えられます)
(書いていて何やら本末転倒な気もしてきましたが、「1社目の上場会社役員就任のためにどうするのがいいのか」という点にフォーカスして話を進めます)

方法2 上場会社の常勤監査役に就任する

方法1を見てきて、では、わざわざ不確実な上場準備会社ではなく、もともと上場している会社に就任したほうがいいのでは? と、お考えになった方もいらっしゃるかもしれません。

案件数は少ないですが、上場会社の常勤監査役、常勤取締役(監査等委員)の求人も確かにあります。監査法人から紹介があるケースもあるようです。こちらは年収1000万前後~となる代わりに、監査役で1期として任期4年、2期となると8年、常勤として従事することになります。自分の事業や他社役員の兼務が想定されていません。独立志向の方よりは、どちらかというと、子育てやローン返済があって安定収入が必要な方、正社員で就職する代わりに常勤監査役にという感覚が近いのではと思います。他社の上場会社の非常勤社外役員をとなると、常勤としての任期終了後となるでしょうから、かなり長期的なキャリア戦略となります。

個人的には、若手、特に30代40代くらいの方の場合は、ここでじっくり役員として経営・監査と向き合って次のステップをふんでいただく、という選択はアリではと思います。
だったら執行側で正社員として就職し、執行役員や取締役を目指すほうが経営についてより理解できるとは思いますが、子育て中の方やワークライフバランスを考えると常勤監査役(監査等委員)が現実的かな、と。

方法3 急遽なり手が必要となった案件を引き受ける

今度は非常勤案件がでるのを待つケースです。上場会社の社外取締役・監査役募集は、3月決算6月総会の場合は前年の秋くらいには決まっていそうに思うものの、報酬条件、地方案件でなり手がいない、決まっていた人が何らかの形で就任できなくなり急遽次の方を探している、などなど、急遽案件が出るケースもあるようです。

複数のエージェント・お知り合いから、明らかに同じ会社の話であろうという案件が急にいくつも送られてくることがあります。詳しいことは存じ上げませんが、何らかのご事情があって急いで探しておられるのであろうと拝察します。

そういう案件がもし回ってきたら、事情をよく調べたうえで受けてみる、というのも一つの方法かもしれません。

方法4 社外役員案件が来そうなルートを考え情報をキャッチする

ご自身が相当な実力者であれば別ですが、あいにく自分はごく普通の会計士だなと思われる方にとっては、上場会社・非常勤社外役員のお話は、「真面目に頑張っていたらかみさまが見ていてくださっていつか回ってくる」という性質のものではないのかもしれません。

早い者勝ちではないものの、案件が発生した場合にどうやって情報をキャッチするか。いかに、自身に「タグ」をつけ、選ばれる人材になるか。案件数が少ないため試行錯誤して取りに行くことになろうかと思います。

わたし自身も悩んだときにいろいろ知人に聞きました。監査役向けのセミナーで退任予定の監査役から声がかかったとか、MBAの学習時にクラスメイトからご紹介をいただいたとか、大学の同窓会であった先輩から引き継いだとか・・・ではMBAに行けばいいのかというとそうでもなさそうで、こればかりは自分で開拓するしかなさそうです。
それでも、女性役員ブームの恩恵を受けていることは感じており、お話をいただく機会は多いです。大変ありがたい機会をいただき感謝しております。

終わりのない自己研鑽

実際、いくつか社外役員を兼務してみると、監査法人時代のように多くの会社を並行して見れるわけでもなし、しかしそれなりに各社に時間をとられる、ガバナンス面で勉強すべきことは山ほどある、という感じです。

先日偶然非常勤役員を希望する複数の方のキャリアサマリーを拝見する機会があったのですが、兼務している会社が異なるだけで、みなさん結局似たような経歴となっていました。

こんな感じです。

「大手監査法人で○○年間経験し、現在は自分の事務所をもちながら、上場会社含む複数社の非常勤役員を兼務しております。業務内容は取締役会出席、監査役会出席、三様監査・・・・(以下略)」

就任してどんな貢献をしたのかは守秘義務の観点でできないのか、語ることのできる貢献がないのかどうかわかりませんが、就任期間に何を得たのか、次のキャリアにどう活かすのか、少なくともサマリー上は見えてきませんでした。

当たり前ですが、就任は決してゴールではありません。また、任期には終わりがあります。
その中でどう企業に貢献していくのかが問われるべきだ、ということを心に刻み、日々業務に励みたいと考える所存です。

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