(79)失恋の翌朝
傷ついたままのクリスマス・イブは、
ちょうど夫も息子も留守だったので、
誰の目も気にせずに、泣くだけ泣いた。
翌朝にもし、泣いて腫れた目のことを聞かれたら、
韓国ドラマで泣いたと答えよう。
そんな冷静さもあった。
深夜に後輩男子のハルくんを連れて帰ってきた夫は、
わたしの異変には気づかないまま、翌朝また仕事に出かけていった。
15歳年下のハルくんは、よく家に遊びにくるのでわたしとも仲が良く、夫が出たあともそのまま布団に残っていて、
3つ並べた布団の、間の夫のからっぽの布団をはさんで、お互いそれぞれの布団に入ったまま、ふたりでぽつぽつと話をした。
ハルくんには今までも少しだけわたしの恋の話をこっそりしていたので、
昨日、フラれたんだ
と打ち明けた。
どうせ泣き腫らした顔でバレちゃうから、キミには言うね、と。
ハルくんは、しずかに話を聞いてくれて、
向こうの布団から手を伸ばして、わたしの手を握ってくれた。
「オレの手はあたたかいですよ」
たぶん、わたしがそのまま彼の布団にもぐり込んで、「やさしくして」と言えば、抱きしめてくれるだろう。
でもさすがにそんなことは、しなかった。
夫の後輩だし、関係が近すぎる。
それでも、哀しい朝に、彼の存在に癒された。
一緒にゆっくりと朝ごはんを食べて、ハルくんは帰っていった。