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【秋田県大館市】鉱業!曲げわっぱ!比内鶏!大館郷土博物館は大館の魅力が凝縮されていた

 秋田県北部にある町、大館おおだて市。
 秋田県県北の中心都市であり、全国的には毎年秋に行われるきりたんぽ祭り秋田犬比内地鶏などで有名な街だろう。
 かつて城下町として栄えたこの街の産業や文化を伝える博物館が大館郷土博物館である。

大館郷土博物館外観。
中心部からは少し離れた場所にある

 以前紹介した青森県五戸ごのへ町のごのへ郷土館 (旧・豊間内とよまない小学校)と同様、ここ大館郷土博物館も廃校となった大館東高等学校を再利用した郷土博物館だ。

小林多喜二は現在の大館市出身。
ゆかりの人物ということ文学碑も設置してある

 また、ちょうど去年の今頃に投稿したきりたんぽ鍋の記事で触れた、秋田三鶏記念館が併設されているのものこの博物館だ。
 12月から3月にかけての期間は冬期閉館中であり記事を投稿している12月現在も閉館中ではあるが、国の天然記念物である比内鶏ひないどり声良鶏こえよしどり金八鶏きんぱどりの3種類の繁殖と展示を行っている施設であり、規模こそ大きくはないもののかなり楽しい施設だった。

秋田三鶏記念館外観。
簾の向こうのあたりで鶏の生体展示が行われている

 強調するが秋田三鶏記念館は飼育・繁殖が行われている施設。
 当然のことながら万が一にでも鳥インフルエンザなどの感染症を持ち込んでしまわないよう、見学の際にはしっかりと玄関で消毒を行おう
 近年一般的に防疫意識は向上している(と思いたい)が、改めての注意喚起である。

資料館入り口にも貼られている注意喚起
こちらが消毒液。
本当にごく簡単なことなのだが
展示されている鶏たちの命を守るためにも必ず協力しよう
飼育されている天然記念物である3品種の解説。
なお有名な話だがきりたんぽ鍋などに使われる食用可能な鶏は
比内鶏とロードアイランドレッドを掛け合わせた
比内「地」鶏の方であり
比内鶏は天然記念物のため食べられない
日本全国の他の天然記念物の鶏たちの解説もある

 因みにスタッフの方曰く、春になるとひよこの愛らしい姿を見ることができるので、できれば春に来るのが特にオススメとのことだ。

こちらは声良鶏。
その名の通りに鳴き声を目的として作り出された品種だ。
ニワトリの飼育が始まった当初の目的は食用ではなく
信仰対象だったという説がふと脳裏をよぎる
こちらは金八鶏。
シャモの血が入っているだけあり
スラリと背筋が伸びたシルエットがまだ特徴的だ
そして皆さんご存知であろう比内鶏。
以前にも書いたのだが、生きて動いている姿は本当に美しい

 さて、大館郷土博物館では入って右側の元講堂と思われる場所で大館市の自然科学や歴史などが展示されており、校舎側では1階に地元の画家の方による絵画の展示、2階にこども科学展示としてより幅広い科学に関する展示、3階では曲げわっぱや曲げわっぱの技術を応用した工芸品の展示が行なわれている。

入ってすぐの場所に展示されている
地元の企業からの寄贈品だという甲冑。
元城下町としての歴史が感じられる
大館市を代表する場所や動物、イベントなど紹介

 まずは右側、大館市の自然や文化について学べるコーナーから行ってみよう。
 こちらの展示館は中央が吹き抜けになっており、1階で自然科学やそれらを利用した産業についての展示、2回で大館市の歴史に関する展示が行われている。

展示館。元の建物の大きさや形状を生かした面白い構造だ。
1階と2階を行き来するスロープは緩やかで歩きやすい
展示室入ってすぐに展示されている巨大な杉の木。
かつてこの辺りでは城の柱などの用途に使用するため
質の良い杉を「御立木」として藩主導で保存しており
廃藩置県後も1本は保存されていたようなのだが
昭和の終わりに落雷の被害に遭い
切り倒さざるを得なくなったものなのだそうだ

