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TYQOON / Sohbana【AT1選note投稿祭】

どうも、皆さんのnoteを摂取しないとnoteが書けなくなった化け物こと一般通過にわかボカロリスナーのkαnnαgiです。

この度「AT1選note投稿祭」という企画を主催させていただきました。概要は以下のツイートの通り。

自分が「FF!AT1選とかについて語るnoteを投稿する企画あったら面白くね?」と言ったところそのFFのひとりから「主催は任せた!」と言われてしまったことがこの企画が行われるきっかけとなりまして。
あんまり参加者集まらなかったらどうしよう……とか思ってたら

全然いました。投票してくださった皆さん、ありがとうございます。
「参加しない」が0票なの、ちょっと嬉しいですね。

企画しといて参加しないのは違うな、と思ったので主催も参加します。自分のAT1選はこちらです。

『TYQOON』/ Sohbana
ですね。むしろこれ以外自分には何があるのかと。
1回「"TYQOON" from:knng_441」で検索かけてみてください、夥しい量のツイートが出てきます。

自分がボカロ楽曲を改めて聴き直すきっかけになった1曲であり、Sohbanaさんにハマるきっかけになった1曲でもあり、ボーマスなどのイベントに足を運ぶきっかけになった1曲でもあり……
そんな、"ボカロリスナーとしてのkαnnαgi"を生んでくれた1曲が、自分のAT1選です。
では紹介していきましょう。イクゾー!


1.Sohbanaさんと楽曲について

Sohbanaさんについて

以前noteで出した画像の再編集版

ニコニコ大百科の記事マジで情報充実してるので読んだ方がいいです。
あと本人が自己紹介の記事を書いてくださっています。ありがたいね。

正直Sohbanaさんに関する紹介はこちら↓

のnoteで結構やってるので、よろしければこちらをお読みいただけると幸いです。

『TYQOON』という楽曲について

Sohbanaさんの22作目。
Sohbanaさんの楽曲としては初となるMEIKO歌唱楽曲。
この楽曲で参加した「ボカコレ2022秋」で当時のSohbanaさんのボカコレ最高順位(現在は9位が最高順位)であり、MEIKOソロでも最高順位となる11位を獲得しています。
Sohbanaさんの1stフルアルバム『0-0(読み:ラブオール)』に収録されており、こちらは初音ミク歌唱になっています。

更にKiiteにおけるMEIKO人気楽曲年間1位を獲得するなど、現代におけるVOCALOID・MEIKOを語るうえで外せないのがこの『TYQOON』という楽曲。

後述しますが、特に2024/5/20の"あの発表"もあったので、まさしく今MEIKO歌唱楽曲で一番熱い楽曲と言っても過言じゃないんじゃないでしょうか。
少なくとも自分はそう思います。

2.楽曲の魅力・解説

正直自分なんかが解説なんぞ書かなくてもご本人がFANBOXで解説を書いてくださっているので、ここでは楽曲の魅力メインで語っていきたいと思います。

↑最高記事 全人類読んで

①MEIKOの唯一無二の歌声

楽曲を聴いてもらうと分かる通り、『TYQOON』のMEIKOさん、ひいてはSohbanaさんの楽曲のMEIKOさんはすごく特徴的な声をしています。
元々のMEIKOさんは大人の女性、情熱的でパワフル、ポジティブと言った印象を受けるのに対して、Sohbanaさん家のMEIKOさんは強気で生意気で負けん気強そうな感じがします。これはもしかしたら自分がSohbanaさん家のMEIKOさんに理想を抱きすぎてるだけかもしれませんが。

ニコニコ動画のコメントには

  • ファンイメージが固まる前の最初の頃の声っぽいのかわいい

  • ちょっと小生意気そうな声ほんとうに好み

  • MEIKO、使い方次第でいろんな声になるから楽しい

などのコメントもあり、このMEIKOさんの声が楽曲の魅力の一部として受け入れられていることが伺えると思います。自分もこのめーちゃんの声本当にすき。

②くるくる変わる楽曲の展開

上のツイート見りゃ分かります
という説明放棄はやめてちゃんと解説をします。ごめんなさい。
そもそも『TYQOON』には、Sohbana楽曲系統樹における要素がめちゃめちゃ入っています。

『ミクロハニムーン』から繋がる四つ打ちロック(ロックではないけどロックのエッセンスは感じる)の系統、『月が遠いですね。』から繋がるおしゃエレクトロの系統、『エデンノアート』から繋がる高速(165を高速と言っていいのかは分からないけども)の系統、そして『ピンシアニール』から繋がるネガティブの系統。
この4系統が色々混ざりつつも『TYQOON』という楽曲に集約された結果、エレクトロ的なシンセに四つ打ちのドラム+ロックらしいベースが重なったり、高速になるパートが存在したり、初手で「ごめん」が入る歌詞が登場したりするわけです。詳しいこと本当に何もわからないけど。なんなら祭パートとかめっちゃサンバだけど。

ただ、『TYQOON』を聴いたときに、「今までずっとエレクトロをやってきた人間のエレクトロではない」と感じた人もいると思います。Sohbanaさんは所謂「ボカロック」に分類される楽曲を多く作っていますし、ギターを使用しない楽曲を作ったのは多分『TYQOON』が初めてです。ご本人も『TYQOON』は明らかにSohbana楽曲の中で異質なものだとおっしゃっていました(発言元URL引っ張ってこれなくてすみません)。
でも、だからこそ、ロックとエレクトロが組み合わさった聴いたことのない音を聴かせてくれる。それが『TYQOON』という楽曲だと思います。

③Sohbana楽曲における歌詞の2大方向性の融合

詳しいことは後述の「各パート解体」で掘り下げますが、大前提として、Sohbanaさんの楽曲の歌詞においては大きくふたつの方向性があります。
ひとつが、「中身の人間の実在性を主張する歌詞」。もうひとつが、「架空の女の子を主役にする歌詞」。
『TYQOON』はMVなどの視覚情報を含めて見るとかなり後者に見えるんですが、これが不思議なもので、歌詞を掘り下げれば掘り下げるほど前者に見えてくるんですよね。
「中身の人間の実在性を主張する歌詞」は過去数曲で登場していますが、この言葉を言い換えるなら「自身に向けた言葉の棘が周りにも刺さって抜けなくなる歌詞」と言っていいと思います。=じゃなくて≒レベルですが。

↑この辺りのツイが参考になるかも

これから解説する『TYQOON』という楽曲の歌詞は、自分の解釈では、「大君」であるひとりの少女が主人公だと思ってください。これが、「架空の女の子を主役にする歌詞」の要素です。
ですがここからの歌詞解釈では、「中身の人間の実在性を主張する歌詞」≒「自身に向けた言葉の棘が周りにも刺さって抜けなくなる歌詞」が多く含まれている、という主張が多くあります。
それを頭の片隅に記憶しておいていただいた上で、次の大見出しに移ってください。

