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【掌編小説】バラ

二週間くらい一人暮らしになっている。
いや、猫がいるから、あと野良猫も庭に来るから一人ではない。

私は24歳。
大きな布団を持て余しながら、遮光カーテンが8時に開き、庭から黄色い光が差し込む。
芝生がレース越しに茂っているのが見える。
何も思わずカーテンを閉め、もう一度寝て昼過ぎに起きる。

静まり返ったキッチンとリビング。
ここにも差し込む黄色い光。
冷蔵庫にはびっしり食材が入っている。
日光は心地いいが食欲はない。

北側の玄関から門までは長い長いアプローチがあり、沿うようにバラが咲いている。
私が育てた白のウィンチェスターキャシードラル。
ジャスミンのような甘く穏やかな香り。
私はそれを見て、香りを嗅ぐ。
それ以外のことを何もはっきりと感じることができない。

私はもう気の抜けた抜け殻。
このバラのようにこれから「咲く」ことはきっとない。
私を置いてみんなどこに行ってしまったのだろう。

何かを感じるたびに、何も感じられなくなる日が来る恐怖があるというのに。

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冠
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