マギー・ジョンソンさん SM H.E.L.P秋サミット講演(その2)

場面緘黙児の不安はどこからくるの?

言語聴覚士であるマギーさんが抱いていたこの謎が解けたのは、1995年に自分の娘(当時10歳)がアリ恐怖症になり、児童心理士を受診した時でした。心理士は恐怖症の発症メカニズムを説明したあと、マギーさんが無意識のうちに娘の恐怖症を強化していると説明したとか。マギーさんはショックのあまりその場で泣いてしまったそうですが、同時に「ああ、場面緘黙症も同じだ!」とピンときたのです。

不安症は心理的な問題――恐怖やパニックは現実のものだけれど、感じている脅威は頭の中でつくられたもの。現実の不安要因に対して、感じる恐怖は不合理に大きく、全くつり合っていません。脳が大きな恐怖を察知すると、身体が条件反射的に反応して、冷や汗が出たり、足がすくんだり、体全体が硬直したり、パニックに陥ったり...。場面緘黙症の場合は、喉が締まったようになり、声が出なくなるのです。

場面緘黙症をもつ子どもにとって、話すだろうと人から期待されることは大きな脅威です。多くの緘黙児には、不安を感じずに話せる小さなサークル(安心領域/ コンフォートゾーン)がありますが、ほとんどの人はこの安全領域の外なのです。相手を知っている期間が長い・短いは関係ありません。

子どもはすごく話したいと思っているのに、恐怖のために声がでないのだ――そう察したマギーさんは場面緘黙症の治療に恐怖症への治療法を応用しました。スモールステップが有効なのは明らかでしたが、その上に必要なものが判明した訳です。

マギーさんが治療を始める時はまず、どんなに怖い思いをしているかわかっていると共感を示します。そして、自分がすることは子どもに発話させることではなく、少しずつ恐怖心を減らすのを助けることだと説明。子ども自身が「できる」と思えるよう、小さなステップを積み重ねていきます。

それから支援する上でもう一つ大切なことは、子どもと保護者の前で場面緘黙症についてオープンに話すこと。不安について話すことで、子ども自身も自分の状態を理解できるからです。

また、子どもの場面緘黙を強化させないように、保護者も治療チームに加えるようにしました。子どもが場面緘黙症になるのは、育て方のせいではないことを説明します(なぜ自分の子どもが場面緘黙になったのか見当がつかず、保護者は原因を見つけようとあれこれ詮索しがち。でも、保護者がいない時に場面緘黙になるきっかけに遭遇するケースも少なくありません)。

このような修正を加えたことで、子ども達の症状改善がかなり早まりました。

場面緘黙症の治療にはスライディングイン法とフェイディング法を用いますが、段階的なエクスポージャー法(不安の原因になる刺激に段階的に触れることで、不安を低減していく方法)を取り入れています。それまでのマギーさんはシェイピング法(段階的に発話動作を形作っていく)を用いて、子どもが徐々に声を出せるよう支援していましたが、スライディングイン法を使えば最小のストレスで最速で症状を改善させることができることがわかったといいます。

(次回に続きます)

かんもくネット事務局 みく(ロンドン在住)
注:翻訳には最善をつくしましたが誤訳があるかもしれません。どうぞご了承ください。