3.各パート解体

※2-②に貼ったリンクから大体のパートを予想していますが、もし間違っていたら指摘いただけると幸いです
先に予防線ゴリゴリに貼っておきますね。

あと考察諦めたところもあります、
そこはもうSohbanaさんの思考に自分が追い付けなかった、
追いつこうと考えることが烏滸がましかったということで

嫌な人は「おわりに」の部分まで飛ばしてください
あとSohbanaさんも飛ばしてください 読んでるか分からないんですけど性質上目を通してはくださっていると思うんですけどここだけは本当に、読まないでくださいごめんなさい

Intro・1A(0:00~0:11)

四角四面でいらんなくてごめん
全能のクセして限界だ、ごめん
未だ来ない未来に酔い痴れてたら
アニメ化の波に飲まれました

『TYQOON』1Aより

初手懺悔
『TYQOON』という強く、ある種傲慢にさえ感じる曲名なのに最初の歌詞はめちゃめちゃ弱気です。

1Aの歌詞から分かることとして、この楽曲で歌われている「大君」は、四角四面である(=生真面目で堅苦しい)こと、全能であることが大君としての自分に必要であり、その通りでない自分に深い苦しみを抱いていることが分かります。
そしてそんな至らない部分があるにも関わらず、未来に希望を抱いて、その結果、アニメ化の波(=フィクションの檻、あるいは2次元の映像として再編されてしまった)に飲まれてしまった、そんな己の力不足を嘆いているのかなと思いました。

1嵐(0:12~0:23)

中心から離れるほどに強くなる力にただ抗って
殿堂へ登るのも実家で寝るのも全てがあなた次第で
1だけ聞いたら10知るあなたに3000くらい語って
健康を見せるのも優雅でいるのも興味がないもんで

『TYQOON』1嵐より

1Aを踏まえてのBメロ……ではなく、嵐パート。
確かにいきなり楽曲の圧が何倍にも跳ね上がるのはまさしく嵐のような勢いと言えるかもしれません。
ここのクラップ、マジミラ参戦する皆さんは覚えておいた方がいいと思います。絶対楽しい。

最初の行の「中心」を仮に「女王」と仮定すると、「中心から離れる」は「女王という立場から逃げる」ということになります。「強くなる力」は逃げ続けている己への批判や風当たりが次第に強くなっているという点からでしょうか。
2行目。「殿堂へ登る」は高みを目指す、対して「実家で寝る」は怠惰の究極系("実家"で寝るなのが怠惰度増してていいですよね)と全く逆の行為を出したうえで「全てがあなた次第で」と決断を各人に任せているような歌詞。「大君」であれば過剰な干渉にならない程度に人の行く道についても指し示して欲しい気がしますが、それすら「好きにしろ」と、「あたしの知ったことではない」と一蹴しているのはなかなかのもの。本当にどうしちゃったんだこの人。
3行目の「1だけ聞いたら10知る」は物事の一端を聞いただけでその全貌が理解できるほど聡明、という例えなんですが、それくらい賢い人間に敢えて3000も語る理由ってなんなんですかね。単純計算で3000×10=30000は理解してますよ。いやそういうことじゃないんだろうけど。
むしろ10が全貌なのに3000も語ってるのは本当に余計なことばっか言ってるとも言えるかもしれない。説明するには10で足りるのにその300倍の情報量をわざわざ教えてるの、行動があまりに支離滅裂ですね。
そして最後の行。「健康を見せる」とか「優雅でいる」みたいなのは上に立つ者の分かりにくい務めで、でもそれに対して「興味がない」って言ってる。
これはある種職務放棄であり、女王の名には相応しくない振る舞いかもしれません。1Aの歌詞の内容も含めて、自身の不甲斐なさに嫌気が差してヤケクソになってるようにも見えます。

あと自分がこの曲で一番好きな歌詞

1だけ聞いたら10知るあなたに3000くらい語って

『TYQOON』1嵐より

が出てくるので嬉しい。相手は少ない言葉でもその裏側まで理解できるのに余計なことまで喋っちゃうの、自分みたいで泣いちゃった……

まとめると1嵐(もう1Bでいいすか)は己の力不足から「大君」という役職から逃げ、本来果たすべき務めも果たさず、普段ならしないようなミスまでしてしまっている、もう落ちるところまで落ちてる状態と言ってもいいわけですが、ここから女王はどうなるんでしょうかね。持ち直すのかこのまま落ち続けて永遠に女王としての称号を失うのか。
まぁそれは、曲を聴けば分かる話です。

1サビ(0:24~0:35)

苦楽苦楽させるあやしのエゴ
当たっては外れてあをによし
倣っ給ったのね、誰かのエゴ
そうできないのが大君の性なんだ

『TYQOON』1サビより

「苦楽苦楽」って書いて「くらくら」って発音させるのすごくすき。苦しみと楽しみを交互に感じるのってある種「くらくら」してる状態だから意味も合ってるし。
あと皆言ってると思うんですけど「あをによし」→「倣(なら)っ給った」みたいに歌詞を枕詞で繋げるの本当におしゃれすぎる。
古語繋がりで「あやし」は多分あやすの連用形じゃなくて古語の「あやし(不思議だ、おかしいなどの意味がある)」の方だと思うんですけど、これは自分を惑わす周囲の人間の自己主張(エゴ)をこう言っているとも取れます。
個人的にはサビの歌詞は前半と後半で認識が違って、後半2行は台詞なんじゃないかと思います。語尾が「のね」「なんだ」なのが口語体っぽい。
分かりやすく1行ずつ自己解釈をまとめると、

  • 苦楽苦楽させるあやしのエゴ→自分を惑わせる周囲の人間の自己主張

  • 当たっては外れてあをによし→"あやしのエゴ"が故に人それぞれ正解・不正解(状況に応じたもの)が存在する

  • 倣っ給ったのね、誰かのエゴ→(話している相手に対して)あなたのエゴは誰かのを模倣なさったものなんですね(故に自分の意見ではない、というやっかみをあえて敬語にすることで引き立てる)

  • そうできないのが大君の性なんだ→倣う(=今あるものを真似る)ことが出来ないのが大君である自分の生まれつきの性質なのだ

という感じですかね。4行/11秒に情報詰まりすぎだろ……
最終的に「自分は自分の考えを貫き通す」みたいな考えに繋がるのもかっこいいですね。というか周りの人間のエゴの強さとそれに伴う自滅に呆れてるだけかもしれませんが。
4行目だけ見るとちょっと持ち直してきた気がしますね、落ち込んでいたら周りのエゴに"倣って"しまいそうな気もしますが、流石にそこまでは落ちぶれてはいないか。結果的にこれが後半の歌詞的にもファインプレーになりそうな気がする。

念のために言っておきますけどこれ全部妄想ですからね。公式解釈じゃないですからね。間違ってても石投げないでくださいね。
自分は全然古文真面目にやってこなかったクチなので単語の意味とか間違ってたら本当にすみません。

間奏(0:36~0:47)

