【物語の現場045】御前様お気に入りの江戸湾の夕景(写真)
「狩野岑信」の第五十七章では、甲府藩主の正室・近衛熙子が江戸湾の夕景を眺めながら主人公・狩野吉之助と対話するシーンを書きました。
物語では、熙子が浜屋敷(現浜離宮恩賜庭園)の潮入の池と船着場の間にある築山の上から眺める景色をとても気に入っているという設定。
写真は、少し角度は違いますが、江戸湾(東京ベイエリア)の夕景(東京都中央区、2023.11.8撮影)。
元禄時代には月島方面の埋め立て地はなかったので、随分景色は違います。遥か遠くまで見通せたはず。一方、浮世絵などを見ると江戸湾の中では無数の小さな船が行き交っていました。漁をしたり、人や物を運んだり。
熙子がそれを景色の一部として愛でてくれればよいのですが、もし、「なんか目障りね」とでも呟けば、翌日から浜屋敷に面する海は公儀の御用船を除き進入禁止となっていたかも。
彼女は、後に幕府の窮地を救う大きな決断を下します。そのことからも分かるように、非常に聡明な女性でした。ただ、どうしようもなく貴族なのです。この世に生を受けて以来、常にかしずかれる立場にあり、庶民感覚など端からありません。
吉之助は今後ますますこの魅力的な女主に振り回されることになります。そして、多くを経験し、成長して行くのです。
ちなみに、近衛熙子と松平綱豊は、当然ながら政略結婚でした。しかし、結婚後は史実としても仲睦まじい夫婦だったそうです。