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秘境探検部の思い出

2025年
3年Φ組 南天 極

 3年間という短い高校生活のなかで一番思い出に残っているのは、秘境探検部の合宿です。最後の合宿の目的地は「地球温暖化の影響により氷山が融解し、中から出現した南極遺跡No.L-66」でした。

 現地でチャーターしたセスナ機のパイロットが悪天候により撤退を進言した時、その頭部を消火器で殴打して操縦桿を奪取し強硬着陸を敢行した藤岡部長のリーダーシップには、道中で何度も勇気付けられました。荷物の大半を失い、食糧が瞬く間に底を突くなか率先して「籖」を導入し、自らその身を捧げた食料担当の道場君。彼の味は今も心に残っています。恐れをなして撤退を申し出た部員たちにトレパネーションを行い、物理的手段によって「恐怖」を克服させた保険担当のメンゲレ君。一挙手一投足が機械のように統率された部員たちは、遺跡探索において大いに役立ってくれました。

 道中、ケイ素生物超越神使の襲撃により精神の均衡を失った部員が一人、また一人と増えていくなか、僕たちは現地で出会った■■■の提案で文字通り「一体」となってその困難を乗り切ることができました。それも■■■の策略の一部だったと後で知った時は驚きましたが、今ではいい思い出です(笑)。

 もう二度と地上の光を見ることはないでしょうが、僕は、否、僕たちは■■■の案内でとうとう「謁見の間(すみません、本当は正しい名前があるのですが星間共通文字で書くと読む人の精神を汚染するようで、仮名にしておきますね(汗)」の前に至りました。すでにペンを握る手もなく、芋虫の如く無様に身をよじらせて進むことしかできない肉塊の僕たちですが、この思い出を胸に肉体の軛を捨て、エーテル体となって遥か彼方へと旅立ちます。

 それでは皆さん、星々の光が瞬く深淵で再会することを夢見て! 架高よ、永遠なれ! 秘探部よ、とこしえなれ!

(編注:この原稿は1925年3月23日早朝、まだ誰も登校していない3年Φ組の教壇に「たのまれて かきました」という拙い字体の血文字による付記とともに提出されていました。なお文中塗り潰されている箇所は、追記を書いたと思われる血液と同じもので為されたという鑑定が架高「科捜研の女」同好会によって提出されています。
 無論、原稿が提出された時点で「南天 極」という氏名の少年は生まれてすらいませんでした。しかし、当時の教職員会議において「生徒の可能性を狭めないため」「黙っておいたほうが面白くなりそう!」という意見が出され、将来において南天極が入学したとしても本人には伝達しないことが決まっています)


甲冑積立金にします。