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【物語の現場008】お夕さんが見下ろしていた柳橋(写真)

「融女寛好」の第二十八章に登場した柳橋の芸者兼船宿経営者・お夕さん。狩野素川の同棲相手であり、ひと声で討ち入りの人数を手配できてしまう女ボスです。

 写真は、彼女が眺めていた風景の二百年後。緑色の鉄骨の橋が柳橋です。手前に流れるのが神田川、橋の向こうは隅田川。
 物語では冬の朝。当時は視界を遮るビルもありませんから、隅田川の対岸まで見通せたはず。広大な御竹蔵の上に顔を出した太陽が、一面、柔らかな朱色に染めていたことでしょう(東京都台東区、2021.11.15撮影)。

 さて、柳橋が架けられたのは元禄十一年(一六九八年)。当然、木橋でした。鉄橋になったのも明治二十年(一八八七年)と意外に古い。そして、関東大震災で崩落し、昭和四年(一九二九年)十二月に今の姿となって復活。

 川沿いには今も屋形船が並んでいます。江戸時代は、猪牙船(ちょきぶね)と呼ばれる屋根のない舳先の細い小さな船の方が多かったようです。
 猪牙船は、舟遊びのための船ではなく、この辺りから吉原に遊びに行く客を乗せていました。融川や素川も使っていたかも。

 さて、物語はいよいよ大詰め。いつの世でも、本当に厄介なのは身内であったり、同業者であったりするものです。最後まで、よろしくお願いします。

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