あまりにも濃度の高すぎる8小節。人生最後の8小節これがいい。これ聴きながら逝きたい。
2小節ごとに背景の青がどんどん黒くなっていくの、2A冒頭の灰色背景に繋げるためだと思うんですけどどんどんこの楽曲の世界観に飲み込まれていく感じがしてすごく好きです。
あと、2023年のクリスマスイブに行われた『TYQOON』のパラミックス企画で、結構ここのパートの「テテテン♪」ってシンセを強調してミックス・マスタリングしてくださったPさんがいてめっちゃ嬉しかったです。

2A(0:47~0:58)

救いは来ないぞ狂い損ない
桃源郷にそんな福祉は無い
「ああ、こんなに上手に滑るとは思わず」
と、言いたげ 無彩色

『TYQOON』2Aより

韻が気持ち良すぎる。2Aでめっちゃ押韻する方式、最近だと『メディオクレ』でも採用してましたよね。ちなみに『TYQOON』と『メディオクレ』は尺が一緒です(2:22)。
ここの最初のフレーズって

"救い"は"来ない""ぞ狂い""損ない"

『TYQOON』2Aより

って感じで押韻に関わってない文字がほとんどないんですよね。ここ歌っててもめっちゃ気持ちいいし天才的なフレーズだと思う。

歌詞の内容の話をすると、1Aに比べて語気が強くなった気がしますね。1Aあんなに弱気だったのに。
本当に狂ってしまった人間には何かしら救いの手が差し伸べられるのに、それが嘘だと見抜かれると誰もがそっぽを向く。
桃源郷も求める者には姿を見せず、苦しみ続けた者の最終到着点にあり再訪不可能なものであると言われていますし、苦しみを偽る者の前には桃源郷は現れず、本当に苦しんだ者の前にのみ現れるのだと思います。
また、「桃源郷」と似た言葉として「ユートピア」という言葉がありますが、ユートピアはあくまで「人の住む地から遠く離れた島」という思想があり、必ずしも再訪不可能な場所ではない、という定義があります。
加えてもう一つ、桃源郷とユートピアの相違点として、ユートピアは人間の手を加えて作ろうとすると失敗して惨劇を起こすのに対して桃源郷は惨禍の後にできるもの、とされています。
つまりユートピアを人間が作ろうとする→失敗して災いが起こる→災いが沈静化した後に桃源郷が現れるという流れを作ることが出来る、ということには一応なっているわけで。このことから桃源郷は消極的なもの、と言われたりもします。
で、結局何が言いたいかということなんですが、ユートピアに関してはトマス・モアが思想書『ユートピア』にて、ユートピアは「普遍の人間の努力によって築き上げられた社会主義国家」と説かれています。国家なので当然法律も風俗も社会制度もあります。ならもちろん福祉もあるだろう、というわけです。
それに対して同義の桃源郷は「理想社会の実現を諦める」という理念が示されています。「桃源郷にそんな福祉はない」というのはそういうことだったんですよ(どういうこと?)。
せめてもの救いが欲しいなら上の「狂い損ない」は理論上無理をすれば到達できるユートピアの方に行くべきであって、お前が本当に望むべきは桃源郷でない、ということを遠回しに教えてくれているのかもしれませんね。1嵐の”殿堂へ登るのも実家で寝るのも全てがあなた次第で”という歌詞で人の先導を放棄していた女王がもう一度民衆へ導きを与えようとする瞬間なわけです。このパートって。多分。

後半2行の

「ああ、こんなに上手に滑るとは思わず」
と、言いたげ 無彩色

『TYQOON』2Aより

に関してはマジで分かんない。何?この歌詞?
嘲笑のニュアンスが含まれてるようにも見えますが、「無彩色」が何かが全く分からん。

2嵐(0:59~1:10)

伝わるほうへ伝わればいいとか言ったがアレは違くて
戦争が起きるのも何派が在るのも結構どうでもよくて
1から「あ」なり「A」なり産める可能性だけが自慢で
台風の目とかいう「空っぽ」が僕の夢です!
なんて叫んでら

『TYQOON』2嵐より

このパートは前半2行と後半3行に分けて解釈をします。
前半の1行目の「伝わる方へ伝わればいいとか」は多分ヤケクソ時代の台詞でしょうね。メンタル不調だった時代にやっちゃった失言を割とメンタル立て直した後に訂正したり消したりするの良くやる良くやる。
2行目の「戦争が起きるのも何派があるのも結構どうでもよくて」はかなりめちゃくちゃなこと言ってますね。リリース時期違ったら燃えてたんじゃないかこれ。
ただ、逆に言えばここの歌詞は女王の中立性を表しているとも言えます。
女王がいるということはここはある種の国家であって、恐らく君主制のはずです。当然臣下たちの対立だってあるでしょう。タカ派ワシ派もいるだろうし、一触即発の状況なのかもしれません。女王の職務放棄もありましたし。
ただ、そんな中で「戦争や派閥争いに興味はない」と女王が言い切ることで、揉めていた臣下たちを黙らせることが出来るわけです。女王は絶対ですからね。
そんな女王の権力的な強さが伝わってくるワンフレーズなんじゃないかと思います。

続いて後半パート。
「1から「あ」なり「A」なり産める"可能性"」ということは、女王はこの「1から「あ」なり「A」なりを産む経験」をしたことがないとも言えます。もしかしたら以前出来たから今回も出来る!という意味での"可能性"かもしれませんが。
自分はこの「あ」なり「A」なりは、日本語や英語と言った言語の話をしていると仮定しました。我々は当たり前のように言語を用いていますが、言語も誰かが産み出して、それが定着したから人は同じ言語でコミュニケーションなり何なりを取れるわけです。
それを、女王は"可能性"にしか過ぎないけど出来る、と言っているわけです。しかもそれを、それだけを自慢している。
どんだけ図々しくなったんだこの人?1Aとか思い出してみてください、

四角四面でいらんなくてごめん

『TYQOON』1Aより

ですよ?

そしてこの後最終的には「空っぽ」を望んでいる部分まで含めて1嵐パートのヤケクソ感に通じるものを感じますが、ただこの「空っぽ」、ただの空っぽじゃありません。
"台風の目とかいう"「空っぽ」なんですよね。試しにWikipediaで「台風の目」を調べてみましょう。

「激しく動いている物事の中心にあり、それを引き起こす原因となっている人や物」という意味の慣用句としても使用される。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:「台風の目」より

まさに大君/『TYQOON』では?
ただ後述のパートでも分かる通り、恐らくこのMVの女の子の一人称は「あたし」です。「僕」ではありません。
つまりこの「台風の目とかいう空っぽ」を望んでいるのは「大君」ではない他の誰か。言わば、立場を脅かす何者かです。
そう考えると「空っぽ」と形容されているのも割と筋が通ります。傍から見れば職務放棄してる女王なんて操り人形、お飾りのように思われても仕方がありません。そこを冷笑したうえでの「空っぽ」でしょう。
また、台風の目は、

