(37)別れようと言ってみた
夜中、寒くて、
先に寝ている夫の温かい布団にもぐりこんだ。
いつも布団を並べて敷いて別々に寝ていて、もちろんイトナミは毎晩なく、彼の方からのスキンシップもないけれど、あったまるためにくっつくくらい、いいだろう、と思ったのだ。
しばらく経った頃、
夫は、わたしの掛け布団を整えて、自分の掛け布団にくるまって、そっとわたしから離れた。
切り離された、と感じた。
また拒否されて、壁をつくられたと感じた。
いつもそう。そんなふうに、突き離される。
くっついて寝るだけも、ダメなのか...
と、絶望的な気持ちになって、
「そんなに嫌なら、もう別れよう」
とつぶやいた。
夫は、静かに(でもたぶん慌てて)、
「誤解だ」
と答えた。
かの子がもう寝たと思って、布団をかけたんだ、と。
誤解...
そうかもしれないけれど、
哀しく感じてしまったのは事実だ。
なにしろ日々、イトナミがないことに傷つき続けているのだから。
それからしばらく、お互いの布団に入ったままポツポツと話して、
夫は、
かの子が好きだよ。
好きだから一緒にいるんだよ。
と言った。
そしてわたしの方に手を伸ばして、
頭をそっと撫でた。
そしてそのうち、静かに眠りについた。
わたしは、
取り残されたような気持ちでいた。
別れよう、と言ったことばも、宙に浮いたままだ。
急に思いついて言ったことばではない。
ここのところ、しばらく本気で考えていたことだ。
わたしは、こちらに気持ちがない人を虚しく追いかけ続けるのはもうそろそろ本当にやめたい、と思っていて。
夫のことも、須藤さんのことも。
でも、好きだから、
そんなに簡単には別れられないとは思うけれど。
なんとなくの意思表示を、
自分に向けての意味も込めて、
この夜は、言葉にしてみたのでした。