MMDゼロかわ ~バランスとキャラ表現~
今回はカワイイポーズ(またはモーション)を創るにあたり、体幹バランスの取り方や使うキャラクターならではのポージングなどについて記します。連載記事なので、前提として下記の記事を既読している方向けの内容となっています。
体幹バランスとは?
MMDに限らず、3DCGで人型モデルに自然なポージングをさせるためには、体幹バランスの理解が重要です。体幹とは、体の胴体部分(胸、腹部、背部)を構成する筋肉群のことで、体の姿勢を保持したり、動きの軸となったりする重要な役割があります。
体幹バランスが崩れると、モデルは以下のような見え方になります。
不自然な姿勢になる:体が傾いたり、腰が落ちたり、背中が曲がったりするなど、見た目が不自然な姿勢に見える。
動きがぎこちなくなる: 体の軸が安定していないため、動きがぎこちなく、不自然な印象を与えます。
倒れやすくなる:重心が安定していないため、ちょっとした動きで倒れやすくなるように見える。
これまでにも述べている通り、特にZ軸(奥行き)方向に対してバランスを欠いてしまう事があります。これはボーン操作を「Local」モードで動かしている時に、無意識的にZ軸にも動いてしまっている場合があるためです。ですので、モデルの横からの姿勢などを何度も注意して見る事が重要となります。
一方、静止画・動画に関わらず、演出として敢えてバランスを崩す事で「動き」を表現する事もあるので、必ずしもバランスを常に取り続ける必要はありません。
さらに男性と女声、成人と子どもでは姿勢の安定などに影響があります。骨格の違いなどでバランスを取るかどうかというのも、後述するキャラクター(性格など)に関わります。
バランスを取る・取らないに関わらず、基本的なバランスの取り方を知る事で、敢えて崩すという事もできるようになるので、覚えておくと良いでしょう。
バランス(重心を取る)
重心を取るというのは言葉で説明し辛いものですが、「微動だにせず維持できる姿勢」とでも言いましょうか。二足直立の状態でフラフラしないものだと考えて貰って構いません。
慣れない間は、Y軸の座標軸を参照にしつつバランスを取るような感じでも良いかもしれません。
他にもMMEを使った『重心表示エフェクト』などもあります。
Y軸表示参照にしろMMEエフェクトにしろ、あくまでも参考にするだけであり、完全に重心が取れるような表示になる訳ではありません。最終的には、Z方向などもこまめに見ながら自身でバランスを取る事をお奨めします。
ポーズとモーションの違い
モーションの場合はポーズの時とやや異なり、敢えて重心・バランスを崩す事で『動き』を表現する事があります。なので動いている最中まで重心・バランスを常に取り続けてしまうと、いわゆるCGっぽい(機械っぽい)動きとなってしまい、不自然に見える事があります。
歩きや走りの時などは、敢えて重心を前倒しにしておき、前に動いている感じや足の運びを見せる事で表現できます。
さらにポージングの場合でも、漫画やアニメのようにパースを付けてポージングさせる場合にはバランスを敢えて崩す事があります。
いずれにおいても、基本的なバランス取りを行えるようになってからでhないと、どう崩せば成立するのかが分からなくなるので、基本的なバランシングが出来るようになっておく事を強くお奨めします。
ポージングにおいての演出(キャラ造り)
ある程度、ポージングやモーション造りに慣れてきたら、「そのキャラクターならでは」のポーズやモーションにチャレンジしてみてください。キャラクターの解釈は人それぞれなので、MMDにおいて一番個性が出る部分とも言えます。
少なくとも使用するモデル(キャラクター)の男女差が出ますので、足の位置からセンターの位置、体幹(上半身・下半身等)の曲げ方にも大きく違いが出てきますので、性格だけでなく体格にも気を配ってみましょう。
特に、皆さん自身から見て異性のポージングは比較的楽に行えるかと思います。これは、普段から異性を見る癖があるからです。また、女性の場合は特に同性の動きやポーズも見ているので、男性側がやや不利となります。
いずれにしろ、うまくキャラクター造りをする為に必要なのは、具体的な作業よりも「観察・調査」です。見ていないもの、イメージから具現化できないものはMMDでも再現できません。
ここでは比較的わかりやすい例として、男女での違いなどを体の部位ごとに説明していきます。
足はIKのみだけでなく、ボーンを活用
当たり前ではあるのですが、モデラーさんのセットアップ方針と時流の流行り等で各モデルの足IKにはそれぞれクセというものがあったりします。また、男女比で言うのであれば、男性モデルは顕著に足が長い状態ですので、足IKの扱いに留意する必要があります。