熱帯低気圧の目の下では風が穏やかで、雨もほとんど降らず、青空が見えることもある。しかし、目の周囲は熱帯低気圧で最も風雨が強い部分である。

フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』:「台風の目」より

ということから、「周りを敵に囲まれている状態」とも取れます。
つまり今の女王は周りは敵だらけ、更に自分の立場を狙う人間も出て来た。まさしく絶体絶命四面楚歌の状況です。そんな中でも「なんて叫んでら」、と自分の立場を狙う人間を嘲笑した上で、楽曲は次のパートに移っていきます。

祭(1:11~1:33)

タヒにたいあなたに共感はしないが
何となく感じ入ったげるわ
そんなあなたは冥土へも行けず
飯田も数子も言うはずだわ

タヒにたいあなたに共感はしないが
何となく感じ入ったげるわ
そんなあなたが世界を救う
0.1縷を説いたげるわ

『TYQOON』祭より

唐突に笑い出すイラストの女の子。
曲調の急激な変化も相まってサウナに入った感覚になります。楽曲で整ってる。健康にも影響ないので良い整い方ですよね(?)。
最近だと『SENSELESSES』の1:46~のパートがMV・曲調が急激に変化するという点でかなり類似性を感じました。

楽曲的にもちょうど折り返しから始まる(1:11~)こともあって、ここから後半戦!みたいなイメージが強く感じられるパート。曲調がころころ移り変わるこの曲において一番尺の長いパート(22秒 22秒!?)であることもあってそのインパクトは強烈。

自死を選ぼうとする「あなた」に対してやや薄情とも思える反応をする彼女ですが「なんとなく」は感じ入ってくれるようです。
この

なんとなく感じ入ったげるわ

『TYQOON』祭より

というフレーズ、実は過去作にも登場しているんですが皆さんご存じでしょうか。第1期(『ミクロハニムーン』~『ハルシネイト・デイト』)の楽曲なので知らない方も少しばかりいると思いますが、『エデンノアート』という楽曲の1Aに全く同じフレーズが登場します。

↑この楽曲のリメイク版である『エデンノアート -TrueArts Style-』がSohbanaさんの1stアルバム『0-0』をタワーレコードで購入した際の特典としてついてくるので、もし楽曲聴いて気になった方は是非(まだ手に入るのかは自分も知りません)

さて、Sohbanaさんは「歌詞に全く同じフレーズが出てきたらそれは故意にやっている」と明言しています。URL頑張って見つけて後で貼ります。
ということは、『TYQOON』で『エデンノアート』のワンフレーズを引用したのには、何か意味があるわけです。
『エデンノアート』の歌詞をざっくりまとめると、「アートのことは全然分からないけど、そのおかげで損もしてるし、得もしている」みたいな歌詞です。
「アートが分からないから」面倒な人にならないし、「アートも分かってるから」機械じゃないという人を冷笑するような歌詞です。
ただ一方で、アートにも理解り手が必要で、そういう人たちも一定数いないとアートって消えちゃうよね、という話もしています。本当にざっくりまとめました。この時期のSohbanaさん、今より歌詞が真っ直ぐで助かります。今が分かりにくいって言いたいのかお前

そんな『エデンノアート』と『TYQOON』、系統樹でも繋がっている(というか、『エデンノアート』から始まった高速の系譜の中に『TYQOON』がいる)ので、何らかのつながりがあるのは間違いありません。加えて歌詞の完全一致検索ヒットです。

その上で自分がこの2曲の、このフレーズの共通点として挙げるのは、
「理解できないものにも理解の姿勢を」ということです。
『TYQOON』では

タヒにたいあなたに共感はしないが
何となく感じ入ったげるわ

『TYQOON』祭より

であり、『エデンノアート』では

何が描いてあんのか知らないけど
何となく感じ入ったげるわ

『エデンノアート』1Aより

と、どちらも前半に「自分にとってよく分からないもの」が置かれています。要は理解できないものですね。
ただここで理解を諦めず、「何となく感じ入ったげるわ」という言葉で理解する姿勢だけは見せる。それで本当に理解できようができまいがいいんです。理解する姿勢だけでもしてくれただけで、人は救われたり見識が深まったりもします。

ここからは「理解を示す対象」になった「タヒにたいあなた」についてです。自死を選択しようとするということは恐らく先ほどのパートで出て来た「僕」とは別の存在でしょう。
「飯田も数子も」の飯田はゲッターズ飯田、数子は細木数子の名前をそれぞれ拝借しているっぽいですが、

多分「冥土にも行けない」という自分の主張を強固なものにするためにスピリチュアルというか、そういうまじない的なものを味方につけてるんですかね。冥土に行けないってことは魂が彷徨う状態だと思いますし、ある種オカルトみを感じる主張ではあるので。

祭パートの後半では背景が黄色く、更に文字のインパクトが強くなり、加えて死ぬほどかっこよくて強いベースの音が前面に出てきます。ありきたりな表現だけどこのベースからしか得られない栄養素、ある。間違いなく。

近い これがほんまのガチ恋距離ってやつですか
えっ!?俺くんが!?
ん?
ギャッッッッッ(絶命)
!?

優勝(1:34~1:45)

キタ―――(゚∀゚)―――― !!

出ました優勝パート。
今まで単色だった背景が一気にカラフルになり目に優しくなくなります。わぁビビッド。
ここ多分色がCMYKで分かれてるんだと思うんですけど、MV中で一番使われている背景色の青(C)、ラスサビで使われる背景色の赤(M)、そして祭パート後半で使われる背景色の黄色(Y)、2A・落ちサビで使われる黒(K)と、視覚的に楽曲の全てを取り込んだパートになってると思ってます。
祭パート前半の白はごめん……ガバガバ解釈だから拾ってあげられなかった……

落ちサビ(1:46~1:57)

素材で食ってきたあの子は今
尖り違った末レプリカ未満
食らい給ったのね、あたしのエゴ
その蓋然を崩したいの

『TYQOON』落ちサビより

うわぁ!いきなり落ち着くな!(背景と曲調が)
この楽曲で一番歌詞の攻撃性が高いパート。歌詞のリズムはサビと同じなんですが、曲調の落ち着きがあるので最初全く気付きませんでした。

ここの「あの子」ですが、「あなた」じゃないので多分2嵐パートで出て来た「僕」じゃないかと勝手に考えているんですが(女王から「僕」への2人称がここまで出てきていないので)、その上で歌詞を読んでいくと割と整合性が取れているようなきもします。
まず1行目。「素材で食ってきた」というのは恐らく「才能や周りの力でここまでやってきた」という意味でしょう。「大君」の座を奪おうと正面から女王に挑んできた勇気は恐らく一人では得られなかった、誰かの助けを得たものだと思います。コネ使うのはまぁ確かに賢いですからね。そらコネあったらみんなやるべきだよな。
ただ、2行目でそんな「僕」は「尖り違った末レプリカ未満」となっています。恐らく周りの協力も含めた自分の能力をすべて自分のものだと過信してしまったんでしょう。一人でグイグイ行き過ぎて、「大君」のレプリカにすらなれず自滅したのかもしれませんね。この女王まーた誰か自滅させてるよ。
そして後半2行は1サビと同じように恐らく台詞になっています。「のね」「の」という語尾がまたも推測理由になっていますが。
1サビの4行目で「そうできない(他人のエゴを真似できない)のが大君の性なんだ」と言っていましたが、これがそのまま「大君」の定義になるわけです。
「大君」は、誰のエゴにも左右されず、己の意思を持つ者。一度誰かのエゴに「倣って」しまえば、「大君」としては相応しくないわけです。
その上で3行目を見ましょう。

