マギー・ジョンソンさん SM H.E.L.P秋サミット講演(その4)
20代前半の場面緘黙の女性、2人のケース
場面緘黙に苦しんでいたラーナとリサは、スモールステップ法で少しずつ症状が改善し、それぞれ留守番電話に声のメッセージを残せるところまで進歩していました。2人は友達になることを希望し、SNSでお互いにメッセージを送りあう仲に。
セラピストのマギーさんが仲介するオンライン会合では、ラーナはリサがいる前でマギーさんと話すことに成功。でも、リサはラーナがいる前ではマギーさんと話すことができませんでした。
2人が場面緘黙症の集まりに参加した際、マギーさんと同じホテルに宿泊。マギーさんは、下記の4段階のスモールステップをリサのために実施しました。
1) ラーナには部屋のバスルームで2分待ってもらう(第1段階)
リサとマギーさんは、ベッドの端に座って食事のメニューについて話す。ラーナには事前に「こちらから合図するから待ってて」と指示しておく。
2) リサがOKしたら、ラーナはドアを少しだけ開けて再び2分待つ(第2段階)
3) ラーナはバスルームのドアを、自分が出られるだけの幅までゆっくりと開ける
5) ラーナはバスルームを出て、部屋のアームチェアに座る(第3段階)
6) アームチェアをベッドの近くに寄せ、3人が円状に座る
7) 一緒にメニューを読む(最終段階)
最終的には、お互いが質問し合う形にもっていきました。話題はメニューに関することに限定し、何から食べたいか、AとBではどちらが好きかなど、閉じた質問(closed question)形式の質問にしました。
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スライディングイン法で導き出す最初の発話は、『SMリソースマニュアル』のステージ5(Confident Talkingの段階)に該当します。ステージ4までは、ジェスチャーで答えるステップ。そして、声を出して応答する(ステージ5)、1つの単語で応答する(ステージ6)、文章で応答する(ステージ7)と続きます。自由にコミュニケーションする(ステージ8)まで、段階的にステップを上っていくのが原則です(例外もあります)。
今回、リサのために実施したスモールステップでは、メニューを読んでいます。メニューに関する自由な会話は含まれていません。
発話を引き出すためのスライディングイン法でよく行う活動として、場面緘黙児と交互に数字や日にち、曜日を順番に言うというのがあります。子どもは声を出していますが、それは厳密には会話とはいえません。脳が知っている単語を自動的に読んでいる自動スピーチ(Automatic Speech)なのです。
自動スピーチは自分で内容を考えて話すより、ずっと簡単です。
マギーさんが1996年にケリー(13歳)にスライディングイン法を試した際、気づいたことがありました。母娘に”I Spy”(アルファベットの文字を使ったなぞなぞ)ゲームをさせたところ、上手くいかなかったのです。
“I Spy”ゲームでは次に言うこと自分で考えなくてはならならないから難しいのだ――そう悟ったマギーさんは、答を読ませたり、数字や曜日など誰でもすっと出てくる言葉を順番に言うなど、まず自動スピーチから先に練習させることにしました。
みく注:保護者はスモールステップで言葉が出ているとしても、子どもが自由に会話ができるようになった訳ではないことを理解しておくことが大切ですね。「はい/ いいえ」で答えられる閉じた質問(closed question)からはじめて、徐々に開かれた質問(open ended question)に慣らしていき、緊張せずにやり取りできるようにしていく。長い目でみながら、子どもに合うステップを確実に踏んでいくことが大切だと思います。
(次回に続きます)