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とても不思議な「MMD界隈」

 MikuMikuDance(3DCGアニメーション制作アプリ。以下MMDと略)が発表されてからずいぶん時間が経ちました。古いアプリやより高機能なソフトウェアが生まれ続けている中でも、いまだもって愛用されていたりこれから使い始める方もまだいらっしゃったりと、当初の想定よりも息の長いアプリになってきました。
 また、ニコニコ動画を始めとしたソーシャル的なサービスを土台とした活動も、ピーク時に比べれば活発とは言えませんがまだまだ続いています。

 そんな中、特にMMD用独自のものである「モデルデータ(.pmd / .pmx)」「モーションデータ(.vmd / .vpd)」「エフェクトスクリプト(.fx)」の取り扱いについては、年々取り扱いに注意が必要になってきているものがあります

 これらのデータ(ファイル)は暗号化されておらず、構造さえ分かっていればMMDに限らず他アプリ(ソフト)にも流用可能なもので、既に変換ツールや自動編集ツールなども数多くあります。
 その一方、ただでさえ法的にも倫理的にもグレーゾーンで、なおかつ権利関係の複雑さは増加し、最新技術や年々変わっていく解釈に追いついていないのが現状です。

 MMDは学べば小学生でも使えるくらいシンプルに3DCGアニメーションを学んだり遊んだりできるアプリではありますが、それに関わる作品群(配布ファイル含む)の取り扱いには非常に慎重にならざる得ないというある意味相反的な様相をはらんでいます。

 これらについて一個人の意見ではありますが、偶然にも長年愛用しているMMDというアプリ、またそれに関わるコミュニティ、いわゆる「界隈」について記してみます。

※筆者が持つ法的根拠関連情報については個人の知る範囲のものであり、有資格者ではありませんので、正確な情報は専門弁護士などの有資格者・団体にお問い合わせください。またこの記事を根拠にした行為について派生した責任は、当方で負いかねすのでご注意下さい。


「MMD界隈」という言葉の難しさについて

 今に始まった事ではありませんが、MMD関連データが他アプリ/ツールでも使えるようなり始めてから、MMDユーザー全てを指す言葉として「MMD界隈」と呼ばれる事が増えてきています。
 ある意味シンプルで一言にまとめられる便利な言葉ではありますが、そこに集まっている人が、何かしらの総意や明示的なルールの元で生きているわけではありません。

あくまでも
たまたま同じツールを使っている赤の他人の集まり

なのです。

 MMDに限らず、ボイスチャットや気の知れた仲間同士での会話で「東方界隈(ゲームジャンル)」「アイマス界隈」などといった表現を使う事はありますが、少なくとも私個人は滅多に使う事はせず、使う場合も慎重に行うよう心がけています。
 これはシンプルに偏見や差別意識を持たないようにするためです。
 ですがこれらは私個人の方針ですので、他者に強要する事もありませんし、使う事自体には問題ないと考えております。

 とはいえ、15年以上もの歴史を振り返り、かつそれをリアルタイムで体験している身としては、別ツールユーザーの方が一例として「MMD界隈は非協力的だ」「MMD界隈はなぜ自分の権利だけを声高に主張するのか?」などに類似した発言をなさる方がいらっしゃった事があります。
 それについて短文SNSなどでのコミュニケートにおいて、MMDユーザー側の人が返答や反論をした場合、それがイコール「MMD界隈の総意」のように捉えられてしまっているのではないか?という場面も多々見てきました。

 こういう事例もあり「MMD界隈」という言葉が独り歩きし、不本意的解釈に繋がる温床になっているのが現状です。
(もちろん、これをコントロール術は人間にはありません)
 またこれから先も、「MMD界隈」という言葉は色々な意味を持つことが安易に想像できます。

 読者の方で、今現在、もしくはこれから先にMMDもしくは関連データを取り扱う事があるのであれば、この言葉に対するご自身のスタンスを考えてみては如何でしょうか?

