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持続的なぬるま湯軽音楽部を目指して~コーチバンド制を導入してみたら
私が外部指導顧問を務めているA高校軽音楽部で導入しているメソッドの一つに「コーチバンド制」というものがあります。
前にも「二刀流軽音楽部」というタイトルで投稿したんですが、A高校軽音楽部には2タイプのバンドが混在しています。
同じ学年の部員同士が自由に組んで自分たちのやりたい曲をやりたいように練習するバンド、これがひとつ。毎回の部活動では必ず1回は練習時間が与えられるので「レギュラーバンド」と呼んでいます。
もう一つは、顧問の推薦によりメンバーと曲が指定されて、その楽曲だけを特定のイベントに向けて練習する対外向けのバンド(期間限定)です。これは「ユニットバンド」と呼んでおり、毎回の部活動練習で必ず練習するわけではありません。
「3月のスプリングフェスティバルコンサートで学校代表のバンドが1曲演奏できるので、そのメンバーと楽曲を発表します」てな感じで、あくまで顧問主導でコトは運びます。
部活動は視聴覚室内の3か所で同時にアンサンブル練習できるので、練習枠の組み方は例えばこんな感じになります。
1枠目 3時45分~4時10分 2年生レギュラーバンド 3バンド
2枠目 4時15分~4時40分 1年生レギュラーバンド 3バンド
3枠目 4時45分~5時10分 歌謡曲ユニットバンド 2バンド
A高校の軽音楽部は私が赴任する前までは、常設の練習場所が1か所しかなくて、「その日練習するバンドだけが視聴覚室倉庫へ来て練習、自分たちの練習が終わったら帰宅できる」という民間スタジオのやりかたでした。
これだと、週1回か2回しかバンド練習できないし、自分のバンド外の状況については、関心も薄れてしまいます。
(その代わり、部内でのミニ発表会の回数を多く設定して、部員同士のつながりを保っていたそうです)
私が顧問になって「部活動は部員全員が集合して行う。自分のバンド練習の時間以外であっても視聴覚室に残って何らかの活動をする」という方針を打ち出したとき、当時の部員のほとんどは反発しました。
「自分のバンドの練習が4時30分に終わったのに、なんで5時30分まで居残りしないといけないのですか。時間の無駄です。なんで1回の練習時間が25分しかないのですか。週に1回だけでいいから2時間は練習したい。」
紆余曲折ありまして、今では「全員部活動」が当たり前になっていますが、アンサンブル練習以外の時間帯をどう使うかは大事なことになってきます。
ひまだからスマホゲームに興じる、国語の宿題をモクモクとやってる。
これだとむしろ帰宅させた方がマシかもしれません。
試行錯誤の結果、「上級生のバンドに下級生のバンドのコーチングを任せる」という方法を実践しています。
現在、2年生で3つのレギュラーバンド、1年生で3つのレギュラーバンドが存在していて、アンサンブル練習場所は3か所ですから、
1枠目 2年 3バンド(3か所)
2枠目 1年 3バンド(3か所)
という割り当てが可能です。
で、2年生のバンドにそれぞれ、コーチする1年バンドを指定します。
2Aバンドは1Aバンドの指導、2Bバンドは1Bバンドの指導、2Cバンドは1Cバンドの指導にあたらせます。
このコーチの内容は「どんな楽曲を練習するのが難易度的に適切か」「アンプなど機材の使い方」「ライブ発表の際の見栄えやステージング」など多岐に渡ります。
そうすると、2年生の部員は、1枠目に自分たちのバンド練習が終わったら2枠目では1年生バンドのコーチ(担当楽器ごとマンツ-マンで)の仕事がありますから、暇を持て余す、なんてことにはなりません。
そもそも私自身は今流行のJ-POP,J-ROCK については疎いので、アドバイスのしようがないです。
「来月、連盟主催の交流発表会が予定されていて、本校から2バンド出演できることになりました。1年生で一番進捗状況が進んでいるバンドとそのコーチの2年バンドをセットでエントリーします。」
ということを告知しておけば、2年生は一生懸命に担当する1年バンドを鍛えようとします。
そういった打算を抜きにしても、上級生からすると、後輩のバンドを育成することにやりがいを感じるようになります(指導者体験)。
こうすることで、顧問は自分プロデュースの選抜メンバーバンドのことだけを考えていればよくなります。
コロナ禍が明けて以降2年が経とうとしていますが、現在A高校の軽音楽部が雰囲気も良く円滑に運営できている要因のひとつが、このコーチバンド制 であることは間違いないでしょう。
20年ほど前、「英語授業の達人に学べ」みたいな教員研修に参加したところ、「講義は最小限に抑えて、授業内容は班学習がメイン。課題が早く済んだ子は他の班へ出向いてコーチするんです。教師は基本観てるだけ」
という実践報告がありました。
目からウロコでした。
顧問の求心力が強烈なクラブは、その顧問が転勤異動などでいなくなってしまった途端、糸の切れた凧になってしまいます。
上級生バンドが下級生バンドのアドバイスをすることで学年間のつながりも強固になるし、上級生に責任感を持たせることができます。
何かうちの軽音楽部にスパイスが欲しい、とお考えの顧問の先生がいらっしゃったらぜひ参考にしてみてください。