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推薦図書『たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない』
君は加藤よしきという男を知っているか。
俺は知っている、加藤氏は俺のことなんか知らないと思うが。
俺が加藤氏を知ったきっかけは「禍話」という、毎週土曜日の夜に一時間に亙って完全オリジナルの怪談を延々と喋るイカれたラジオだ。猟奇ユニット「FEAR飯」の語り担当・かぁなっき氏の後輩である加藤氏は、相槌担当としてとても冷静な立場から視聴者と一緒に怖がったり、時には真面目に突っ込んだり、たまにご自分が目撃された怪人物に纏わる話を披露したしされている。
俺が加藤氏について抱いている印象は「この人はとても真面目な方なんだなぁ」というものだ。これは俺の勝手な思い込みなのだが、加藤氏はコンビニで店員がおつりを間違えて多く渡してきても「やった、ラッキー」などと思わず「これちょっと多いですよ」といって余分な額を返すのだろうなと思う。
「真面目」というのは、どうも今の世の中あまり評価されないように感じる。小狡く、派手で、立回りが上手く、ルールの隙間を突くことのできる人間ばかりが表に出て評価されるような気がする。その分真面目な人が冷や飯を食わされることで、この社会はなんとか成り立っているのに。
しかし加藤氏はただ真面目なだけではない。その真面目な気質と「ファ○ク・ザ・ポリス」と公権力に中指を立てるギラついた気骨とが、奇跡的に心の中で同居している稀有な人物だ。このたび上梓された『たとえ軽トラが突っ込んでも僕たちは恋をやめない』(以降『トラ恋』)にも、それが如実に表れている。一番好きなのは「オレたち普通じゃない」です。
『トラ恋』のジャンルは、恋愛小説だろう。ただ時折(というかほぼ全話に)赤いナンバープレートに「666」と悪魔の数字が記された軽トラを操る全裸中年男性が登場し、図書館でサカり始めるクリエイターのカップル、お互い踏み出せないでいる高校生の美術部員二人、かつての恋人が立てこもるニュースを知った会社員……そういった人達の背中をそっと押すようにトラックで突っ込んでくる。もしくは殺人ザリガニが大暴れする。
異常な展開だ。だが真っ当な恋愛小説だろう。その水と油のような二つの要素が、軽トラに乗った全裸中年男性の手によって奇跡的に同居している。加藤氏の内面を如実に表すかのように。
何かボタンの掛け違いがおこって三池崇史監督か白石和彌監督の手で忠実に映像化され、夏休みの中・高校生を狙い撃ちするためにキラッキラのオブラートで包んで広報されて、学生たちで満員になった映画館をキンッキンに冷やしてくれないだろうか。できれば俺はその時、新宿ピカデリーの一番デカいスクリーンの前に陣取って、周りの雰囲気も味わいながら大爆笑をしていたい。
俺は加藤氏のように真面目ではない。派手でも立回りが上手くもないが、狡く、長いものに巻かれがちだ。甲冑や木剣を満載した車に乗っている時、並走したパトカーを車中の三人でじろじろ見て職務質問を喰らった時は、なんとかこの場を穏便に切り抜けようと全てのプライドや反骨精神を捨ててお巡りさんに従った。
でもそんな俺の心のどこかにも、軽トラに乗ってハムカツを手にした全裸の中年男性がいるのだろう。いや、いてほしい。そしてもしおじさんが俺の元にも現れたら、「ファミマのハムカツもいいですけれど、オリジン弁当のハムカツも美味しいですよ」という話をしてから、一緒に誰かを轢きに行きたいと思う。
こちらは出版に当たって行われたインタビューの記事。読むたびに冒頭の「詐欺だと思いました」で笑ってしまう。
ところで「FEAR飯」って「笑い飯」から取ったんですか?
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