日常系作品の描き方(1) キャラクターの成長

日常系作品ってどう書けばいいのか、を考える第一回目。
どんな作品でもキャラクターが成長する、というお話。

例1. ひだまりスケッチ×ハニカム 第1話  (Amazon Prime Video)
「5月6日~15日 せまい日本 そんなに急いでどこへ行く」(ゆの視点)
/「5月16日~18日 どこでもでっかいどう」(ゆの視点)

同じアパートに住む生徒の生活を描く日常系作品です。
なお、今回はキャラ名などを使わずに分析します。作品を知らなくてもわかるように、という意図と、単純に私がひだまりスケッチ初心者なのでキャラ名を覚えていないという理由からです。あしからず。

1. 背景説明
この話の場合、先輩たちが修学旅行に行くまで。導入は「階下から声が聞こえる」という事件です。「日常系」作品とは、本筋とは大きく関わらない部分の描写が丁寧で、他の成長の描写と比べて時間をかけるから、全体的にユルい雰囲気になったものを指すのだろうか。普段あまり日常系を見ないのでわからん……。

2. 物語の始まり
センパイが修学旅行に行ってしまったあとの、がらんとした学校のシーンなど、いつもの風景から変わってしまった、主人公の一日を描く。

★セントラルクエスチョン
主人公は、「先輩らしく」頼れる存在になれるか。主人公のモノローグで明確に示されます。

3. 事件発生
アパートに戻ると、料理(肉じゃが)に失敗した年下の住人が、主人公に助けを求めてきます。主人公はこれにカレールーを入れてカレーにすることで解決を図るという「アイデア/発想力」と「料理力/技術力」を誇示し、「先輩らしく」あろうとします。

4. 結果
残念ながら、おいしいカレーにはなりませんでした。

5. 結論
主人公はひとり、お風呂で反省します。
「名誉挽回、明日は頑張るぞー!」と、次はうまくやろうと胸に誓い、第1話を締め、また次回へ続ける布石とします。

備考
こんな感じで幕を閉じる第1話ですが、20分程度の短い間に、実はサブプロットもしっかり仕込まれています。2人登場するセンパイは事実上のカップルなのですが、2人で修学旅行の準備をしているとき、彼女が「酔い止めの薬を買わなければいけない」「乗り物酔いが不安」と告白します。たいして、彼氏は「2人でずっと一緒だから酔わないよ」とかっこよく言い切ってくれます。彼女はその言葉を聞いて安心します。実際、いざ修学旅行に行くと、彼女は疲れてバスの中で眠ってしまいます。これをみた彼氏は「酔い止めの薬は必要なさそうだね」とつぶやきます。このサブプロットも、彼女の成長物語と言えるでしょう。最後に愛は勝つ。

例2. 新あたしンち第1話 (1/3) (Netflix)
母『強気で!』

普通の核家族を舞台にした、00年代前半のサザエさん的アニメです。各話完結型の物語で、第1話では3つのお話が収録されており、今回取り上げるのは1つ目のお話です。

1. 背景説明
母の買い物に付き合う娘。「あたしがいるとき、いつも重いものを買う」と愚痴る娘。だらだら歩いていたので、2人はバスに乗り遅れてしまいます。ここで母、「強気が大事!」「無理とか言わない!」とこのエピソードのコンセプトを提示します。娘と息子は無理な場合や役に立たない場合もあると反論します。

★セントラルクエスチョン
娘は「強気」になれるのだろうか?

2. 物語の始まり
学校に行く娘。教室には、娘がひそかに思いを寄せている男の子がいます。「あたしの場合の無理=恋」だけど「この場合の強気ってなんだろう?」「何をどうすればよいのだろう」と考えます。

3. 事件発生
すると、男の子が近づいてきます。「ボタンが取れたから裁縫セットを貸して」と言う男の子に、真っ赤になりながら「あたしが付けてあげる」と本人なりの強気を発揮して一歩踏み出します。

4. 結果
強気を発揮したおかげで、憧れの男の子と話せて、楽しい日になった!

5. 結論
家に帰ると、腐った料理を強気で食べた母がお腹を壊して寝込んでいます。曰く、「運が悪かった」のだそう。強気も場合を考えよう、と落ちが付いたところで幕が下ります。

備考
このお話はキャラの役割が明確に定められていてわかりやすいです。母=問題提起者、弟=反論者、娘=主人公=視聴者目線。構造としては、主人公に変化を求める母と、特に求めない弟の間で揺れ動き、最終的に変化することを選び/決断し、一歩成長する娘。よくできた成長物語です。「日常系」って、ひだまりスケッチで述べたように、本筋には必要ない描写が丁寧なだけでなく、こういった小さなスケールで成長を描くから「日常系」なのでしょうか。ちなみに、第1話の2つ目のお話はここまでのドラマはない小ネタ的なお話で、3つめのお話はアクション映画のようなドタバタと楽しいコント仕立てです。新番組の冒頭になる第一話で、タイプの異なる3つのお話を盛り込んでいるのは、やはりさすがだなあ、と言ったところです。お話を上手に作れる人は、同じキャラクターや同じ世界設定でも視点を変えたりエピソードを変えることで全然違うタイプの作品を作れるのだなあ、と勉強になりました。

まとめ
ひだまりスケッチは第2話に続くので、もしかしたら1シーズン通してみたら第1話の「先輩らしくなれるか」を最後まで問い続けてるかもしれないですね。そうすると三幕構成で語れるような大きな成長物語になってるかもしれないですね。日常系アニメの10話前後でドラマチックになったり、ギャグマンガが急にドラマチックになったりして「この作品に求めているのはこんなのじゃないのに!」という違和感が生まれると、「ああ、これは1クールなんだな」とか「もうすぐ打ち切りか…」と感じる(そしてたいていそれは当たる)ことがよくあるけれど、それはもともと提示していなかったはずのセントラルクエスチョンを急に提示するから、かもしれないと思い始めた。かといって、映画版もたいてい「コレトチガウ」感があるけれど、それもテレビシリーズとは違うセントラルクエスチョンを提示してしまっているからかもしれない。
「『ドラマ』ってなんだろう?」っていう疑問をよく思っていたのだけれど、「成長物語」のことかもなーと思い始めました。今度調べてみよう。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?