君のために死ねる
ここは毎月、飛び降り自殺が行われるといわれている廃ビルの屋上。
今回いたのは
柔道部の全国大会に手が届きかけた少女。
不良に虐められ、折れた足ではもう試合にまともに出ることはできなくなってしまったのだ。
親からも虐待を受けた、この少女は柔道が全てだったのだ。これしかなかった。いや、未だこれしかないのだ。
「やめるんだ!」
ふらふらと灰ビルに入っていく少女を心配して、屋上まで上がってきた通りすがりのサラリーマンが声をかける。
「どんなに辛いことがあったのか僕はしらない!だけど、僕に君を救わせて欲しい。」
「…なんで?今更、誰も私を愛してくれなかったって言うのに、あなたもどうせ私を傷つけるんでしょう!!??」
涙ながらに手を伸ばし、言葉を綴る。
「僕が君を愛すよ。誰も君を傷つけないようにする」
「そ、そんな無責任なこと…」
「君を救わせて、君のためならなんだってするよ」
「…」
何かに縋るように少女は手を伸ばす。
男は少女に少しずつ近づいてくる。
「あっ」
少女は足を滑らし、体をのけぞらせる。
男は慌てて少女に駆け寄る。
次の瞬間、少女は自力で踏みとどまったのだ。
駆け寄った男の腕を掴み、両足を屋上に全体重をのせる。
その瞬間少女は男の手を引き、その身体を宙に投げ飛ばす。
「え、うわああああああ!!!!!!」
男は何が起こったかわからないまま落ちていく。
少女はそれを見下ろしていた。
悦楽の表情で。
「ありがと」
今日もまたこのビルで死人がでた。
少女はそんなニュースをまた家で見るのであった。