 さて、大館市はかつて県全体として鉱業が盛んであった秋田県の中でも特に賑わいを見せた街であり、黒鉱くろこうという亜鉛や銅など様々な有用な金属を含む鉱石を盛んに採掘していた。
 ちなみに黒鉱そのものは男鹿半島や青森県深浦ふかうら街の千畳敷せんじょうしき海岸など、北海道から東北地方、新潟あたりにかけての日本海側の海岸の景色を構成しているグリーンタフ (別名:緑色凝灰岩)に由来していると言われている。

黒鉱とその採掘方法の解説パネル
黒鉱の実物を見て触ることも出来る。
そりゃそうなのだが、やはり黒い
黒鉱からとれる金属のインゴット。
様々な工業分野で幅広く使われているアンチモンや
近年えげつない値段の上がり方を見せている銅など
実に多様な金属を得ることができる

 大館市では花岡はなおか鉱山を中心に松峰まつみね鉱山や深沢ふかざわ鉱山などで黒鉱の採掘が行われており、大館郷土博物館では当時使われていた機材などの展示が非常に充実している。
 金属価格の低迷などもあり1990年代に鉱山は閉山してしまったが資源自体はまだまだあるとのことなので、今後も金属価格の高騰が続けばこれらの鉱山が再び日の目を浴びることがあるかもしれない。

鉱山で採れた鉱石や使われていた道具の展示
大館市内の高山で採れた鉱物の標本。
丁寧にカッティングが施され完成された宝石も美しいが
こういった鉱物資源の標本は見た目の美しさのみならず
ここからの利用法を想像したくなるロマンがあると思っている
技術が現代と比べれば未発達だったことに加えて
そもそも現場の労働者に対する安全衛生意識が
現代よりもはるかに希薄だった時代
鉱業は現代以上に危険と隣り合わせの仕事であった
かつて鉱山で稼働していた重機たちが多数展示されている
入り口に御立木が展示されているように
秋田杉に代表される良木に恵まれた大館は林業
そして採れた良木を用いた木工製品の製作も盛んだ
こちらは桶や樽を作る道具の展示
そして大館といえば欠かせない曲げわっぱ。
美しく滑らかな木目を持つ
上質な秋田杉だからこその工芸品だ
森や里山に囲まれた大館市は自然も豊かだ
こちらは大館に生息するチョウの色とりどりの標本
里山ではよくその姿を見かけるヤマドリやキジ。
美しいだけではなく、肉の味も美味しい
カモシカやアナグマ、テンなど
里山で見られる様々な哺乳類の剥製も展示されている。
剥製というと秋田のイメージがあるのだが
ここの剥製も非常に出来が良い
そしてもちろん天然記念物の鶏たちの剥製もある。
すぐそこで生きた姿が見られるとはいえ
近くでまじまじと見られるのはありがたい
そんな自然の中で行われていた農業にまつわる道具
もちろん大館でもかつての農業に馬は欠かせなかった
1階を一回りしたので今度は2階へ向かう。
スロープの壁には大館市の写真が飾られている
2階では大館で発掘された石器や土器に始まり
大館の歴史にまつわる品々が解説と共に展示されている
縄文時代土器の展示はもちろん充実。
時代の間に並べられた土器の数々。
発掘場所や形状からの分類などが1つ1つ詳細に書かれている
石器に関する展示も充実。
展示物が多いだけではなく1つ1つの解説が丁寧だ
祭祀用とされている謎めいた石器。
どことなく勾玉を思わせるフォルムだが、かなり大きい
この博物館のマスコット的存在の土偶。
グレイ型エイリアンのような顔立ちが印象的
時代が下るにつれて土器はどんどん薄くなり
技術が洗練されて行ったことがよくわかる
こちら、普通の曲げわっぱにしか見えないのだが
なんと平安時代のものらしい。
これだけ状態良く残っているのも驚きだが
曲げわっぱの歴史の深さにも驚いた
時代はさらに下って16世紀中頃から明治時代まで存在した
桂城こと大館城の時代へ。
出土品と共に発掘の様子も紹介されている。
陶磁器が残っているのは分かるが
漆器もかなり良い状態で残っており驚く
大館城の城代であった佐竹義茂は書道家でもあり
鸞斎や此君斎の号でいくつもの作品を残している
大館城は戊辰戦争の戦場の1つにもなり
大群で攻め込んできた南部藩の攻撃の末
城主が火を放ち撤退するという壮絶な最後を迎えた。
こういった衝突の歴史があることを踏まえると
南部藩主の1人と同一視されることのある南祖坊が
秋田の伝承では悪人扱いになるのにも納得だ
秋田県で唯一の正教会の会堂
(わかりやすくいうといわゆる教会)である
北鹿ハリストス正教会聖堂は
秋田杉を巧みに使いビザンチン様式のドームを
見事に木造で作り上げており
非常に高い文化的な価値が評価されている。
なお見学の際は事前予約が必要。
現役の信仰の場であることも忘れずに
大館にゆかりのある人物のパネル。
もちろん筆頭は外に文学碑もある小林多喜二
高度経済成長期の労働大臣を務めた石田博英。
大館の観光スポットの1つ石田ローズガーデンは
彼の邸宅だった場所である
大館のかつての民家の中を再現したエリア
集落に悪霊が入り込むことを防ぐと信じられ
日本各地では実に多様な道祖神が作られてきたが
大館で作られてきた道祖神の一種である「ニンギョ」は
大きな人型をしておりこれまた個性的な文化だ
大館のニンギョの分布図とそれぞれの写真

