つづれおり・後日談「ある晴れた爽やかな日に」
現代文の授業中だ。教科書には中村草田男の俳句。
こんな欠伸の一つも入れたくなる長閑な季節に、オレの歯は生え始めたんだってな。
先生の上っ面で耳触りのいい解釈を聞き流し、教室のガラス窓の向こうを見遣った。
確かにあそこの小さな公園もこんもりと緑が生い茂るが、
山の中、周囲を鬱蒼と木々に取り囲まれどこにも逃げ場のない田舎……あの日木室さんが語ってくれた情景を、オレは頭に描いた。
記憶の無いページにまた一つ、上書きしとくよ。
「万緑の中や吾子の歯生え初むる」