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かつて海に行った佐野寛へ

夏が始まっていた。

8月だ。

紛うことなき夏である。

7月は梅雨と表現する逃げ道がある。

9月は秋と表現することができる。

しかし8月は夏としか言いようがない。

もう夏が始まっているのだ。

8月は夏じゃない・・・という御託を並べる人間がいるなら、私の前にその面を差し出してほしい。

屈強に鍛え上げた肘をその顔面に埋め込んでやることをここに誓う。


8月といえばなんだろう。

かき氷、花火大会、素麺、公園でする花火、スイカ・・・

きっと貴方の脳内では花火系と食べ物系がフラッシュ暗算の如く交互に現れていることだろう。


そんな貴方の脳、そのものにドロップキックを食らわせたい。

ミスチルが秩序のない現代にドロップキックを食らわせているなら

私は花火と食べ物に脳が支配されている貴方の脳に助走をつけてドロップキックを食らわせてやる。


8月と言えば・・・

海だ。

海にはたくさんの人間がいる。

白いビキニで大切な人にのみ見せる部分以外はさらけ出している女性。

このシーズンのために連日身体を鍛え上げた自らの肉体をお天道様に焼き上げてもらってる男性。

あとはガキとか。


海には夢がある。

今日はそんな海に。

青年・佐野寛が挑んだ話。


高校2年生。

佐野は猛っていた。

「そろそろ女性となにかが起こりたい」

当時の佐野の女っ気0具合には静岡県全体が呆れかえっていた。

周りの友達は、やれ彼女ができただの

今度の花火大会、あの子を誘っただの


佐野はその手の話題とは無縁だった。

無縁なんて言葉じゃ生温いほどに。

休日は映画や漫画三昧。

平日は野郎どもと部活動。


そんな佐野に転機が訪れたのは高校2年生の修学旅行であった。

行く先は南半球の雄、オーストラリア。

4人で1班を形成し、自由行動を命じられた。

そこで班のメンバーが言った「海(ビーチ)に行こう」の一言に

佐野は猛ったのだ。

「海に行く・・・・」


海外という慣れない舞台ではあるが

佐野が男、、、もとい「漢」になるにはもってこいのシチュエーションじゃないか。

俺はこのオーストラリアのビーチで漢になる。

ビキニギャルと・・・

「写真を撮る!!!!!」(あわよくば付き合う)


そんな野望を持って佐野は野郎ども3人を連れてオーストラリアのマンリービーチに向かったのだった。


晴れ渡る空、きっとこの世の青の中でも最も蒼い大海原。

カラッと乾いた風とサングラス必須と呼ばれている日射が佐野の脳天を貫く。

オーストラリア・マンリービーチ。


ここが佐野に「性欲」が宿って、初めて訪れた海だ。


清掃員がいなければ説明がつかないほどに美しい砂浜に異国の美女たちが所狭しと並んでいる。

さぁて。

どの美女を落とそうか・・・


舌なめずりが止まらなかった。


班のメンバーも美女と写真を撮ることに躍起になっていた。

全員が「すげぇ!!美人ばっかりだ!!」と叫んで声を枯らしていた。


私は1人じゃない。4人で力を合わせればきっと美女と写真を撮ることくらいは容易いだろう。


まずは2人並んで寝そべっている金髪美女に声をかけた。

きっと佐野がよく眠る男と知っているからこその待機ポーズ。

「私たちも寝ることが好きなんです」という同じ趣味アピールに違いないと確信した私は声をかけた。

佐野「HELLO」

まずは英語圏のテンプレであり、福山雅治の代表曲でもある「HELLO」を繰り出した。

その刹那

「NO」


オーストラリアの乾いた風に強く影響されたのか、金髪美女は食い気味に潤いのない声で「NO」と言った。


日本語訳で言うところの

「こんにちは」

「いいえ」

である。


これが海外か・・・

とんでもない洗礼だ。

挨拶に対して「いいえ」と言われるのがオーストラリアという土地であるらしい。

高校生の私にはとてもじゃないが理解ができなかった。


「これはいったい・・・」


班のメンバー同士で顔を見合わせた。

今何が起こった・・・??


蒼写真では

美女に声をかける⇒会話が弾む⇒写真を撮る⇒連絡先を交換⇒連絡を取る⇒宿泊先のホテルを抜け出し食事へ行く⇒一緒にビーチへ行く⇒告白をする⇒お持ち帰り(日本へ)

であったが

現実は

美女に声をかける⇒NOと言われる⇒思考が停止する⇒見慣れた男たちと目を合わせる

このように時系列でまとめると、序盤も序盤で予定が狂っていることが分かる。


それからも連戦連敗。

挙句「ギャー!!!!!NOOOOOOO!!!!!」

と警察の判断次第では現行犯になりかねない拒絶のされ方をしてしまった。



「俺たちは通用しない・・・・」


認めたくないこの言葉が脳裏をかすめた。


完全に相手にならない状態。

勝てる絵が浮かばない。

なんか、、、こう、

バイト先のめちゃくちゃ威圧的な先輩や店長に睨まれている時と同じ感覚。

思考が停止して、次に繰り出す自分の行動に自信が全くない状態。


「諦めよう・・・」


班の1人がそう発した時、誰一人としてその発言に反対する者はいなかった。


人生初の海ナンパは、記憶から抹消したいほどの惨敗。


帰り道、同じ高校のサッカー部のイケイケ集団と

同じ高校の可愛い女子生徒群が一緒に行動しているところを見て

「寂寥感」の意味を知った。


その後、人生で5回ほど海に行った。

何れも男性とだ。

そして今は海にすら行かなくなった。



かつて海へ行った佐野へ。

苦手だとか 怖いとか気づかなければ

君は彼女ができた。

しかし君は挑んだ結果、苦手・怖いという感情に気づいた

君が挑んだ敵はあまりにも強大だ。

負けた責任は君にはない。

敢えて責任を問うならば

無謀なチャレンジをした君が悪い。

挑戦したことを責める稀有な例を君は叩き出した。

そこに価値を見出すかどうかはキミシダイ。


かつて海へ行った佐野へ

墓場に入るまでに

君はいくつの理想を壊され

残酷な現実に思考が停止することだろう。

恥をかくなら早い方がいいけど

早すぎると何も挑戦しない大人になる。

無傷のまま大人にはなれない。


かつて海へ行った佐野へ

負けるという感覚をありがとう。

君は懲りずにステージを変えて女性を求め続けている。

合コン、マッチングアプリ、相席屋・・・

手ごたえも成果もないけれど

あの頃挑んだ君に負けないように

俺はグラビアアイドルと付き合えるように


君は大器晩成

時が来たらかませ!!!







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佐野寛
みなさんからのサポートで自分磨いて幸せ掴むぞ♪