新庄監督は令和の野村克也なのか
1973年のプロ野球日本シリーズ南海VS読売をテレビで観て、それまで阪神タイガースしか知らなかった大阪のサル少年は、「4番キャッチャー兼監督」である野村克也が率いる 南海ホークス というチームに魅了されました。
緑色のユニフォームもかっこよかったし、野村克也以外にも門田博光、藤原満、桜井、島野、広瀬、佐藤道郎など、個性派ぞろいの集団でした。
でも当時は(今でも根本的には 何ら変わってはいないのだが)、関西のテレビラジオ新聞は 阪神タイガース一色 の報道体制でしたから、南海ホークスのことをもっと知りたい と思ったら、実際に球場(大阪球場、西宮、日生)へ試合を見に行くか、週刊ベースボールを買って南海の記事を探して読むか、たまに放映されるNHKの試合中継を観るか、くらいしか情報源はなかったのです。
当時のサル少年には、サッチーのトラブルとか大人の事情とか、親会社の南海電鉄の財務状況とかは知る由もなく、「何でこんなにかっこいい選手がいっぱいいるチームなのに、みんな注目しないんやろ。クラスの誰とも話が合わないやんけ。」とぼやいている毎日でした。
さて、当時の南海ホークスは、というかパリーグの全部の球団にあてはまることですが、観客動員は伸びず、経営としては赤字でした。
テレビの中継は巨人戦オンリー。華やかな話題は読売をはじめとするセントラルリーグに持っていかれて、ドラフト会議のたびに「パリーグなら入団拒否」なんていうのは毎年のニュースでした。
南海ホークスも「しぶちん体質」なんて言われてて、親会社は強いチームつくりをするための投資をする気はさらさら無かったようです。
そういうチームの監督である野村克也が得意としたのは、「再生工場」と呼ばれる、「他球団で芽が出なかった選手を、格安の給料で引き取り、一点突破方式で長所を伸ばし、一流選手として再生させる」手法でした。
野球では無名の京都府の高校から南海へ入団し、不断の努力でレギュラーをつかみ取っていった野村は、ひとりひとりの選手の資質を見抜く能力に長けていました。
東映から江本、読売から山内新一、松原、阪神から江夏。いわゆる「宝の持ち腐れ」状態であった選手を入団させて、適材適所で起用して、輝かせるのです。
集団においては、それぞれのメンバーは必ず能力を最大限に発揮できる場所があるはずで、それに気づかせて、うまく配置してあげる。これこそがリーダー指導者の力量。
エリートをかき集めて強いチームを作るのは、金さえあれば誰でもできること。読売の現監督はまさにこれ。
これは後に高校教員になった際に、学校行事や部活動指導で一番重要視したポイントです。
「ちょっとした一言アドバイスで生徒は変わるし、その子が輝けるポジションを見つけてあげて配置しさえすれば、あとは教師は前面に出なくても、放っておいて大丈夫」
さて、日本ハムファイターズである。
新庄監督といえば、派手なパフォーマンスのイメージが先行して「チャラい男、目だちたがり」となんてことを言われていますね。
いや違うんだな、これが。
この人は阪神の選手時代に野村監督から多くのことを教わった秘蔵っ子ですから、「弱小戦力であっても、最大限に個々の選手の能力を発揮させて、なおかつ斬新でクレバーな作戦を敢行することで、下剋上は可能」ということを知っています。
就任1年目の昨シーズンは監督自身のパフォーマンスばかりが注目されて、数多くの批判を浴びました。成績もリーグ最下位でしたし。
でも、就任2年目。
CSで試合中継を観ていて、監督の選手起用法において、随所に野村の教えが見えるのです。「新庄再生工場」が実を結びつつある。
(ちなみに岩本解説の時は音声消してます)
ソフトバンクから田中正義 獲得 → クローザーとして開花
阪神から江越 獲得→ バッドに軽く当てるだけでいいからとアドバイスして今や俊足堅守のレギュラー
中日からマルチネス獲得 → キャッチャーとして起用して開花
オリックスから斎藤 獲得→ リリーフとして重用
自チームの若手選手(というか若手しか存在しないチームだが)だと
清宮 → ダイエットさせる
鈴木 → アンダースローに変更させる
清宮、今川、松本、加藤豪、五十播、浅間、ポンセ、金村 などけが人が一気に続出して、まともなオーダーが組めない現状ですが、それでも若い選手がどんどん起用に応えているので、チーム成績は好調です。
3年前のオリックスを思いだします。
暗黒球団と揶揄され、チームもバラバラだったが、中島2軍監督が代理監督として昇格し以来、それまで前監督に干されてくすぶっていた若い選手を次々に適所で起用。
杉本、宗、福田、伏見、紅林などが覚醒して、チームとして戦える集団にみるみる変貌していったのです。
「新球場のアクセスが悪い、とか建築規定違反だったとか、キツネダンスしか見どころがないとか、新庄のコメントが無責任で軽い、」とか、いろいろと本来の戦力以外のことで批判されて話題になっていますが、いやいや 実はこのチームはロマンに溢れてます。
もともと並外れた野球の才能の持ち主の集団なんだから、若い選手はちょっとしたアドバイスで変貌する(それを受け入れるかどうかは本人次第ですが)。
高校軽音楽部の指導者としての目で新庄ファイターズの動向を観察すれば、参考になることがいっぱいありますね。
パリーグファン40年の私が断言します。このチームは来年はリーグ優勝争いをします。
ただし、監督が変われば元の木阿弥です。
嫁のスキャンダルで監督を解任され、チームを追われた野村監督のようなことにはならぬよう祈ってます。