私を美術好きに変えた、スペインの名画との出会い
私を美術好きに変えた1枚の絵画があります。
今でこそ、国内外の美術館に足を運んだり、大学の卒業論文にミュシャの『スラヴ叙事詩』を題材に選ぶほどの美術好きですが、高校時代まで美術とは無縁の人生を送っていました。
今回は、美術館に一度も行ったことがなかった高校生の私を美術好きに変えた、ある絵画との出会いについて書きたいと思います。
美術に関心のない高校生が、スペイン『プラド美術館』へ行く
高校3年生の時、所属していた和太鼓部の遠征でスペインへ行きました。演奏活動が目的だったため訪れた観光地は少なかったのですが、その1か所が『プラド美術館』でした。
スペイン・マドリードにある『プラド美術館』は、歴代スペイン王家のコレクションを中心に、幅広いヨーロッパの絵画を展示する世界有数の美術館。美術好きなら、人生で一度は訪れたい場所です。
しかし当時の私は、「美術とかよく分からないし、スペインの街並みや景色を見ている方が楽しいのに。」と内心つまらなく思っていました。関心がないのも当然、美術館に一度も行ったこともなければ、絵を描くことが不得手だった私は、美術に対して苦手意識すら持っていたのです。
こうして私の美術館デビューは、世界でも指折りの素晴らしい美術館に「興味はないけど仕方なく行く」というなんとも残念なものでした。
私を美術好きに変えた絵画との出会い
プラド美術館の入り口付近にはミュージアムショップやカフェがあり、開放的な空間が広がっています。美術館は静かで堅苦しいというイメージがあった私は、カフェでくつろいだり、楽しそうにお土産を選んでいる人々を見て、その明るい雰囲気に驚きました。
プラド美術館は1日あっても回れないほどの展示数を誇る美術館ですが、見学に与えられたのはたった1時間。ガイドさんの案内で、必見作品だけ見て回りました。
そして私の人生を変える作品、ベラスケスの代表作『ラス・メニーナス』に出会ったのです。
作品を見た時、雷で撃たれたような衝撃が走りました。
絵であることが信じられないほど、そこには確かに奥行きがあり、リアルな空間が存在し、あまりにも三次元だったのです。
まるで絵と同じ空間にいるかのように感じる理由はその絵のトリックにある、とガイドさんは教えてくれました。
絵の中央に描かれている鏡の中の人物の存在が、私たちに手前部分を想像させていること。そして絵の上半分にあたる広いスペースのおかげで、私たちは無意識のうちに絵の中の世界に引き込まれているのだというのです。
なんて面白いんだ、と思いました。説明を聞いてから改めてよく見ると、また印象が変わるのです。知ることでこんなにも見え方が変わるのかと、その奥深さに心が震える思いでした。
名画の余韻が与えた、進路への影響
高校3年生だった私は進路を考えている真っ最中でした。海外に興味があったので国際系の学部がある大学を検討していましたが、スペインでの経験から芸術や文化、歴史について知りたい気持ちが芽生え、欧米文化を学べる大学に進みました。
入学後は、国内外の美術館に足を運び、西洋美術に限らず様々なジャンルの作品を楽しむようになりました。
美術館に行くことは、生きるために必要ではないけれど、人生を豊かにしてくれると思っています。スペインで『ラス・メニーナス』に出会っていなければ、私は今も美術とは無縁の生活を送っていたかもしれません。この出会いに恵まれたことを心から良かったと思います。
私にとっての美術館
私にとって美術館は、刺激を与えてくれる場所であり、心から落ち着ける空間です。
スペインでの運命的な出会いを含め、美術館ではいつも新鮮な驚きや発見があり、自分の世界を広げてくれます。同時に、作品と一対一で向かい合える空間は、普段人目を気にしやすい私にとって心からリラックスすることのできる場所でもあるのです。
そんな両極端な魅力をもつ美術館は私にとって大切な場所であり、美術館に行くきっかけとなったスペインでの出会いは、私の人生を変えた原体験の1つです。