労働者ってなーんだ?聞かれると意外とわからなくない?
こんにちは!
弁護士法人えそらの代表弁護士の鹿野舞(かのまい)です。
みなさんに法律をかじって欲しいなという思いで始めたこのnote。
記念すべき第1かじりは、「労働者」ってなに?です!!
働いてりゃみんな労働者だろ…って声が聞こえてきそうです。。ま、普通はそうですよね^^;
でもね、法律の世界では違うんです。そして、労働者とそうじゃない人との間には大きな違いがあります。。。
労働者を知るメリット
この先を読み進めて欲しいので、先に労働者とは何かを知るメリットからお伝えしましょう!
ずばり、労働者は労災保険が使えるでしょーー!!(マルオくん風👓)
(ほんとはもっと色々あるけど、とりあえず今日はココ押さえておきましょ!)
労災保険があると、仕事中や通勤途中に怪我をしてしまった場合に治療費も払ってもらえるし、お仕事をお休みした場合には休業の補償もしてもらえます。
労働者だとこれができるけど、労働者じゃないとこれができない!
どう?大きな違いですよね?
さて、ここからが今日のテーマ『労働者』ってなに?です。
判例解説
過去の事例と裁判所の判断をもとに解説いたします。
【ストーリー】(すべて仮名かつ判例をもとにしたフィクションです)
木村くんは、トラックの運転手です。香山物流株式会社で運送業務をしています。木村くんは、自分のトラックを持っているので会社のトラックは使用していません。木村くんは自分の働き方が気に入っているようで、田中くんに自慢していました。
とある年の2月末日
木村「会社からは、何時にどこに何を運ぶか指示されるだけで、どの道を通ってもいいし、何時に出発しても、何で運んでもいいんだ〜。仕事内容も運送オンリー!運ぶのは会社の製品だけ。お前もうちの会社きたら?」
田中「何それ、めっちゃ自由じゃん。始業時間とか終業時間とかないの?」
木村「ないない、直行直帰もOK。ま、出された指示は断れないけどな」
田中「給料どんな感じ?」
木村「トラックの積載可能量と運送距離によって会社が決めた運賃表どおり払われるよ。トラック協会が決めてるのより安いし、俺はトラック自分で買ってるし、ガソリン代とかトラックの修理代、高速代とかは自己負担ってのはデメリット〜たまに下道通って節約したりしてるわ。」
田中「ま、自分のトラックなら修理代とか自己負担って当然っちゃ当然だよな。お前の会社みんな、お前みたいな働き方なの?」
木村「いや、普通に始業時間とか終業時間が決まってる人もいる。俺はこの働き方を選んだって感じ?あ、確定申告期限やべーから俺帰って確定申告するわ。またなー」
数日後、木村くんは会社の工場内の倉庫で積み荷の作業をしていたところ、足を滑らせて転倒し、骨折をしてしまい、田中くんが病院にお見舞いに来てくれました。
田中「痛そうだな、ダイジョブかよ」
木村「いやーマジ痛かった。治療費とか手術代とか仕事休まなきゃいけないってのが不安だわ、家族もいるし。いくらかかるんだよ、これ」
田中「いやいや、仕事中の怪我だろ?労災使ったら、治療費も出るし、休んだ期間分も全額じゃないけど、給料の一部くらいの金額もらえるからダイジョブだって」
木村「え?まじ?よかった〜〜〜〜〜」
しかし、木村くんが労災申請の手続きをしたところ、木村くんは労災保険法上の「労働者」に該当しないから労災は使えないと言われてしまいました。
(ストーリー終わり)
この木村くんと同じような境遇の方が起こした裁判が最高裁平成8年11月28日第一小法廷判決横浜南労基署(旭紙業)事件です。
超有名判例です。
この判例では、労働者とは何かということについて、判断するための基準を示してくれました。
(ちなみにこの裁判で問題となったのは労災保険法上の「労働者」の意味についてなのですが、労災保険法上の「労働者」は、労働基準法とか労働契約法の「労働者」、民法の雇用契約上の使用者も同じ意味で解釈するよね、っていうのが多数派の見解です。法律ってたくさんあるから、あの法律のこの言葉とこの法律のこと言葉同じ意味なの?っていう問題は度々起きてしまうのです。。)