食らい給ったのね、あたしのエゴ

『TYQOON』落ちサビより

「僕」は、「大君」の教えを受け取って、飲み込んでしまったのです。一度誰かの思想に染まってしまえば、それは自分の意見と言えるかどうかは怪しいです。人間誰の思想にも染まらず我を通すのは絶対無理だろというご指摘はともかくとして。
「大君」のエゴを覚えてしまった「僕」は、言わば「大君」のエゴに今後無意識で「倣って」しまう可能性があるわけです。そうなると当然、「誰かのエゴに倣ってしまう」ということは、「大君」には相応しくない。
加えて前半2行で自滅しているので、見事に女王は不届き者を打ち負かすことに成功したわけです。
そして最後。「その蓋然」の「蓋然」を辞書で引くと、

たぶんそうであろうと考えられること。ある程度確実であること。

goo辞書『蓋然』のページより

と書いてあり、対義語は「必然」ということまで書いてあります。
このフレーズは、「僕」に対してのとどめの一撃のようなものです。
「僕」の計画には穴があった。自惚れなのか、「大君」のエゴを食らってしまったことなのか、はたまた他のことなのか。
完全ではない計画=蓋然性のある計画であった時点で「僕」の敗北は確定していたわけです。
女王は確かに弱っていました。ヤケクソになって、責任から逃げていました。
でも、それでも、自分を、エゴを強く持ち続けたことで、女王は女王であり続けることが出来ました。
これは、この楽曲全体を通してのMEIKOさんにも同じことが言えます。
詳しくは次の項目で説明しますが、MEIKOさんのイメージを打ち破った『TYQOON』という楽曲は、この曲を聴いた人のMEIKOさんに対するイメージを間違いなく変えました。
今まで懐かしい曲ばかり、大人っぽい曲ばかり歌っていたMEIKOさんにこうして一枚絵で今っぽい曲を歌わせることで、MEIKOさんの持つ本来の「エゴ」を解き放った。
そのエゴを我々も食らってしまったところで、いよいよラスサビです。

ラスサビ(1:57~2:09)

苦楽苦楽してるあたしは今
光の向け先を探してる
教え給ったとこ無礼ながら
偉人も君子も教科書にならないわ!

『TYQOON』ラスサビより

ここで背景の色がまたしても変化。今度は赤です。

『TYQOON』という曲名で「偉人も君子も教科書にならない」って歌ってるの、歴史は失われていくもので、未来に受け継がれていく中でどんどんと擦り減ってやがて全部なくなってしまう、みたいな一抹の寂寥を感じますね。
そんな中で、「光の向け先を探している」。「大君」という責務を受けた以上は、未来にその名が残らなくても、救いを与え続ける。自分の過去の苦しみも、環境も、すべて自分の糧となり、「大君」として己が果てるまですべてを無駄にせず利用していくという強い意志を感じます。

知識を得て、それを実践する。
「光の向け先を探してる」→「教え給った」のラインが上手く成立してて気持ちいいですね。
「教え給った」のは多分「偉人」と「君子」、つまり先代の「大君」であったり過去の統治者なんでしょうか。そう考えると最後の最後で先人たちに喧嘩売ってるみたいにも取れてめっちゃ面白いですねこの歌詞。

(2回目)

Outro(2:09~2:22)

教科書にならないわ

最後にこの1文を2回歌って締めるの、いいですよね。
大事なことなので2回言いましたみたいで。
この「最後に同じフレーズを2回繰り返して終わる」方式、最近別楽曲でも使われていたんですけど、皆さん覚えてらっしゃいますでしょうか。

そう、『マスネ・ゴシエイション』ですね。

こんな風に

『マスネ・ゴシエイション』ラスサビより

勝手に自分はこの楽曲を『TYQOON』の対だと思っています。
BPMが同じ165、ボーカルがKAITOとMEIKO、それ以上に何も要らん。

↑確信犯ですこの人

このようなツイートもしていることですし、絶対『TYQOON』と『マスネ・ゴシエイション』って同列の思考回路で作られてると言ってもいいと思うんですよね。絶対なんかねえようるせえよ

しかし同じ方式を取っているとは言え、この2曲におけるこの方式の使い方には差異があります。
まず、『マスネ・ゴシエイション』。こちらの楽曲ではSohbanaさんが「寒いくだり」と称した部分が該当部分になっています。ここから読み取れる方式の使い方としては「念押し」が一番近いでしょうか。

右だと言えば皆して右を向くのです

こんな風に

『マスネ・ゴシエイション』ラスサビより

一方の『TYQOON』。
先ほど「同じ1文を2回歌って締める」と言いましたが、厳密には少しだけ違いがあります。

偉人も君子も教科書にならないわ!

『TYQOON』ラスサビより

教科書にならないわ

『TYQOON』Outroより

皆様お気付きでしょうか。
そう、「!」の有無です。
つまり2回目よりも1回目の方が語気が強く、歌い方も強くなるはずです。もし「念押し」なのだとしたら強くするのは2回目の方がいいはずなのに、どうして1回目を強くしたんでしょうか。
これに対する自分の個人的な答えは、「対象が違うから」だと思っています。
最初の「教科書にならないわ!」は明確に"誰が"教科書にならないのかが書かれています。目的語ってやつですね。「偉人も君子も」教科書にならない。
そして2回目の「教科書にならないわ」は、恐らく対象は「自分自身」でしょう。「偉人も君子も」の中に勿論「大君」である自分も含まれていますよ、というような憂い。
と、決意表明。「あたしの存在が未来に残らなくても、あたしは今、自分に出来ることを、やれることをする」。そう言ってるような気がしました。
書いてて本当に自信なくなってきたしちょっと恥ずかしくなってきたごめんなさいごめんなさい





全体の歌詞解釈を通して、『TYQOON』には、応援歌的な側面があると個人的には思いました。
1番では己の力不足に喘ぎ苦しみ、ヤケクソになり、瞑想し、2番で自分も含めた周りを傷つけ、何かを掴み、人を冷笑し、踏みとどまり、己の主張を持ち、それを貫き、果敢に挑み……
そして最後には、「教科書にならないわ」と、自分が残らないもの、未来へ受け継がれていくものではないという最も悲しい歌詞を高らかに歌い上げている。この歌詞を、人類が滅びても残り続けるVOCALOID・MEIKOが歌ってるのもまた味わい深くていいですね。
MVの彼女は間違いなく『TYQOON』ですが、それ以前に我々と同じひとりの人間であり、我々と同じく「教科書にならない」人間です。よほど有名にでもならない限り、我々ひとりひとりの存在は未来に残ることはありません。有名な人物であっても、資料が残っていない、或いは消えてしまったという理由で歴史から名を消した偉人も少なくはありません。
そんな、諸行無常の世の中を、必死に生きていくための歌。未来に何も残らなくても、今を懸命に生きていこうという歌。