(女性モデルでも長身・多頭身系のモデルは足が長い傾向があります)
基本的には足IKで足の位置・変形などを行う事が多いですが(FKでやる場合は除く)、IKのみで足のスタイルを造るのは難しいです。
人によって異なりますが、筆者の場合は足IKで形付けたあとは足ボーンで内股・ガニ股などのスタイリングをします。この時、足首も動いてしまうので、再び足IKで接地感などを調整します。
足首ボーンでも調整できなくはないですが、センターボーンとの兼ね合いで足首方向のコントロールが難しくなるので、足首ボーンを触るのはあまりお奨めできません。
上半身の曲げ方
上半身も性差によってポージングの考え方が変わります。「背骨 男女差」などで検索を掛けると、人体の男女差による骨格の違いなどが見つけられます。
一方、MMDでは人体の骨構造を基準としたボーン構造になっているかというと、一概には言えません。モデラーによって考え方が違うので、初期状態のボーン配置を予め見ておく事をお奨めします。
(特に女性型モデルの場合、最初からくびれが強調できるようなボーンのセットアップされている事が多いです)
■女性型モデルの場合
前述の通り、特に上半身系ボーンについては背骨のくびれ具合がモデルデザイナー次第で大きく異なります。また、多くは最初から「く」の時のようにくびれています。
ポージングをする時には初期状態を把握しつつ、よりくびれを強調したり、逆に相殺する事を行います。
筆者の場合は、まず横視点から見て背中のくびれ具合を調整してから、正面の曲がり具合を変更します。
見かけ上大きな差異は見えないかもしれませんが、全体のポージングを行ったあとに差異が出てきます。またカメラアングルによっても違いが出るので、「気持ち大げさ目」にしておくと良いでしょう。
横からの調整を大まかに決めたあと、正面からも調整します。
多くのモデルでは、正面から見た場合の上半身系ボーンは垂直にまっすぐ並んでる事が多いです。女性型モデルのポージングをする場合、「S字」になるよう、敢えてズラす事で女性特有の柔らかさを出す事ができます。
この時気をつけなければならないのは、首と頭、そして肩です。
頭は不安定に見えるくらいに傾いてしまうと不自然になるので、首・頭ボーンで顔が水平になるように調整します。一度その形を作ってから、かしげたり、気持ち傾けたりした方が調整しやすいです。最初から傾けたりすると、上半身とのバランスが取り辛くなります。
上半身をわざとくねらせた場合、気をつける点は肩です。当然ながら肩と腕はその分アンバランスになるので、腕だけなく肩からバランスを取るようにしましょう。
■男性型モデルの場合
考え方は女性型モデルと同じではありますが、曲げ方が異なります。人体の骨構造がそうであるように、基本的には男性は比較的直線的になります。曲げるとしても、女性型は「S型」を意識して曲げるのに対し、男性型は「くの字型」の曲げ方となります。
この説明用に使用させて頂いてる「おナス式火車切 ver0.1」の場合、首・頭ボーンが初期状態で前倒しになっているので、上半身側で前に倒す必要が省けています。
ほぼ初期状態に近い形ではあるものの、前述の通り少し動かすだけでも雰囲気が変わるので、ポージング調整してみましょう。
正面から見た場合は、一応微調整はしているもののほぼ差異はありません。まっすぐ立たせたい場合は、まっすぐのまま大きく弄る必要がありません。
ただ、よりスタイリッシュに魅せたい場合は真正面の直立不動にならないよう、気持ち前駆側に曲げ、体の向きに対してカウンターするように首を調整してみます。
また頭ボーンは、やんちゃさを出したい場合には顎を上げておき、落ち着きを表現する時には顎のラインがしっかり出るように顎を引きつつ、少し斜めからカメラを見る(対象物を見る)感じに仕上げると良いでしょう。
腕の表現
腕は(顔の表情以外で)一番キャラクター性・性差などが出やすい部分です。腕IKの有無に関わらずキャラクター性などを考えながらポージングをする事が大事な部分です。
なかなか具体的な説明が難しいので、いくつか例を元に説明していきます。
例えば上図のようなポーズをベースとして、キャラクターの性格・性別に合わせてアレンジしてみます。
■女性モデル(原神:主人公(蛍))の場合
このモデルは背も小さく体の部位も小さめなので、やや大げさにボーンを動かさないと変化が分かり辛くなります。前述の上半身の動かし方を意識しつつ、腕と手はやや細かく操作する事になります。