 展示館の次は校舎側の方を見学する。
 校舎側の1階では地元の人の絵画などが展示されているほか、受付近くでニホンザリガニが飼育されている。
 ニホンザリガニは名前こそ有名であるが北海道と北東北にのみ生息しており、現在絶滅の危機に瀕している生物の1種だ。
 大館市はニホンザリガニの保護に積極的であり、水系が異なる生息地ごとに遺伝子が撹乱を防ぐための注意もしっかりと行なっている。

飼育されているニホンザリガニの1匹。
名前はメルセデスだそうだ
地元の高校生による保全プロジェクトとして
ザリガニ新聞というものも作られている
ザリガニに限った話ではないが
外来種はその種そのものが在来種を捕食したり競合したり
遺伝子が混雑したりするのみならず
持っている病気が在来種に致命的な影響を与えることもある
2階へ。
大館市では1982年から「大館少年少女発明クラブ」という
子供達が科学の体験学習を行える活動を行っており
現在はここ大館郷土博物館が活動の拠点となっている
昨年の活動の様子の新聞
地元の企業の協力でドローン教室も行ったらしい
2階のこども科学室は自然科学に関する
幅広い展示が行われているまさにミニ科学館だ
大館市の地形など、身近な題材を元に
様々な自然現象を学べるエリア
そして3階の曲げわっぱ展示室へ
曲げわっぱというと弁当箱のイメージが強いが
技術を応用すれば様々な工芸品を作ることができる
もちろんシンプルな弁当箱も展示している
曲げわっぱの茶器。
シンプルさと優雅さが見事に調和している
技術されあればちゃぶ台のような巨大なものも
作ることができる
曲げわっぱの技術を応用して作った棚
厚みや組み方を変えることで
また違った印象となる

 大館の様々な魅力がギュッと詰まった大館郷土博物館。
 その幅広い展示の数々は、きっとあなたの知的好奇心も刺激してくれることだろう。

大館市郷土博物館
住所 : 秋田県大館市釈迦内字獅子ヶ森1番地
開館時間 : 9 :00〜16 :30
休館日 : 毎週月曜日 (祝日の場合は翌日)
入館料 : 一般 330円
    大学生・高校生  220円
    小・中学生 110円
    (団体料金あり。大館市内の小中学生は無料)
アクセス : 大館駅からバスで15分。
     最寄りバス停は獅子ヶ森バス停。

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