それがきっと、『TYQOON』なのだと思います。
そう、思わせてください。

あたしの望む全てを、この歌に


4.もうひとつの「Q」との繋がり

正直これは楽曲の魅力・解説の部分で取り上げてもいいかなと思ったんですが、文章量的に大見出しにしても行けると思ったのでここで。
この『TYQOON』という楽曲を語る上で欠かせない楽曲がもう1曲あります。
そう、『ARQETYPE』です。

自分は勝手にこの2曲のことをまとめて「Qの系譜」と呼んでいるのですが、『ARQETYPE』は何を隠そう『TYQOON』がなければ生まれていません。
ここからは話を進める前提として『ARQETYPE』の解説記事を読むことをおすすめします(下のURLです)。

まず『ARQETYPE』は、『TYQOON』からSohbanaさんが描いてきたMEIKOさんの強さが「Qの系譜」として残っています。現在では100ないとも言い切れなくなってしまった『TYQOON』のプロセカ実装希望勢(自分もその一人)を満足させるための側面が、『ARQETYPE』にはあるからです。

それから、自分の既存MEIKO曲に「TYQOON」という曲があるのですが、
それを踏まえないわけにいきません。
ゲームに実装してくれという声も見ていましたし、
窓口へリクエストを送ってくれていた方もいるようです。
ありがとうございます。
でもね、ハードルは高いんです。申し訳ない。
(追記:そう言われたわけではないです 僕が思ってるだけ)

Sohbana氏のpixivFANBOX記事『ARQETYPE』より

・TYQOONをプロセカに入れろ勢が満足できる曲にする

同上

↑ごめんなさい 欲を言えば『TYQOON』も『ARQETYPE』も両方やりたいです(強欲)

『TYQOON』のMEIKOさん像は、恐らくSohbanaさんの考える"ボーカロイド・MEIKO"の体現だと思っています。
クリプトン6人組の最年長で、大人っぽいイメージがあって、ユーロビートや懐かしのメロディを、深紅のきわどい衣装で歌って踊っている。
そんなMEIKOさん像もありますが、Sohbanaさんが見ているのは、多分そこではないです。
『TYQOON』で描かれているMEIKOさんは、そういうイメージと、しがらみから解放されたMEIKOさんであると個人的に勝手に思っています。
きわどい衣装も着ない。大人っぽい歌詞も歌わない。動かない一枚絵で、なんだか不思議なポーズをさせられながら、MEIKOとしての、「気高さ」を歌っている。
MEIKOさんの楽曲にはMEIKOさんっぽい女の子が描かれることが多かった中で、『TYQOON』のイラストは異質でした。だからこそ、新時代のMEIKO像する形に、結果的になった。

そんなSohbanaさんに、MEIKOさんへの書き下ろし依頼が来るのは必然だったんだと、今となっては思います。
2023/3/23。あの『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat.初音ミク』内各ユニットのバーチャル・シンガーをイメージしたユニットイメージアルバム『セカイノオト vol.1』にMEIKO(Vivid BAD SQUAD)担当として、Sohbanaさんが抜擢されました。
『TYQOON』からSohbanaさんを知った自分にとっては、「SohbanaさんのMEIKO曲がまた聞ける」という最高の発表でした。

ゲーム内実装ジャケットを見ても「かなりTYQOONやんけ」と思うレベルには『TYQOON』の血が濃いのですが、『ARQETYPE』で描かれているのはただの"ボーカロイド・MEIKO"ではありません。

・TYQOONと違い、「ビビバスの」MEIKOにフォーカスした楽曲にする

Sohbana氏のpixivFANBOX記事『ARQETYPE』より

あくまで「ユニット"イメージ"アルバム」なので、イメージするのは当然「ストリートのセカイのMEIKO」です。
試しにピクシブ百科事典でビビバスMEIKOのことを調べてみましょう。

「Vivid BAD SQUAD」のユニットストーリーに初期から登場している。カフェ「crase cafe」のマスターをしている。料理が上手で、よく新メニューなどを作ったりする。コーヒーを淹れるのも得意。料理が苦手な歌姫の料理をよく手伝ったり、リンとレンの喧嘩の仲裁をしたりと、非常に面倒見が良い。性格は大人っぽく、物事を客観的に見ることができる。

ピクシブ百科事典『ビビバスメイコ』の記事より

……え?こんだけ?初期からいるのに?
ちなみに同じく初期からいるミク、レンも大体こんな感じです。こうして見ると意外とプロセカ内での各セカイにいるバーチャル・シンガーの味付けって薄いんですね。
ただ、それでも、SohbanaさんはビビバスMEIKOに大切に向き合い、結果として、

①「相談役としての苦悩と優越感」を歌詞で提示する。
(中略)
②「crase cafeの営業時間外に最強になる」を曲で提示する。

Sohbana氏のpixivFANBOX記事『ARQETYPE』より

という2点を元に、「ストリートのセカイのMEIKO」に相応しい、最強の楽曲を作ってくださいました。
MEIKOに触れたきっかけは些細なものでも、ここまでMEIKOさんを愛してくれて、ここまで向き合ってくれるボカロPがいることに、MEIKOさんのファンとしては感謝しかありません。下記みたいなこともおっしゃってますが。

めーさんは、Sohbanaを語る上で無視できない女になってしまいました。
なってしまって初めて、堂々と愛着を持てるというものです。

Sohbana氏のpixivFANBOX記事『ARQETYPE』より

先程も言いましたが、Sohbanaさんの楽曲の中で『TYQOON』は、かなり従来の系譜から外れた楽曲です。ボーカルがミクじゃないし、ギターも使ってないし、サムネもやたらカラフルだし。
でも、『TYQOON』という楽曲が伸びて、ボカコレで11位になって、殿堂入りもしたことで、SohbanaさんとMEIKOさんの関係は「一回きり」のものではなくなりました。

元々僕はかなりフワッとした動機でMEIKOに触れ、
1回だけよ〜というつもりで「TYQOON」を作ったのでした。
言ってしまえば全然
「無かったことにしてSohbanaに戻る」
をするつもりでした。

Sohbana氏のpixivFANBOX記事『ARQETYPE』より

そうしてお出しされたSohbana×MEIKOの2曲目が、『ARQETYPE』です。
『TYQOON』で描かれたMEIKOの強さはそのままに、ビビバスMEIKOのキャラクターを見守る面倒見の良さと、その仕事をしていない時の純粋な力強さ。
それらが混ざった楽曲が、『ARQETYPE』なんです。
1回、プロセカで『ARQETYPE』を聞いた、プレイした皆さん、是非、『TYQOON』も聴いてくれませんか。
きっと、あなたの中のMEIKO像が、大きく変わります。

最後に、『TYQOON』と『ARQETYPE』について、好きなところをひとつ。

"The Primitive Idol"ってもしかして
MEIKOさんじゃん!!!!!!

