今年も街に雪が降る #パルプアドベントカレンダー2024
七日に一度。朝方から夕方まで、この世界は一斉に眠りに就く。そして目が覚めた時、世界は一変していた。
「よう、肉屋」
「よう、牛乳屋」
隣に立っている男と挨拶を交わす。細かい名前はあったはずだが、俺達にはこれで十分だった。
「またこの季節になったな」
「あぁ……そういえば、もう一年経つか」
街には雪がちらついていた。視界を覆うほどでもなく、さりとて無視できるほどでもなく。空から白い光が舞い降りている。街は雪景色へと一変していた。屋根を白く覆い、溶けて氷柱をなし、道には不思議とさほど積もらない。これが、この街の冬だった。
俺達の目の前を冒険者たちが通り過ぎる。その頭には白い玉のついた赤い帽子が乗っかっている。気付けば街を行き交う他の冒険者も、似たような帽子を被っている者がちらほらと目に付く。この時期になるとあいつらは、なぜか示し合わせたようにあの帽子を被る。
冒険者。この世界に息づく、しかし俺達とは一線を画する人々。
ギルドの依頼を受け、モンスターを討伐し、時には巨悪と戦う者達。同じ世界に息づいているはずなのに、俺達と関わる者は限られている。彼らは彼らで独自の社会と経済圏を築いていた。中にはモンスターからのドロップ品で、一夜にして巨万の富を得る者もいるらしい。
……まぁ、俺のようなしがない肉屋には関わりのない世界だ。
ごろごろと、台車を転がしながら冒険者が近付いてきた。ヴァイキングヘルムを被った商人の冒険者だ。隣に立つと、牛乳屋から品物を購入する。牛乳屋なので売り物は牛乳だけ。1本20ゼニー。
「はい、毎度あり」
購入したのは100本。それを冒険者は苦もなく台車に詰め込むと、牛乳屋に1,600ゼニーを手渡した。続いて俺の前に立つと、やはり肉を購入する。1個50ゼニーを、やはり100個。俺は4,000ゼニーを受け取ると、来た時と同じく台車をごろごろと曳いて去っていく冒険者を見送った。彼の姿がすっかり雑踏に消えた後、ふと口にする。
「……何故だろうな。どうして俺達はいつも交渉もなしに、あいつらに2割引きで売るんだろう」
彼らは俺から2割引きで肉を買うと、1割引き――45ゼニーでそれを自分の露店で売る。差額の5ゼニーは彼らの儲けとなる。牛乳も同様だ。少額だが数をこなせば小遣い稼ぎになるし、もっと安くして客引きをするついでに別の目玉商品を並べてもいい。
実質、俺は彼ら冒険者に品物を転売されている。だが不思議と怒りや不快感は湧かなかった。商人以外の冒険者にはいつも定価で売る。他の冒険者は商人を通すと定価より安く買えるし、俺は商品がより多く捌けるし、商人は金を稼げる。何もおかしくない。この世界はこうやって回っている。
「おい、あれ」
牛乳屋に声をかけられ、顔を上げる。
「……今年はまた、一段と凄いな」
大通りを、一人の女冒険者が歩いている。凄いのはその装いだった。
赤と白を基調とした、ド派手なレザーアーマーの装備。金色の装飾具が各所に配置され、加えて袖口には白いファーがあしらわれている。胸元は大きく開かれて、豊満な胸の谷間が惜しげもなく晒されていた。凡そ冬らしからぬ露出度の高い衣装を、彼女は見せつけるように堂々と歩いている。なぜか彼女の歩いた後には白い羽が舞っていた。他の冒険者は無遠慮な視線を向けながらも、その姿に圧倒され口々に称賛を述べている。
「……なぁ、なんで冒険者ってのは冬になるとああいう恰好をするんだろうな」
毎年のことだった。なぜか年に一度、似たような趣きの冒険者が一斉に姿を現す。しかも年々派手になっている気がする。だが、この時期に限った話ではない。
「冬だけじゃないだろう。夏には街中で水着姿になるし、もう2カ月もすればなぜか料理人みたいな恰好の奴がチョコレートを持って走り回るる」
「……そうだな。あいつらのやることは分からん。しかし今年はいつまで降るんだろうな」
牛乳屋は空を見上げながらぼやく。
「今年も同じだろう。あと10回も眠れば止むさ」
雪は相変わらず綺麗に、且つ規則的に空を彩っていた。
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