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#055 元宵節に浮かぶ願いの灯火

2月のなか頃 台湾北部の平溪という地区で行われるランタンフェスティバルに参加した このランタンフェスティバルは元宵節のイベントとして有名で毎年たくさんの人が訪れる 元宵節というのは小正月にあたる旧暦の1月15日のことでこの日までが春節(過年)とされている

ランタンは空が暗くなる夕方の18時頃から21時頃までの間に8回ほどに分けて放たれる 一回で放たれる数は100個近い これに参加する場合は午前中に現地で配布されるチケットを取りに行く必要があるが ランタンをあげずに会場付近で見るだけなら夕方に合わせて行くだけでいい 会場へは台北動物園前から出る臨時の送迎バスで向かう 交通規制がかかるため自家用車やタクシーでは会場付近まで入っていくことができない バスは行きに往復分の50元を払う 乗車時間は30〜40分ほどで5分以内の間隔で運行されているので待ち時間もなくとても便利だ

多くの人が押し寄せる会場ではこの一大イベントを盛り上げるための催しがひっきりなしに行われている 中学校のグラウンドにセットされた大きなステージでは歌やダンスなどのパフォーマンスが行われているのだ
これらは主にランタンを飛ばす準備の間をつなぐものだけど 幻想的な催しとは違って なんというか素直に言えば雰囲気がぐちゃぐちゃである
そんなところがまた"台湾感"なのだけど
イベントの進行をする司会者もアーティストのライブさながら みんなのってるかー!と言った感じで場を繋ぐ 参加者は半ば強制的に気分を上げられながらランタンを放つことになる チケットに書かれた集合時間までの間 会場付近のセブンイレブンに立ち寄ったが ものすごい人で陳列棚にはほとんど商品がない この店舗で年に一番の売り上げを達成する日は間違いなくこの日だろう 

集合時間から実際に放つまでおよそ45分 順番に会場に入り中学校の体育館で配置を決め 手順の説明が中日英の3カ国語で行われる 自分の列のプラカードを持ったスタッフのあとに続いて位置につくと一組ごとにまたスタッフがそれぞれついてくれる ランタンが届くと文字が書けるように広げてくれる 一面が終わったら裏面 側面と4面に願い事を書いていく さらに足りない人はランタンの上の面にも書いている それぞれが書いている間はイケイケのイベント進行役が前列の人たちに何を書いたのかインタビューしていく インタビューを受けていたのは家族連れやひとりで来ている人 子供だったり日本人だったりなど様々だ 若い女性がいい大学に受かりたいと書いたと言っていて こんなところでも台湾が学歴社会であることを思い知らされたりもした 

我々は健康や家内安全などの一般的な願い事を書いたが 娘は"しあわせ"という一言を大きな一面に小さく書いたのだった

我々は早々に書き終えてその時を待った その間も相変わらずぐちゃぐちゃな空気感ではあるが 少しづつ場が整っていくのがわかった 一人二人と書き終えていき 昼間のように明るく照らす巨大なライトが落ちるのを待つ するとバーナーを持ったスタッフが低い姿勢でひとつづつランタンに火を入れていく 上の四隅の角を持って形を整えたら 下に下ろして足でランタン下部のワイヤー部分を押さえておく 身長160cm程度のわたしの胸の辺りまである大きなランタンはあっという間に膨らんだ 足元がほのかにあたたかくなっていく 今か今かとその時を待つ

ついにライトが消え辺りは暗くなる その瞬間だ 空気が変わった きっと会場にいる全員が息を止めた そのほんの一瞬 時が止まって そして一気に動き出す 100個近いランタンは暗く静かな空に吸い込まれるようにして舞い上がった 

美しい

美しい景色だ ランタンたちは目的地があるかのようにしてみな大きく離れずに同じ方向に流れていく 風が時を運んでいく
美しい夜だ 2月だというのにあたたかくよく晴れたこの日の空に 浮かび上がるたくさんの願いの灯火 

ほんの少しの間 願いの行方を見送った後はそそくさとその場を立ち去る 流れるように人の波に乗って 気づけば動物園前でバスを降りていた 夢のような経験だった

それは時を止めるという動作がその一瞬を動かした夜のこと


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*中国語

元宵節 yuan2xiao1jie2  ㄩㄢˊ ㄒㄧㄠ ㄐㄧㄝˊ 旧暦の小正月
平溪 ping2xi1 ㄆㄧㄥˊ ㄒㄧ 台湾北部の地域
天燈 tian1deng1 ㄊㄧㄢ ㄉㄥ ランタン



夜空に吸い込まれていくランタン
舞い上がる瞬間を待つランタン
同じ方向に流れていくランタン
チグハグな空気感漂う会場

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