MMDユーザーはおしなべてグレーゾーンに生きる人々である

 MMDが手軽なアプリである一方、権利・倫理・法的にはMMDが生まれた当初から権利者・団体とMMDユーザーの間は綱渡り状態が続いています。
 おそらく一番数が多い「ある楽曲を使った”踊ってみた”の動きをトレースしたMMDダンストレースモーション配布と作品公開」(ややこしい。いわゆるトレース動画)を例にすると

・楽曲原盤権利保持者(作曲・作詞・歌唱者・編曲者など)
・楽曲頒布権/送信権権利保持者(出版社・原版者契約事務所等)
・舞踏発案権利保持者(振付師)
・舞踏実演者(ダンサー)
・アニメ主題歌などの場合の一部権利保持団体(◯◯製作委員会等)
・場合によっては動画制作者(トレース元となった動画の撮影・編集した人等)
・キャラクターモデルの図案権利者(原作者・出版社・デザイナー等)
  ・
  ・
  ・
etc…

 といった感じで、数々の権利が複雑に組み合わさっているものです。
 そしてそれを元に生み出されたMMDモーションデータなども、過去に判例がある訳ではありませんが、権利を主張できる可能性がゼロではないかもしれません。(ただ筆者が知る限り、独自性・創作性の解釈で裁判では負ける可能性が大きいです)
 二次創作・三次創作というよりは、積層多元制作物とでもいいましょうか。なにせ複雑怪奇なものになっています。

 法的根拠はいったんおいといたとしても、シンプルに言えば「他者の創作物を”お借り”している」という意識(覚悟)がない場合、MMDで手軽に遊ぶというのは避けたほうが良いかもしれません

 見逃されている作品で現存しているものが多くありますが、それらは権利者が「存在をあえて見てない事にしている」「現実として存在を認識していない」のどちらかで成り立っています
 無論、権利者からの申告で動画を削除されたものも沢山あります。

 幸いな事に刑事事件・民事訴訟などでニュースに乗るような事例は今のところありませんが、悪質である場合にはそうなる事が常にあることになります。

 ほんと、よくもまぁ今まで保ってたものだな、と関心してしまいます。

「AI学習」「バーチャルソーシャルコミュニティサービス」「スマホアプリ」に対してナーバスにならざる得ない理由

 様々な内包されたリスクや責任などをシビアに扱わざる得ないMMDユーザーにとっては、作品制作当時に予想できなかった新技術や存在しなかったサービスに、頒布しているデータが転用される事を想定できないケースが増えてきています。
 一例としては、「VRChatやcluster.などのバーチャルワールド」「VTuber」「AI学習用データとしての活用」が挙げられます。
 少なくともMMDが出た2008年にはそれらのサービスは存在せず、頒布時の利用規約や利用のお約束に記載する事は不可能でした。
 また現状でも、既に出ているサービスなどが「一般化」している訳ではありませんので、ただの一般人がそれらサービスが存在している事を知らない場合があります(知らなければならない一般常識でもありません)。
 知らないものは利用規約やお願いにも記載できません。
 頒布者本人の想定外という事例が、日進月歩な技術・新サービスに対応しきれないのは当然でしょう。
 また一方、MMDユーザー側がそれらのサービスの利用規約に対応したり精読しなければならない義務もありません。

 リスクが負いきれないと判断したMMDユーザーは既に活動や頒布を取り下げたり、他アプリ・ツールへ乗り換えているケースも増加していると感じております。

 それでもなお、リスクを承知しつつ活動を続ける人にとっては、リスク回避を行うために、別個のコミュニティで情報共有・模索している最中です。
(ニコニコミュニティが消滅した今、MMDユーザーが比較的多く集まってるポータルサービスはありません)