裁判所は
1)仕事をやるやらないの自由があるか
2)仕事をするにあたって会社側がどれくらい指示してくるか
3)時間的・場所的に拘束される働き方か
4)通常予定されている仕事以外の仕事があるか
5)給料は労働量に対して支払われているか
6)会社との間での機械・器具とかの負担割合
7)専属性があるか
8)その他(就業規則の適用はある?社保は?源泉徴収は?など)
という要素から労働者性を判断しました。
木村くんのケースを見てみましょう。
1)仕事をやるやらないの自由があるか
→木村くんには仕事の指示を拒否する自由はありませんでした。
(「出された指示は断れないけどな」)
2)仕事をするにあたって会社側がどれくらい指示してくるか
→会社からの指示は業務の性質上当然に必要になる部分のみでした
(「何時にどこに何を運ぶか指示されるだけ」)
3)時間的・場所的に拘束される働き方か
→たしかに届ける時間が決まっているので、労働時間について完全に自由とはいえませんが、他の従業員と比較してはるかに緩やかでした。
(「直行直帰もOK。」「普通に始業時間とか終業時間が決まってる人もいる」)
4)通常予定されている仕事以外の仕事があるか
→木村くんの仕事は運送以外ありませんでした。
(「運送オンリー」)
5)給料は労働量に対して支払われているか
→トラック協会が定めた運賃表よりも安く労働量に大して適切に支払われているとは言い切れません。
(「トラックの積載可能量と運送距離によって会社が決めた運賃表どおり払われるよ。トラック協会が決めてるのより安い」)
6)会社との間での機械・器具とかの負担割合
→木村くんは仕事にかかるもののうち自己負担の割合が高かったです。
(トラック自分で買ってるし、ガソリン代とかトラックの修理代、高速代とかは自己負担)
7)専属性があるか
→専属的に会社の製品のみを運送していました。
(「運ぶのは会社の製品だけ。」)
8)その他(就業規則の適用はある?社保は?源泉徴収は?など)
→自分で確定申告をしており、社会保険や雇用保険の控除はされていませ んでした。
(「俺帰って確定申告する」)
まとめます。
確かに
木村くんは、7)専属的に会社のものを運び、1)仕事を拒否する自由はありませんでした。また5)報酬についても労働に対する対価と言い切れるか疑念は残るし、3)毎日の始業時間とか終業時間についてもどこに何時に到着されている以上、始業時間とか終業時間が一定程度の時間拘束はあったといえます。
他方で
木村くんは6)自分のトラックでガソリン代等も負担したうえで、3)自分でルートを決めて仕事をし、会社からは仕事の性質上必要な最低限度の指示しかうけていないのだから時間的・場所的な拘束も他の従業員と比べてすごく緩やかですよね。4)仕事も運送だけで、他の業務は一切なかったし、8)会社に所属している者なら加入している社会保険や雇用保険にもはいっておらず、源泉徴収がされないから確定申告も自分でしていますよね。
この状態では、「労働者」ということはできません、と裁判所は判断をしたのです。
そして、木村くんは、労災保険を使えず…ということになりました。
以上が、最高裁平成8年11月28日第一小法廷判決横浜南労基署(旭紙業)事件から学ぶ「労働者ってなに?」でした。
まとめ
意外と労働者の範囲って狭いかもしれないって思いませんか?
この判例は労働者性を狭く解釈しているよね、という声もちらほら出ている判例ではありますし、どの要件を重視するかによって、結論は変わってくるので、同じ枠組みを使いながら、結論が別れている判例・裁判例もあります。
ただ、細かいことはさておき
働いてる人、みんながみんな労働者じゃないよ
ってことは必ず覚えておいてください!!
今日もありがとうございました〜
弁護士法人えそら
代表弁護士 鹿野舞