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【看販会特別レポート】『患者さんのため、看護師としてひとつ上のケアを提供したい』診療看護師が医療現場で果たす役割と看護の未来(前編)

診療看護師(NP)は特定行為*を含む診療の補助行為を、医師の不在時でも包括的指示のもと自らの判断で実施できる看護師です。

資格取得には看護師として5年以上勤務し、指定大学院で2年間就学したのち、日本NP教育大学院協議会の認定試験に合格する必要があります。

現在417名の診療看護師が全国で勤務しており(2019年4月現在)、今回は戸塚共立第1病院(神奈川県)の診療看護師4年目、Mさんにお話しをうかがいました。

*特定行為とは診療の補助のうち、実践的な理解力、思考力および判断力ならびに高度かつ専門的な知識および技能が特に必要とされる行為。21区分38行為が該当する。

【診療看護師を目指して】

患者さんのため、医師と対等な立場で話がしたい

-Mさんはどのような経緯で診療看護師を目指そうと思われたのでしょうか?-

私はクリティカル領域を中心に15年間働いてきました。徐々に病棟のリーダー業務や新人指導も任されるようになり、患者さんや後輩から質問される機会も増えました。

その中で、質問に対する回答に医学的な情報が足りないのではないかと思い始め、また先生が求められていることに対し、的確に情報を与えられているのかという不安がうまれました。

例えば看護師としては患者さんの離床を進めたいが、医学的には大丈夫だろうか、先生の考えはどうだろうか。薬の話で言えば、抗菌薬を使用する場合、点滴なのか内服なのか、ほかに違う方法がないのか。

医師の指示を待つのではなく、自身の判断でケアをしたり、医師へ提案ができるようになりたい。その思いが日に日に強くなっていきました。

-看護師の資格には、認定看護師や専門看護師という資格もあります。なぜ診療看護師を選ばれたのでしょうか?-

たしかに認定看護師、専門看護師という選択もありました。自分のキャリアでもクリティカル領域が長く、好きだったので。

ただ、これらは専門領域に特化しています。自分の今後を考えたとき、おばあちゃんになっても看護師をやりたい。最終的には在宅看護も視野に入れていました。

それを叶えるためには、看護的な学習だけではなく、身体診察やアセスメント能力を高めて、患者さんを「診る力」を身につけたいと考え、医学的な診断力が求められる診療看護師を目指しました。


「看護は教えません」。大学院での学び
 
-そのような思いがあり大学院へ進むことを決意されたわけですが、入学試験はどのような内容で、対策はされましたか?-

入学試験は筆記試験と面接があります。筆記試験はどのような勉強をすればわからなかったのですが、幸い先輩がいましたのでどのような問題が出るのかを聞いて勉強をしました。問題自体は臨床看護的な内容ではなく、基礎医学や関係法規などでした。

-授業内容はいかがでしたか。やはりレベルは高いのでしょうか?-
 
授業に入る前に「ここでは看護については教えません」とはっきり言われました。看護の知識があることが前提で入学しているわけですから、当然といえば当然ですが(笑)。

講義は医師が学ぶレベルの内容でした。講師の先生が非常にわかりやすく講義をしてくださったので楽しみながら学べましたが、解剖学や薬理学は大変でしたね。

特に薬理学は代謝酵素の名前や成分、効果など薬学部で学ぶレベルの内容です。患者さんの年齢や疾患によっても薬の効き方は違うので、そこの理解ができないと実際のアセスメントに使えません。

ですから学ぶ内容のレベルは高かったですね。でも病院を辞めて全日制の大学院へ通ったので、勉強に集中できたことは良かったと思います。

ー資格試験の勉強はどのようにされましたか。また合格率はどのくらいなのでしょうか?-

学ぶことが医学なので、医師の国家試験過去問題集を使って勉強していました。量も多いので直前までやっていましたが終わらないような状況でした。

合格率はもともと受験者が多くはないのですが、だいたい9割くらいです

-意識が高く、レベルの高い方が集まっていても全員が合格できるわけではないのですか。やはり取得が大変な資格ですね。-

【診療看護師の役割】

朝は回診から。診療看護師の一日
 
-資格試験に合格し、現在の病院へ就職。消化器センターへ配属されたMさんの一日の業務の流れを教えてください-
 
出勤後、消化器センターの入院患者さんの状態や夜間のできごとを確認し情報収集をします。その後、朝の回診を行い、その結果を医師とカンファレンス。検査データの確認や、手術の予定などの確認をします。