 そんな中、MMDの範囲を超えた他サービスでの利用について問題や責任が知らない間に課される可能性がある事を他者が行う事で、「知らなかったじゃ済まない責任問題」に発展するとなると、ナーバスにならざる得ません。
 よく「VRChat」や「VTuber」絡みの話を聞く事が増えましたが、サービス提供側である「VRChat」は有償サブスクリプションサービスがあったり、VTuberは作品収益化ができる状態であるので、これまで単なるファンがこじんまりと遊んでいた同人活動に対し、権利者側が「商用利用ではないか?当権利において損失がでてないか?」と動き始めざる得なくなります
 つまりはユーザー側だけでなく権利者側にも何らかの負荷が掛かってしまうわけです。
 こうなってしまうと、
「公園であなたのわんちゃんがう◯ちしちゃったね、仕方ないね」
で済んでいたのが
「あなたの所有物が当設備を汚損したので損害賠償請求をします」
というとんでもない話になってしまうわけです。

 MMDはコワイね。

MMD村に引きこもりたいユーザーたち

 コミュニティとしての「MMD界隈」は同人活動そのものであり、印刷物などと同じように生成データ、またはノウハウなどを頒布・共有して発展してきました。
 私はモデルが作れるので可愛く踊らせてみてね、に対して、なら命を吹き込んでやるぜとモーションを作る訳です。さらにはそのモーションを使って動作作品に仕上げ、大元の素敵な楽曲やダンサーさんを応援してあげてね──という流れが自然派生的に生まれ、共生的コミュニティになっています。
 モチーフとなったアニメやゲームが面白いから、一緒に楽しめる仲間を増やす手段としてMMD関連データを作る、というのもあります。

 ありていに言えば
「リスペクト」や「物々交換」、リスクやノウハウの共生
 が行われている小さな村の集まりですね。

 そういった相互的・共生感が寸断、または一方方向的な事象が発生すると、混乱してしまいます。
 ですので、排他的というのではなく、対応が難しい事象が増えてきてしまうので、できれば避けたいというのが本音でしょうか。

 そういったものもあり、利用規約やダウンロードパスワードの設定やらで「できるだけ村の外に出さないような手段」を選ばざる得ないとでもいいましょうか。

 ではそもそも頒布しなければ良いのでは?

 至極ご尤もなご意見だと思います。
 ぜひとも是非とも全MMDユーザーに推奨してみては如何でしょうか?

 というやりとりが、両手で数え切れないほどSNSでありましてねぇ……。
 人類は歴史を繰り返す生き物なんだなと実感してしまいます。

 こういった諸問題に対して、現時点では明確な指針というものはなく、日本だけでなく欧米諸国を含めた世界中で、現在枠組みなどを模索している最中です。
 おそらく筆者が生きてる間に明示的でクリーンな枠組みができる事はないでしょう。

最後に

 おら、この村でひっそり暮らしていたいだよ。

 もしお手すきがあれば、ご意見などを頂戴賜りますよう、よろしくお願い致します。

※あくまでもこの記事はMMDユーザーのいち個人の「感じたこと」です。「総意」と誤解なきようよろしくお願い致します。

追記とご案内

 ニコニコ動画には「ニコニ立体」という、主に3DCG用モデルデータを配布できるサービスがあります。このサービスではMMD用モデルファイルもダウンロードできるようになっています。
 このサービスも動画と同様に利用規約と法的解釈を踏まえると、版権もののをアップロードし配布・頒布する事は避けるべきでしょう。

 これも株式会社ドワンゴさんにとっては、MMDユーザーサイドをかなり考慮されて展開してきたサービスではありますが、かなり爆弾を抱え込んでるものと言えなくもありません。

 またニコニ立体だけでなく、現状ではかなりリスキーであるにもかかわらず、多くのMMDユーザーに愛用されているbowlroll.netさんなんて、個人運営にもかかわらずかなり腹を据えて運用維持をなさっておいでです。

 ニコニコ動画、そしてbowlrollさんを何度もご利用の方は、生活に支障がない範囲で、サービスの利用やドネーションをご検討ください。

 これまで筆者の楽しいMMDライフを支えてくださった各種サービスや知り合えた仲間に、感謝申し上げます。

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かんな@バーチャルJC
どこにでも居るバーチャルJC MMDユーザーの一人。 MMDアニメーター、動画制作・編集、VTuber関連制作などを行っているただのJC。