_人人人人人人人人人人人人人人人人人_
> 英題がMEIKOさんすぎてめっちゃかっこいい <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y^Y ̄

5.おわりに

"これからの話"をしましょう。
この記事を執筆していた5月20日、『マジカルミライ2024』の公式CDに『TYQOON』が収録されることが決定しました。

近年のMEIKOさんを語るうえで外せないこの楽曲がマジカルミライ公式CDという形で残るのが本当に嬉しいです。泣きました。フォロワーうるさくてごめん。なんならこの文面を書いている今も泣いています。

元々3月にギザさん(@giza_miku)が以下のようなツイートをされていて、「まぁ近年のMEIKOと言えばって感じだしありえるよな……でも正直あんまり採用されるにしては再生回ってないような気もするんだよな……」と薄々思ってはいたんですが、まさか採用されるとは

↑絶対ないって思ってたけどあったよ

皆さんの中で、AT1選が、しかも2年前のボカコレで惜しくもTOP10入りを逃し、殿堂入りにもそれなりの時間をかけた(それでもSohbanaさん楽曲の中で2番目に早い)苦労人みたいな楽曲がマジカルミライに掬い上げられる経験した人、います?少なくとも自分は知らないです。
『TYQOON』はSohbanaさんの中では本当に大人気作と言っても過言ではないですが、まだまだ知名度が高い楽曲とは言えません。パブサしてあんま引っかかんなかったのちょっと気にしてるからな。同じCDに強い楽曲入ってるから仕方ないっちゃ仕方ないけど。

それでもパブサ結果を見る限り

  • 「TYQOON初めて聴いたけどめっちゃいい」

  • 「うおおTYQOON!!」

  • 「TYQOON知らなかったのでこの機会に履修したい」

みたいなツイートがいっぱいあって嬉しいですね。どんどん『TYQOON』の魅力が伝わっていく。
自分自身『TYQOON』に人生を狂わされたと言っても過言ではない人間なので、このCD収録を機に『TYQOON』という楽曲が広まり、あわよくば会場で祭パートを斉唱してクラップ出来たらいいですよね。願望だけど。

あとこのnoteの冒頭の方で出したpixivFANBOXの記事を改めて読んでいただきたいんですけど、『TYQOON』のすべての始まりって、もしかしたらマジカルミライかもしれないんですよ。

話は1か月前くらいのマジカルミライの日の打ち上げまでさかのぼります。

Sohbana氏のpixivFANBOX記事『TYQOON』より

そんな中、マジミラ終わりのボカロPたちと飲んでいて、
その場がふと「リン・レンって良くね?」という流れになりました。
声にハリがあってハッキリ聞こえる、2種類声がついてくる、みたいな。
僕はそれまでメインでミク、たまに可不と「肺活量が控えめな」ボカロを使ってきたので、ウナ、リンレン、Flowerのようなパワフルな声には確かに憧れがありました。

もうこの際だから何か買うかあと思い、Amazonを立ち上げました。
ボカロをいろいろ見ていると、ふとMEIKO V3の名前が目に入ってきました。
僕はMEIKOをその場で買いました。残り1点、9980円でした。

同上

マジカルミライの打ち上げの話から、MEIKOを買ったSohbanaさん。
そのMEIKOを使用した楽曲でボカコレ11位まで上り詰め、そしてマジカルミライの公式CDに収録されることになりました。

これもう奇跡だろ。気付いたときはもう泣くとかじゃなくてひたすら笑ってました。人間本当に感動した時は笑っちまうんだな。

TYQOONの"Q"は、"QUEEN"の"Q"。
女王がマジカルミライのステージに降り立った時、どんな反応をされるのか、今から楽しみですね。
あっまた想像したら涙が

↑クロスフェード 聴け 我らがTYQOONは4番打者です

↑マジミラ仕様のTYQOON 聴け

ちなみにMEIKOさんがボーカルの『TYQOON』はマジカルミライ公式アルバムでしかCD音源化されないので、MEIKOさんの歌う『TYQOON』が欲しい人は絶対に買いに行きましょうね。自分も行きます。

という感じで(どういう感じ?)、自分のAT1選noteは締めさせていただきます。
改めて参加してくださった皆様、本当にありがとうございました。
皆さんの素敵な作品についても全て目を通させていただいております。

また機会がありましたらこのような企画を立てさせていただくと思うので、その際はまたよろしくお願い致します。



~おまけの宣伝コーナー~

①『マジカルミライ2024』クリエイターズマーケットに、Sohbanaさんは宮守文学さん・ごーぶすさんとともにサークル「まるいKINGOON」で参加されます。参加配置は上記の通り。
また、会場ではそれぞれの楽曲をRemixしたEP『まるいKINGOON』をリリース。Sohbanaさんは宮守文学さんの『king妃jack躍(Original Vocal:初音ミク)』をボーカルをMEIKOさんにしてRemix。ごーぶすさんがこの記事でも解説した『TYQOON』をボーカルをKAITOさんにしてRemixしてくださいました。
EPの価格は1000円。是非お求めください。クロスフェードも貼っておきます。

勿論上にリンク貼った公式アルバムもよろしくな!!


②フジテレビの深夜番組『深夜のハチミツ』内の企画「ハチフェス」に、Sohbanaさんが吉本興業所属のお笑いコンビ・9番街レトロと楽曲を作って参加されることになりました。これほんまに現実?

楽曲作りの様子が少しですが8/11 24:30~の放送回にてオンエアされていますので、見逃したという方は是非TVerで。ちょっとだけ作った曲も聴けます。『つるみ私書箱』と『平気なんですよ本当に』が流れてます。
は???????????????(嬉しい)

続報は『深夜のハチミツ』公式Twitter(X)、またはSohbanaさんのTwitter(X)から発表されると思いますので、お見逃しなく。





最後に、少しばかり自語りと虚妄の話を。
自分自身も某イベントで11位を取ったことがあり(しかも2回も)、そういう意味ではこの『TYQOON』という楽曲の境遇に共感することがありました。
ボカコレ2022春で『雨は実刑』を発表し『次世代』の持っていたTOP100・84位の記録を大幅に塗り替える37位を記録したSohbanaさん。
その次のボカコレであるボカコレ2022秋で『TYQOON』を発表し、またしても最高順位を塗り替えたわけですが、この順位変動、84位→37位→11位って凄いですよ。
ただ、11位という順位を見た時に、「惜しいな」とどうしても思ってしまう。
ボカコレ公式のニコニコ生放送でMVがオンエアされるのは、TOP100だと10位からです。11位から下はタイトルと投稿者名、それと小さいサムネだけ。
もし、あの時『TYQOON』が、10位以内だったら。ボカコレ公式生放送でMVがO.A.されていたら。少なからず、今よりは知名度が高かったかもしれない、そんなifを考えてしまいます。

