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架高潜入レポート

2001年
3年#DIV/0!組 国守 公康

 架空ヶ崎高校などという悪夢に囚われた3年間も、この卒業文の提出を以て終えることができると思うとせいせいする。何を書いても検閲はないという言質は取ってあるから(それすら信用していいか怪しいものだが)、好きなことを書かせてもらう。

 私は1998年の6月、国内で頻発する一連の所謂「ウラヌスガス」犯罪の真相究明のため、その製造元と目されていた架高へ「転校生」として身分を偽り潜入捜査を開始した…筈だった。だが私の正体は転向初日、クラスメイトへ向けた自己紹介の場で担任の皿嶋によって明かされてしまった。

「今日からみんなのクラスメイトになる国守君です! 彼は警視庁公安部のお巡りさんですが、今日から生徒としてみんなと一緒に勉強することになりました!」

 あの時私に向けられた生徒たちの笑顔――今思い返しても身震いする。まるでマネキン工場に一人置き去りにされたようだった。

 皿嶋を始めとする学校関係者は、それ以上私に過度の接触はせず、あくまで「いち生徒」として私を扱うに終始した。私は上長に潜入中止を具申したが、下された判断は「続行」。初日で正体を暴かれる捜査員など不要、せいぜい捨て駒として役に立て。そう言われたに等しかった。

 見捨てられ、自暴自棄になった私に対し、皿嶋は執拗に声をかけてきた。あくまで捜査員ではなく、教師が生徒を思いやるように。ウラヌスガスだけではない、イカれた部活動、冒涜的な虚像祭、ドブヶ丘との抗争。何もかもが異常でいつ発狂してもおかしくない私を、クラスメイトや皿嶋先生は常に気遣ってくれた。私は公安にいるうち忘れてきた心の何かを、どんどん取り戻していくようでした。

 私は架高での三年間の思い出を胸に、社会へと巣立ちます。ですがいつも心は#DIV/0!組の仲間たち、そして恩師の皿嶋先生と一緒です。すばらしい学生生活を過ごせたこと、生涯忘れないでしょう!

甲冑積立金にします。