カンファレンスが終わると、病棟のリーダー看護師とともに病棟回診。病棟看護師から患者の治療方針などの質問に対応します。その際は医師の指示根拠や観察のポイントなども伝えています。

手術がある日は助手として参加もしています。午後は診療看護師だけで回診し、薬剤科との方針の確認、各種カンファレンスに参加。救急外来の対応や翌日の入院患者さんの指示確認、カンファレンスという感じです。

-相当なハードワークですね。カンファレンスの多さに多職種との連携が大事な役割であることもわかります-


集合ミーティングを通じて、情報共有とコミュニケーション力の向上につなげる
 
-回診時など看護師からの質問も多いとのことですがどのように関わっていますか?-
 
忙しい医師には聞きにくい内容を質問されることが多いです。例えば患者さんの治療方針の確認や薬剤についてなど。

自分の業務もあるので、直接確認してほしいと思うこともありますが、見過ごしてしまう患者さんの小さな情報が得られるので、なるべく対応するようにしています。

-看護師のスキルアップための勉強会などは実施されたりしていますか?-

勉強会というわけではありませんが、リハビリのスタッフを招いて呼吸リハビリテーションについてのミーティングを週一回、ICUスタッフと行っています。

参加者それぞれが意見を出し合って情報共有ができるようにしています。たまにリハビリスタッフには講義もしてもらっています。

-そのような場を設けても参加者の意識がなかなか統一できないことが多いと思いますが、最初からうまくいきましたか?-

最初のころは、みんなが集まれる日に実施していたのですが、そうすると業務の都合などで一か月に一回しか開催できないということもありました。それを何日に実施しますので参加してください、と半ば強制参加のような形にかえました。

また、司会進行することをやめて、意見が出るように促す役に徹しました。結果、担当している患者さんの気づいたことや質問などが積極的に出るようになり、今では、ミーティングがある日は各自が業務を調整して参加してくれるようになりました。

-ミーティングを継続して行ったことで参加した看護師に変化などはありましたか?-

看護師から直接言われたことはありませんが、リハビリスタッフからは看護師との会話が増えたので、業務の流れがスムーズになったといわれました。

今までは、”ここからはリハビリの領域だから”と一歩引いていた看護師が積極的に関わるようになりました。多職種とともに今まで以上にケアできるようになったと感じるので、コミュニケーション能力が向上したのだと思います。

また、様々な施設から当院へ来ている看護師が多いので、今はこうだよと最新のやり方を教えても知識と行動が追い付かないことがありました。ミーティングを定期的に行うことによって、その差が埋まり理解も深まっていると感じます。

それと医師からの指示を一度自分たちで考えて、自分の意見として発言することが増えたように思います。例えば、患者さんの状態が変わり、薬の種類を減らすときに薬剤師と相談することがあるのですが、担当看護師も加わって、こうしてほしいという要望を伝えてくることもあります。

-ミーティングを定期的に行うことで意識が高まり、コミュニケーション能力の向上とともに、積極性も加わってきているのですね。-

知識と経験をぶつけ合い、お互いを高める 

-看護師以外の医師、薬剤師などとの関りも多いかと思いますが、どのようなコミュニケーションをとっていますか?-

自分たちはカンファレンスで必ず医師と会います。そのこともあって薬剤師からは薬の処方に関する相談を受けることが多いですね。薬剤師は医師に伝えて欲しいという思いがあり、こちらも薬の情報を薬剤師からもらったりしています。

また医師からの依頼で検査オーダーを出したり、他院からの患者さんのコンサルテーションもします。指示書に書かれていないことでも診療看護師はアセスメントをした上で医師に提案し、実施することもあります。医師からは任せていただくことも多いので、信頼関係は大切だと感じています。

-認定看護師や専門看護師ともお互いに情報共有することはあるのでしょうか?-

当院にはがん看護専門看護師がいて一緒に回診することがあり、がんの専門知識を教えてもらっています。自分たちはさまざまな臨床場面を見てきているので、経験的に気づいたことなどを専門看護師へ伝え、互いに知識と経験を融合させています。

専門看護師はたくさんの専門知識をもっていて、私たちはたくさんの臨床経験をしています。時にはバチバチやりあうこともありますが(笑)、お互いが高めあうことで、患者さんに最適なケアができているのだと思っています。

-医師、薬剤師、専門看護師、その他メディカルスタッフ。それぞれのプロフェッショナル同士が互いに信頼しあっているからこその関係性ですねー

(後編へつづく 1月23日更新予定)

日本NP教育大学院協議会ホームページ

https://www.jonpf.jp/

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