営業はおわってからが、面白い@ 池袋北口店

「では、ここに印鑑をお願いします」
女性が、張りのある声で、こう言った。
「はい」
顧客の男性がうなずく。

「空室ゼロになるよう、お手伝いしますね!」
「よろしくお願いいたします」
どうやら、アパート経営を始めるようだ」

電話していた男性が席に戻ってくる。
「今日は、お仕事早くおわったんですか?」
「ウチは都の組織も入ってるんで、
プレミアムフライデーは早く帰れって」
「えー、まだあるですね。でも、そのおかげで
今日、契約までいけましたね」
「ですねー。素人ですが、
がんばりますので、よろしくお願いいたします」

固い握手を交わす3人。

「私たちはここでまだ仕事がありますんで
お先にお帰りください」

金曜夜の池袋北口店の醍醐味は
この一言につきる。

「では、お先に失礼します」

アパート経営の契約をおえた
お客さんが帰ったあと、
営業職2人の反省会が始まるのだ。

「どうでしたか?私」
「坂田は自分でどうおもった?」
逆に聞き返すのは、上司と思われる
30代半ばの男性だ。

「ロープレの流れどおりにやるのが
精一杯でした」
坂田と呼ばれた女性は新入社員だろうか。
上司の顔を覗き込みながら
恐る恐る答える。

「よかったんじゃないの?」
上司がざっくりした答えをする。

「えー? 中野さん電話してて見てなかったじゃないですか?」
反論する坂田さん。

「だからいいんだよ」
「え?どういうことですか?」
「俺が電話してても、ちゃんとやれたじゃん」
「えー?」
坂田さんの声のトーンが少し上がった。

「飯食いいくか? 軽く」
上司の中野が言う。

「軽くですよ、軽く」
坂田が嬉しそうに答える。

一仕事おえた、2人の男女が立ち上がる。

思わぬ褒め方をされた部下。
中野をみつめる坂田の目が
やわらかくなった。

ルノアール池袋北口店。

金曜の醍醐味は
契約がおわったあとの
営業さんたちのまなざしだ。

昆布茶を飲み干して
私も席を立った。

#ルノアール

いいなと思ったら応援しよう!