童戯の不始末
通された大座敷は外光などお構いなしに、薄暗く不快な冷たさを保っていた。
「山で妙な餓鬼を見つけたんだよ。口がきけねぇ、着てるモンは襤褸だがどこで拾ったのか朱塗りの大層な椀を持っていてな」
ぶぶ、と羽音を立てながら纏わりついてきた蠅を払い、私は大座敷にただ一人座す当主が滔々と語るのに耳を傾ける。
「庄屋様なんて呼ばれた家の端くれだったし、嬶が可哀想だなんて泣きつくからよ。引き取ったんだがすぐに風邪をこじらせて死んじまった。可哀想なことをしたが……それからだ」
彫刻が隙間なく刻まれた欄間にも、金を溶かし塗り固めたかのような襖にも、藺草の新しい張り替えられたばかりの畳にも。屋敷には腐臭が染みついている。湯気を立てる茶には羽虫が浮かんでいた。
「金が途切れねぇんだ、何をしても転がり込んでくる。大東亜戦争で焼け出された男爵様が米目当てに持ち込んだ骨董品が進駐軍に高く売れ、浮いた金を鉄工所に投資したら朝鮮特需、てな具合に。金だけじゃねぇ、体も丈夫になった。流行り病の時はウチだけぴんぴんしてた。けどな」
障子の向こうからは息を潜める家人の気配が伝わってくる。私がこの生き地獄から助け出す術を持つのか否かを推し量っているのだろう。
――あの家では、誰も死ねんのだ
全身を末期癌に侵された依頼人の、絞り出した声が脳裏に蘇る。彼は私の旧友であり、そして眼前の、齢143になる当主の玄孫であった。当主は明治12年の生まれ、決して戸籍の間違いなどではない。
――あの家を壊し、あの子を山に返してやってくれ
「なぁ、俺は一体何をやっちまった?」
当主は生きながら腐りゆく腕を晒す。まともに動く四肢は、もうその一本だけだった。
「ご冗談を」
何をだと? 白々しい。
「座敷童ですよ、ご存じでしょう。その子は今も土の中から健気に福を齎しているのです。あなた方に殺されたとも知らず」
お前ら半可通がいる限り、私たちの夜は永遠に休まらない。(続く)