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Wall Is Beginning

※アルバム毎に記事を作成し、随時更新していく形です。最終更新日:2024.11.22



1.そのTAXI,160km/h


横も縦もカッチリとはまった出だし。アクセントはアクセントでも、横ではなく縦アクセントのようで「何かが来る」という予感を聞き手に与えている。イントロはやや長めだが、様々なリズムが絡み合い、飽きさせない作りになっている。ギター、ベース、ドラム。一見すると皆がやりたい放題やっているように感じられるが、4人の軸は決してブレていない。曲が進むにつれて、初めは休符だった部分にも音が加わり、より細かいリズム感が伝わってくる。「これから始めるぜ!」というメッセージを掲げて、イントロを勢いよく駆け抜けていく。


そんな強烈なイントロを抜けて始まる歌。既に曲のイメージが固まりつつある中で、ミツムラ氏のエネルギッシュな歌声が加わる。溢れんばかりの力強さが伝わってきて聞き手、ひいては「A少年」の心に訴えかけてくる。やけにパンチの効いた歌詞は、まさに「ミツムラ節」の幕開けと言ってもいいだろう。


そして間奏部分。一見ごちゃごちゃしているようにも聞こえるが、聞き手の中で曲のイメージをさらに固めさせるように感じる。私の頭の中に浮かぶイメージはこんな感じだ。


真夜中の高速道路。タクシーがA少年を乗せ、160km/hで走っている。日本では速度超過もいいところだが、夜中のため誰にも咎められることなく、ただただ走り続ける。「決勝戦」で敗北し、落ち込んでいるA少年を励ますかのように、タクシーは猛スピードを上げる。「絶頂へ連れてったる」という運転手の言葉を最後に、車内には160km/hの轟音だけが響いていた。


最後のサビ前では、音が伸びてリズムが一旦落ち着く。この部分は、夜明けとともに朝日が昇る情景を想起させる。しかしタクシーはそのまま加速を続け、最終的には空を飛んでいったのかもしれない。なぜなら、最後の歌詞が「お前は今どこにいる?」だからだ。タクシーごとぶっ飛んでいってしまった可能性が高い。少々極端な解釈かもしれないが、A少年自身はきっと「なんか吹っ切れたぜ!」と思っているだろう。


この曲に込められたメッセージについて考える。ただの推測に過ぎないが、「悔しい時は閉じこもっていないで外に出ろ」ということではないかと私は考えた。人間は落ち込むと部屋に引きこもりがちだが、そういう時こそ気分転換が必要だ。この曲はそんなメッセージを伝えているのではないだろうか。

NICO Touches the Wallsというバンドとして初のアルバム、その1曲目にこの曲を据えるとは驚きだ。初めて聴いた時、音の大きさと激しさに「なんだこれ!?」と衝撃を受けたのを今でも覚えている。イントロから一気に心を揺さぶられた、そんな特別な思い出がある曲。それがそのTAXI,160km/hだ。


2.行方

イントロではなくサビの一節から始まるこの曲。ミツムラ氏の声に心を強く揺さぶられる。初めて聴いた時は「何だこの曲!?」とかなり強い衝撃を受けた。歌詞を見ながら再生すると、いきなりサビから始まるのだから。初見殺しだった。


そんなサビから始まり、ドラムのカウントでイントロへ。シンプルなようにも感じられるが、ミツムラ氏パートが結構良い動きをしている。某動画サイトにうpされている古いライブ映像では、これまたイカしたアレンジが施されていたり…しかし、これは大きな声では言えない。小声で、小さく。

 
一旦アルペジオ主体になった後Aメロへ繋ぐ。ここから歌を活かす作りに仕上がっており、シンプルだけどリズム感は失われていない。


そしてBメロに繋がっていくのだが、個人的に美味しいポイントがあって、それがギター・ベース主体の打ち込み。マーチでいうところのペット・ボーンが担うようなアレが、この曲では良いアクセントになっている。しかもスタッカートではなくきちんと音の余韻を残すマルカート。ぶつ切りでやると確実に曲が台無しになることは明白だが、メロディーと上手く噛み合っててまとまりが生まれている。この曲のBメロはかなり好きだ。

 
サビに入り、冒頭から聴いていると二度目になる。この曲は全てサビの歌詞が同じなのだが、回数を重ねる毎に深みが増していく。まるで自分に言い聞かせているようにも感じ取られ、聞き手へ訴えかけたいことがよく分かる。それは後ほど曲のイメージの時に書く。

 
サビが終わり、ドラムの遊びを経て再びAメロBメロへ。2回目となるとやはり変化球があり、様々なところで違いがあってこれまた面白い。そういうものなのかもしれないが、聴き込めば聴き込むほど比較ができて楽しい。メンバーの遊び心、いや音楽に対する熱に感謝したい。そして、このアルバムも2年以内に20年前のものとなってしまうということに驚きを隠せない…
 

そんなこんなで間奏に入るのだが、同じテンションでフルムラ氏のソロが終わると、ミツムラ氏のギターのみとなり一旦落ち着く。このギターもまた裏拍を感じられる演奏で、そのあとドラムも裏から入ってくる。そしてピタッと演奏が止まってミツムラ氏のボーカルを筆頭に曲が終わりに向かっていく。サビもアウトロも非常に良く、スキャットを挟んだ後に余韻を残しながら終わる。

 
1曲目のTAXIとは全く違った曲調だが、いつかのインタビューでメンバーが重要な曲だと話していた通りだと思う。「良い曲」の一言で終わらせたくない、たくさんの魅力がこの曲には詰まっている。活動終了までリリースされてきた曲を全て聴いてからこのアルバム、この曲に戻ってくると心が浄化されたような不思議な感覚に包まれる。

 
ここで、この曲のイメージを書いてみる。

夜明け間近だがまだ暗い。とぼとぼとひとりの青年が歩いている。青年が想いを寄せる「君」はどれだけ手を伸ばしても届かないような人気者。「回り道」=自分磨きをして「君」を奪いたいが、「君」に「寝言はいらない」と言われる。つまり寝言は寝て言え。そんなことを言われたものだから青年の足は震えてしまう。しかしそれでも歩むことはやめない。そして「不透明な空中」は辺りが真っ暗で何も見えない、つまり自分を取り囲んでいるはずの環境でさえも青年を認識していない。だから「行方知れずの僕」であり、青年はそのままどこかに消えてしまう。

…おかしいな。ホラーになってしまった。
この曲に込められたメッセージは「寝言は寝て言え」と言われる前に動け。日頃から考えて行動すれば、その頑張りを見て認めてくれるような人が現れる。だから自分を信じて努力せよ。過大解釈かもしれないが、私はそう考えた。


いつしかのインタビューで「大切な曲は?」という問いに対して、3人がこの曲を選んでいた。それを読んでから上のようなメッセージが浮かんで、私自身も何に対しても頑張ろうと思えた。

落ち込んでいる時に聴くと、なぜか励ましてもらえて元気が出る。そんな不思議な曲が「行方」だった。