場面緘黙と迷走神経(vagus nerve)SM H.E.L.P. 2023年秋サミット (その1)

2023年10月、場面緘黙の啓蒙月間にアメリカのケリー・メルホーンさんがSM H.E.L.P. の秋サミットを開催。専門家を含む9名のゲストとケリーさんとの対談形式で、よりホリスティックな視点から場面緘黙を捉えていました。

■マイケル・ロングイヤー博士(Dr. Michael Longyear)について
ケリーさんは娘さんの場面緘黙克服のために、心理士や言語療法士のみならず、幅広い分野の専門家に支援を求めました。カイロプラクターであるロングイヤー博士もそのひとり。

ロングイヤー博士はカイロプラクターを養成する私立大学、ライフ大学の神経科学研究所の元所長。カイロプラティックは、骨の歪みを矯正し、体の不調を改善させる施術。現在はフロリダ州で診療所を経営しているそうです。
 
彼との対談のキーワードは「迷走神経(vagus nerve)」。昨今、脳神経科学の研究が盛んに行われていますが、場面緘黙についても脳神経研究の視点は欠かせないものになってきているようです。専門用語が多くて理解できていない部分もあるのですが、印象に残った部分の概要をお伝えします。対談では専門用語の詳しい説明がなかったため、私なりに調べて末尾に掲載しています。ご参照ください。。

■ ロングイヤー博士が注目するのは、迷走神経の持つ身体をリラックスさせる機能

迷走神経は副交感神経の代表的な神経で、脳と末梢器官を結び、ほぼ全ての内臓の運動神経と副交感性の知覚神経を支配しています。

「迷走神経は身体を休ませて回復させる機能を持つ、いわば生命維持システムの中で最も重要な神経。注目すべきは、身体がリラックスしている間に身体や神経の再生・再構築を行っていること。迷走神経はストレスで疲弊した身体を回復させる役割を果たしており、消化とも深く関わっている」

自律神経は、私たちの意思とは関係なく、呼吸や心拍、消化や代謝、排泄など、生命活動を維持をつかさどる神経で、交感神経系と副交感神経系からなります。危険が迫ると脳の扁桃体(アミグダラ amygdala)が興奮し、交感神経が活性化することはよく知られています。

「迷走神経に対し、脳の扁桃体(アミグダラ amygdala)は不安や恐怖を司るセンター。脳が危険を察知すると扁桃体が活性化して、ハイアラート状態になる。扁桃体と迷走神経は密接に関わり合っており、扁桃体のスイッチが入ると迷走神経のスイッチはオフになる。脳も身体も、全ての部分が繋がっているから、そのバランスを保つことが大切」

上記の「」内はロングイヤー博士の言葉で、対談の前半は脳と身体の繋がり、そして迷走神経の役割についてでした。

■ 以下は場面緘黙との関連を私の感想も交えて記します。

場面緘黙は不安症のひとつ。場面緘黙の症状を持つ子どもは、不安や恐怖を感じやすく、生まれつき扁桃体が反応しやすいという仮説があります。扁桃体が過剰に反応して、危険がなくても警報器がなってアラートの状態になりやすいというわけです。扁桃体が反応すると、交感神経が活性化して心拍数が増え、血管が収縮し、瞳孔が散大。扁桃体が過剰興奮すれば、認知や思考をつかさどる前頭前野がハイジャックされ、ブローカの領域(経験を言葉にする責任者)もオフになるそうです。

一方で、副交感神経の作用によって腸の運動が活性化し、便意や腹痛などが誘発されることも。緊張するとトイレが近くなったり、お腹が痛くなったりするのはこのためなんですね。

緊張状態が続くと、迷走神経のスイッチがオフになり、内臓を機能的に動かし、内臓感覚を正しく感じとることが不能に。そのため、身体を休息・回復させることができません。身体的にも精神的にもストレスがたまったままになるわけです。

緘黙症状がある子どもは疲れやすく、中には家でかんしゃくをおこすことも多いといわれます。学校で話すことができないだけでなく、ずっと緊張状態におかれていることを考えると、感情が家で爆発する子がいてもおかしくありませんね。

家庭が安心できる場であること、リラックスして身体と心を回復させることのできる場であることが、非常に重要であると思いました。

かんもくネット事務局 みく(ロンドン在住)
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参考)
迷走神経とは?
迷走神経は副交感神経の代表的な神経で、脳と末梢器官を結び、頚部から胸部、腹部の内臓、心臓や血管などに広く分布。感覚・運動神経としても働き、声帯、心臓、胃腸、消化腺の運動・分泌を司っています。迷走神経はほぼ全ての内臓の運動神経と副交感性の知覚神経を支配し、メンタルヘルスとも密接に関わっていることが解明されています。
Wiki解説:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BF%B7%E8%B5%B0%E7%A5%9E%E7%B5%8C
 
自律神経とは?
自律神経は身体が自律的に働く神経で、私たちの意思とは関係なく、呼吸や体温、血圧、心拍、消化、代謝、排尿・排便など、生きていく上で欠かせない生命活動を維持するために、休むことなく働き続けます。
Wiki解説:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E5%BE%8B%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

交感神経とは?
交感神経は脊髄と各器官をつなぎ、自律神経の中で興奮の刺激を全身のさまざまな器官に伝えます。交感神経が活性化すると身体活動が高まり、心拍数の増加、血管収縮、瞳孔散大や汗の分泌などが生じます。その一方、腸の運動や粘液分泌は抑制されます。
Wiki解説:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%A4%E6%84%9F%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB

副交感神経とは?
自律神経のうち臓器や器官などの働きを抑制させる神経系。 副交感神経が盛んに働いているときは、血管を拡張させ、心拍数を下げ、血圧を下降させます。 呼吸は深くゆっくりとなり、胃が収縮して胃液の分泌が増え消化が促進されます。急な強いストレスを感じると、心臓や血管には交感神経の作用が強く表れるのに対して、腸では交感神経に拮抗する働きを持つ副交感神経の作用により、腸の運動が活性化し、便意や腹痛などが誘発されます。
Wiki解説:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%89%AF%E4%BA%A4%E6%84%9F%E7%A5%9E%E7%B5%8C%E7%B3%BB