でもこうして、『TYQOON』はMEIKOの代表曲として、マジカルミライのCDに選ばれるまでになった。
マジカルミライのCD採用をきっかけにこの楽曲を知る人も増えて、間違いなく知名度も上がりました。
これからも、もっとこの楽曲を愛してくれる人が増えますように。
一リスナーではありますが、そう願わせてください。

もうひとつ。
自分がこの楽曲に出逢ったのは2023年1月。勉強中に聴けるボカロメドレーを探していた時に見つけた、2022年のボカロメドレー。当時はプロセカの影響でボカロシーンが再び盛り上がり始めているということを薄々知っていたので、自分も少し離れていたボカロを改めて聴き直そうと、そのメドレーを再生しました。

そこに、『TYQOON』はいました。
メドレーなので、もちろん長い尺ではありません。せいぜいサビの12秒くらいでしょうか。
それでも、その12秒に、自分の人生は間違いなく変えられました。
楽曲の名前は『TYQOON』って言うのか。これ、MEIKOの声なの?
作ってる方の名前は、『Sohbana』さん。ほうほう、そうばなと読むのか。
他の曲も聴いてみるか……えっ、めっちゃいい。全部刺さる。最初に好きになった『TYQOON』とは違う系譜の楽曲もあるのに、全部めちゃめちゃ好きだ。
この体験を、自分は知っている。7歳の時、初めて3DS版のニコニコ動画でボカロを聴いた時の感動と、ボカロを聴くきっかけになった、今でも全曲が大好きな、wowakaさんとの出逢いに限りなく近い。
でも違う。『TYQOON』との出逢いは、初めてwowakaさんの曲を聴いた時と同等か、それ以上に自分の人生を変える、そんな出逢いでした。

Sohbanaさんと出逢ってから、沢山初めての経験をしました。
初めて『THE VOC@LOID M@STER(ボーマス)』に行きました。SohbanaさんのCDを直接本人から買いました。
初めてサイン会に行きました。Sohbanaさんの前で声も手も震えながら差し入れとお手紙を渡した時のことを、今でも覚えています。
初めてボカクラに行きました。好きな曲がクラブ全体を包む感覚に、何より爆音で流れる『TYQOON』に興奮しました。
そして9月には、初めてBandanaの出演するライブを見に行きます。
今まで生きてきて、本来味わうことのなかった体験を、感動を、沢山Sohbanaさんにもらいました。どれも、『TYQOON』と出逢わなければ、一生味わうことはなかったものです。
その体験をするきっかけをくれたことに、深く感謝しています。

もうひとつ、感謝したいことがあります。
自分は元来、打たれ強い人間ではありません。すぐ落ち込むし、怒られたら泣くし、何かに失敗したらすぐ死んでやると思うくらいの弱さを持った人間です。
『TYQOON』と出逢ったきっかけは勉強中に聴けるボカロメドレーを探していた時、と言いましたが、その頃の自分は受験に向けて予備校に通い始め、己の出来の悪さと他者からの期待に押し潰されそうになっている時でもありました。
いくら頑張っても上手く行かない、こんな矮小で出来損ないみたいな人間が、このまま生きてていいのか。いっそ、ここで死んでしまった方が楽だし、誰にも迷惑をかけないのではないだろうか。死ぬ決断をするには遅い気もするけど、だらだら目標もなく生き続けるよりは遥かにましだろう。
そう思っていました。
実際この頃に初めて深夜にひとりで家出をしました。親に怒られて、裸足で家の窓から抜け出して、近くの公園まで白い線を歩いて辿っていって、公園の遊具の上に登って街を見ました。足の裏はアスファルトを素足で踏みつけたせいで真っ赤で、鋭利な何かが刺さったのか血も出ていました。
もう死んでやろうか。ここで寝たら、きっと自然に体温が奪われて眠るように死ねるだろう。その前に人が通りがかって助けられてしまうのかな。親はもう警察でも呼んだんだろうか。遠くに聞こえるパトカーのサイレンを聞きながらぼんやりと思っていました。
深夜の街は基本静かです。パトカーのサイレンが過ぎてしまえば、東京の中でも都会らしくない自分の地元は静寂に包まれます。それが耐えられなくて、今思えば迷惑すぎますが、住宅街の中の公園で、『TYQOON』を流しました。スピーカーを耳に当てて。

1ループ聴いた時、「ああ、やっぱりいい曲だな」と思いました。
2ループ聴いた時、「この曲が聞けなくなるの、もったいないな」と思いました。
3ループ聴いた時、涙が溢れてきました。己の不甲斐なさに対してなのか、親への申し訳なさからなのか、今となってはわかりません。

ただ、「死にたくない」と思いました。
「生きたい」まではいかないけど、死ぬのは嫌だ。
まだ足の裏の痛みは引いていなかったけど、痛みを引きずりながら家に帰って、家の前で待っていてくれた両親に謝って、その日はゆっくり寝ました。
結局、第一志望には合格できませんでした。第二志望にどうにか受かって、ひとり暮らしを始めて、偶然にもSohbanaさんの生まれた場所、大学生になって通った場所に行けるのは奇跡みたいなものだと思いました。

今でも、「死にたい」と思うことはあります。
ひとり暮らしが寂しい。大学生活が上手く行かない。バイト先で怒られた。
そんな小さな苦しさの積み重ねが自分の首を絞めて、どうしようもなくなることがあります。
でもその度、小さな目標を立ててそれを達成するまでは死んでやらない、と思うようになりました。
目標と言っても自分から頑張るものは少ないです。
次の『ボーマス』まで死ねない。Sohbanaさんの新曲を聴くまで死ねない。Sohbanaさんの次のCDを買うまで死ねない。Sohbanaさんの次のDJを浴びるまで死ねない。
今は、「『TYQOON』をマジミラで浴びるまで死ねない」が目標です。
多分、今後もこういうちっちゃい理由付けで暫くは生きていくんだと思います。今のところは考えられない、「『TYQOON』に飽きる日まで」。

『TYQOON』という曲と、Sohbanaさんへ。
あの時、生きようって思わせてくれて、ありがとう。
自分の、世界で一番大好きな曲








分かる









陳謝パート

祭パート風

5/7に間に合わせるつもりだったのに風邪引いて遅刻したの本当にすみませんでした。体調管理以前にギリギリまで書いてなかったのが本当に悪い。
ただ体調不良とか言ってられない遅刻ですよね~3か月遅れって。参加者の皆さんの最高文章もぐもぐしながらずっと頭を抱えておりました。
その結果マジミラの辺り拾えたんでラッキーとも思ってるんですけど。
この『AT1選note投稿祭』については遅刻をめっちゃ許容する精神なので、何か月でも遅刻してください。ただし半年後にはさすがに風化してると思うので大体その辺りまでを区切りとさせてください。その頃には新しい企画も立ってるだろうし。

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