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ビミョーを愛する国の人びと
物ごとは須らく白か黒かではすまされない。
異国の方々には理解が及ばないかもしれないが、世のなか常に答えがひとつというわけにはいかない。時にはどちらでもないとか、どちらともとれる結論、ということがよくある。
日本人の、何ごとにも微にして妙な、しかし見え方によっては曖昧な、玉虫色の処し方や思考は、よく「日本人論」のネガティブ文脈に登場する。
こうした日本人の特徴は、論理的思考や合理的判断に当を得る欧米人には珍奇不可解に違いない。
だがしかし。日本人はどうしようもなく複雑で多様で繊細なのだから仕方がない。よく発達した左脳を持ちながらも、右脳の作用を愛し慈しむと言われる。そして、理屈や道理が通らぬ局面でも感覚的思考が捨てられず、むしろそれを楽しむ。
雨や風の呼称がそれぞれ数百通りもあるという。
一人称は多様に使い分ける。数の勘定はものにより単位も発音も違う。
一がすべてイチならツマランということでもないだろうが、
紙ならイチ枚だけど、着物ならヒト重。鉛筆ならイッ本。日にちならツイタチだし、
名前ならハジメとなる。多様にして複雑だ。
異人さんはお手上げだろう。
ビールはコクにキレ。ノドゴシなんていう。
映画を評するに、読後感などという。それで通じる。分かり合える。
ぬる燗派と熱燗派の論争に人肌派が割って入る。
繊細などという言葉では説明がつかない。異人は従いてこれまい。
分かりっこない。
決められない男はダメ、とはいうけれど。決めれば良いというものでもなく、決めるに至る様々な背景や曲折も大事なわけで。そこに至る過程が尊ばれたりもする。その辺りの空気を解さぬ輩は逆に即刻退場、となる。
空気。エアと訳せぬ、読むか読まぬかの空気。そう、山本七平が研究した空気。物事の決まり方は単純ではなく、理屈より空気で決まる。なんてこともよくある。
同質の民だからこそ深まった精神文化。和をもって尊しとなす。
豊かな自然への畏敬。先祖や皇室への尊崇。祭りごとを慈しむ心と感性。
阿吽。侘び寂び。讃えればキリがない。
愛すべきニッポンの微妙。
出口のないお話。お粗末御免。