例の図では無難な感じになっていますが、これを肩から腕のライン、そして指先に至るまで丁寧に組み込んでみましょう。
まずは肩と腕です。女性は肩を上げる事は少ない上に、脇を締める傾向があります。なので、首の曲がり方とバランスを取りつつ、かつ下げ過ぎない範囲で肩を下げ、腕は脇を締めつつも捻りボーンなどで外側に向けます。
若干ではありますが、女性ならではの柔らかさが表現できてきます。ですがこれだけでは分かり辛い状態です。残る肘と手首、そして指のポージングの仕方でかなり変わるのが分かるでしょう。
肘はシンプルで、軸でいうY軸(肘を折り曲げる)方向のみ動かすものなので、簡単ではありますが曲げすぎ等に注意しましょう。
手首の方は女性であるならば、基本的に曲がっているものだと考えてください。標準状態のポーズは緊張している時にしか使いません。ですので、外側・内側どちらでも良いですが、パッと見て分かるくらいに曲げてしまいます。
手首の捻り方向は手首ボーンでは操作せず、肘捻りボーンなどで曲げましょう(もしくは肘ボーンで曲げる)。手首ボーンで曲げてしまうと、手首が痩せやすい(細くなる)ですし、モーションにする場合に補間曲線管理が面倒になります。
そして指ですが、例の状態から組んでいるものの腕の形を決めてから微修正する事でより見栄えが良くなります。
具体的な操作としては、指の隙間を開けたり埋めたりでキャラクターの感情状態(緩い気分なのか、緊張しているかなど)が表現できます。特に親指は操作が難しい部位ではありますが、緊張している時には人差し指に寄せ、ゆるい感じの場合は広げたり、お洒落に見せたい場合は親指を寝かす(手の甲側に倒す)とそれっぽく見えます。
このモデルでもそうですが、もしPmxeditorを使えるのであれば、「親指0」(もしくは親指1)は回転のみボーンではなく移動ボーンにしておくと、ある程度ではありますが、表現の融通が聞くようになります。MMD系では手のひらを動かすボーンが無いので、親指(あるいは小指も)の根本を移動ボーンにするだけで、手の開き方にバリエーションを持たせやすくなります。
■男性モデル(刀剣乱舞:火車切)の場合
基本的な操作方法などは女性型モデルと似てはいますが、考え方(アプローチ)は異なります。
男性型の場合は、肩や脇が上がり(脇を広げ)気味になり、手首もやや直線上になる事が多いです。
緊張状態ではなく弛緩状態を造りたい場合は、敢えて肩を下げたり手首を内側にしたりすれば、それっぽく見えたりします。
男性モデルの場合注意した方が良い点は、肩のウェイト(の塗り方)状態です。基本的に肩幅が広いモデルが多いので、ボーンの位置とウェイトの関係で上げすぎると不自然な変形になる事もあります。上図でもそうですが、実際には図よりもやや下げた方が自然な形になります。
一方、モーションの場合はこれくらいまで一旦上げておいてリアクション(反動)で元の位置に戻す等で使えば、効果的・分かりやすくなったりします。
まとめ
キャラ造りというのは汎用的な事例で説明するのは難しいのですが、普段からの(現実やTV・アニメ等の)人の動きを観察していると、それとなくイメージはしやすくなります。
一番手っ取り早いのは、雑誌の表紙や漫画のコマなどを参考にしつつ、ポージングトレースをしてみるのが良いでしょう。
とにかく、観察と実際にやってみる事を繰り返す事です。
あとはポイントとして、相談できる相手が居るとなお良いです。自分自身で納得できるかどうかの瀬戸際の時など、第三者の意見を取り入れる事でブラッシュアップできたりしますし、熟れた人であればアプローチ方法も教えて頂ける可能性があります。
チャットツール等を使うのが楽ではありますが、作業途中(work in progress, W.I.P.)としてSNSなどで意見募集してみるのも良いかもしれません。
古風な言い方にはなりますが、結局は数をどれだけ熟せるかによって、表現力も変わってくるので、イラストを書くのと何ら変わらない感じになります。
MMDは3DCGの中でも即時性が高いツールなので、5分~10分程の暇ができた時にポージング練習という形で好きなモデルを弄ってみるのが良いでしょう。
最後に重要なのが、ひとまず完成させたポーズ・モーションは必ずファイル(vpd or vmd)にして保存しておきましょう。プロジェクトファイルでも良いのですが、取り回しが楽になるのがポーズファイル・モーションファイルです。この手間を惜しまずにストックしていく事で、必ず将来的に省力化が可能になります。
ファイル名も自分なりに命名規則を作って整理しておく事を強くお奨めします。
それでは良きMMDライフを。