法人に人格を!!〜法人格否認の法理〜
みなさん、こんにちは〜
弁護士法人えそらの弁護士の鹿野です。
第4かじり目の今日は、”法人の人格について”です。
人格の定義って難しくないですか?人格って何かと聞かれると、意外とぐぬぬってなりません?(私はなりました😼…私だけだったらどうしよw)
というわけで、ググってみるとOxford Languagesさんの定義によれば
人格とは、個人として独立しうる資格のこと
とされています。
この世界において個人として独立するためには、いろんな権利義務を背負っていかないといけません。そこで、法律は、権利義務を請け負っていける、あるいは請け負っていくべき対象に人格を与えています。それが法人格です
その対象は自然人と法人です。
法人なんて、生きてもないし、目にも見えない、触れることもできない、いわば概念みたいなものなのに、それに1つの人格を与えるって、考えてみるとちょっと奇妙ですよね。。
でもそんな奇妙なことをするからには、やっぱりメリットがあるんです。
例えば、法人として人を雇うこともできるし、オフィスの借主になることだってできます。個人で人を雇うとリスクが大きいし、大変だけど法人にしてしまうことで、組織として人を雇うことができるわけで、雇う側も雇われる側も安心ですよね。個人に雇われていたら、その個人が「この仕事やーめた」と言った瞬間に雇われていた人の仕事も終わってしまう。個人に雇われていたら、その個人から「お前嫌い」と言われた瞬間に雇われていた人の仕事が終わってしまう(会社でもそういうことはあるでしょうけど、個人に雇われている方が一層そういうリスクは大きいのです。。)
もちろん法人ともなると大きくなることが予想されますから、意思決定に時間がかかる、とか、経営方針でもめる…とか大変なこともあります。個人事業主の方がフットワークが軽いなんてこともしばしば…。
だから一概に法人ばんざーーい、とは言いませんし思いませんが、法人だからできる仕事もあるわけです。
でもね、法人に人格を与えるといえども、その法人を動かしているのは人間です。つまり、法人として人格を得放題となると、ある個人が分身の術みたいにしてたくさんの人格をゲットしてやりたい放題やる…なんてことも起きちゃう。問題が起こったときに「あ、それ俺じゃない。俺の別人格のあいつの責任」、「その発言は俺の発言じゃない。それ言ったのは俺の別人格のあいつ」的なね。
そんなこんなで
東京地方裁判所平成13年7月25日判決
【ストーリー】(裁判例に基づいた仮名・フィクションです)
田中と甲本は、大手会社城川グループの1会社である株式会社SHIROに雇われていました。株式会社SHIROは城川グループのオーナー城川さんがそれまで個人でやっていた建設業務を譲渡して、建設・施行業務などの分野拡大をしてきた会社です。しかし、その後株式会社SHIROは資金繰りが悪化してしまい、多額の借金を抱えることになりました。
そこで城川さんは株式会社SHIROの仕事を
・建設業務は、株式会社シャトー
・施行業務は、株式会社リバー
等という形で株式会社SHIROのうち負債部門以外を分社化し、それまで株式会社SHIROにいた従業員もそれぞれの会社に移籍させて、株式会社SHIROを解散しました。
田中と甲本は、株式会社SHIROの資金繰りが悪化際、ヒヤヒヤしていましたが城川さんが「なんとかするから」と言ってくれたので、その指示に従って、株式会社シャトーに移籍しています。
その言葉通り、城川さんはセンス抜群。会社を細分化させたものの、自分は株式会社リバーの代表取締役として城川グループを取り仕切っていました。株式会社シャトーの株は城川グループが98%保有していたし、その大半は城川さんが持っていました。株式会社シャトーの実態は、株式会社リバーの営業部門あるいは支社みたいなもので、株式会社シャトーの人事や財務を行っていたのは株式会社リバーです。株式会社シャトーの人事や給料を決めていたのは城川さんだったので、田中や甲本はとても優遇してもらいました。
彼らの経歴としては、
田中:株式会社SHIRO取締役→株式会社シャトー取締役・株式会社リバー取締役→株式会社リバー取締役を辞める→株式会社シャトー代表取締役
甲本:株式会社シャトー設備部部門長→株式会社シャトー取締役
と華々しいものでした。
そして、田中と甲本は株式会社シャトーを退職することになりました。
田中「お疲れ、甲本」
甲本「お疲れさまです、田中さん」
田中「振り返ると一時期はどうなるかと思ったけど、やっと退職だーー」
甲本「ほんとそうですね、社長ほんと大変でしたよね。取締役会も基本的に株式会社リバーとか城川さんのいいなりだし、社長も結局城川さんの顔色うかがわないと動けなかったり…」
田中「あと、うちの会社の利益は全部株式会社リバーにつけられたりな(笑)。」
甲本「ですね、お疲れさまでした、ほんと」
田中「退職金なんだけどさ、株式会社シャトーに請求したって、きっとお金ないから払われないじゃん。だから、株式会社リバーと城川さんに請求しようと思うんだけどどうかな」
甲本「実際、俺ら株式会社リバーに雇われているみたいなもんですからね、そうしましょ」
〜後日〜
城川「田中も甲本もうちの人間じゃない。株式会社シャトーの人間だ」だから奴らに退職金を払うのは株式会社シャトーであって、株式会社リバーじゃない」
※株式会社シャトーにも株式会社リバーにも同じ内容の退職金規程があります。
(ストーリーおわり)
さて、田中と甲本はお金を持っている株式会社リバーから退職金を払ってもらえるのでしょうか。
解説
まずは、原則から考えます。
原則、退職金を払う義務があるのはその人を雇っている会社です。そりゃそーですよね、そうじゃないと見ず知らずの人に退職金を払わなきゃいけなくなっちゃいます。
そうなると田中と甲本を雇っていたのは株式会社シャトーであって、株式会社リバーではありません。
→原則、田中と甲本は株式会社リバーに請求できない!!!
しかし、この裁判例の結論は違いました。
なんと、株式会社シャトーの法人としての人格をなきものにして、
実質的に田中と甲本を雇っていたのは株式会社リバーだ!!
と結論づけました。
ポイントは、「株式会社シャトーの法人としての人格をなきものにした」ということです。
最初『法人に人格を与えるといえども、その法人を動かしているのは人間です。つまり、法人として人格を得放題となると、ある個人が分身の術みたいにしてたくさんの人格をゲットしてやりたい放題やる…なんてことも起きちゃう。』ってお伝えしましたよね。
まさに城川さんがそれだったんです。おいしいところだけ株式会社リバーに、あとは株式会社シャトーにおしつけちゃおっていうね。
そういう場合に、裁判所は法人格否認の法理をつかって、法人格を消し去るのです
法人格否認の法理…って名前かっこいいですよねw
一応ちゃんと解説すると
法人格否認の法理とは、会社自身が権利・義務の独立した主体になるという法人格の独立性を形式的に貫くことで正義・均衡の理念に反する結果が生じる場合に、その事案に限り会社の法人格の独立性を否定し、会社とその背後にいる株主や他の会社を同一視することによって、妥当な解決を図る法理のことをいいます(江頭憲治郎「株式会社法」参照)。
要するに、妥当な解決を図るために、「その事案に限って」は法人格を否定して、実際にその法人を操っている人をその法人と同一視することにするのです。
今回のストーリーでいうと株式会社シャトーの法人格を否定して、株式会社シャトーを操っている株式会社リバーこそが株式会社シャトーの正体だ、と結論づけたのです。
まとめ
なんとも興味深いですよね。
実際法人格否認の法理自体は、乱発するとそれはそれで大変なので、ある程度使える場面は制限されて
①法人格が形骸化している場面
②法人格が濫用されている場面
のみとされています。
ただ、法人に人格を与えるといっても、なかなか好き勝手にできないような工夫も施されていますよ、ということです。
今日は、法人にも人格があるんだ、ってことと、法人格否認の法理、というワードを覚えておいてください〜
ほいじゃ!
今日もありがとうございました〜
弁護士法人えそら
代表弁護士鹿野舞