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場面緘黙と迷走神経【Q4】

【4】「能面の様に表情がなくなる」のはなぜ? 
この記事は、SM H.E.L.P. の2023年秋サミットにてカイロプラクターのロングマイヤー氏と主催者ケリーさんの対談を視聴したロンドン在住のみくの疑問に、代表の圭子さんが詳しく回答したものです。
 
イギリスでは5歳になる年から小学校に入学するのですが、息子は4歳半で入学して間もなく場面緘黙になりました。付き添って教室に入った際、息子の顔が能面の様に無表情になったのを見て、私は心底驚きました。でも、恐怖で強張っている様には見えなかったのです。

その時はクラス全員が床に座って活動する「カーペットタイム」だったのですが、周囲は息子や私に注意を向けることもなく、皆で先生の話を聞いて一緒に答えていました。見つめられたり、答えを期待されたりしないので、それほど不安になる状況ではなかったと思います。家に帰ってから息子に「あの時、ものすごく怖かった?」と訊ねたところ、「ううん、色んなこと想像してたから、全然怖くなかったよ」という返事が…。空想の世界に飛んで現実逃避をしていたように思うのですが、どうなのでしょうか。 かんもくネット みく(ロンドン在住)

■圭子さん回答
これまでポリヴェーガル理論に触れながら、場面緘黙の症状について自律神経の状態という観点から考えてきました。場面緘黙の「話せない」症状は典型的には、過緊張で頭が真っ白になる「①フリーズ」と、低覚醒状態(特に「➂シャットダウン」の状態)があります。

① 何も考えらえない・声が出せないフリーズした過覚醒状態
  (🔴交感神経系+🟦背側迷走神経系)
➁  適切な発話機会があれば話せる最適な覚醒領域にいる状態
  (🟩腹側迷走神経系優位)
➂ 身体に力が入らない低覚醒状態
  (🟦背側迷走神経系優位)

場面緘黙症状をもつ子どもの中には、園や学校で「話せない」だけでなく動作がゆっくりで、給食やトイレ、体育参加などができない子がいます。このような動作の抑制を、日本では「緘動(かんどう)」と呼んだりしますが、研究はほとんどなされていません。海外の文献では、このような動作の抑制を「社交不安症との合併」と捉えらえているものも見かけます。

私は以前から動作の抑制にはいろいろな状態があると気になっていましたが、自律神経系の状態としては、フリーズとシャットダウンの両方の状態が含まれると思います。

「➀フリーズ」は、不安や緊張で身体が固まっている状態です(「Q1」~[Q3]で説明しました)。一方、過剰な交感神経系の興奮に対して、防衛反応として急ブレ―キがかかって脱力した状態が「シャットダウン」です。

「シャットダウン」は、心拍数、血圧、体温が低下して低覚醒モードになります。低覚醒状態には、休息・消化・睡眠の状態も含まれますが、解離状態や失神の状態もあります。解離状態や失神は、進化的には草食動物が捕食される時に、恐怖や苦痛を感じずに済むように死んだようになる状態だそうです。エンドルフィンが放出されて、痛みを麻痺させているので本人は苦痛を感じないですむそう。解離状態では情報が大脳皮質に到達せず、自分の体から切り離されたように感じる人もいます。

みくさんの息子さんは「能面の様に表情がない」状態で、恐怖は感じておらず、空想の世界に飛んでいたようだったということ。心ここにあらずの解離の状態だったかもしれません。解離は、白昼夢のようなものから病的なものまで水準や程度もいろいろです。特に幼い子供にはよくあることではあります。ただ息子さんの場合は緊張の高い場面で、そうやって身体が心を必死に守っていたのだと思います。

症状改善には、子どもが最適覚醒ゾーン(腹側迷走神経系優位)になるような家庭や学校の環境を作ることが大切です。安心できる環境を整えること、笑うこと、呼吸法やヨーガなども最適覚醒ゾーンを広げるのに役立ちます。
スモールステップの取り組みでは、少し不安なことにあえて挑戦します。安心できる人にいっぱい褒めてもらって、楽しい気持ちでいる時に挑戦すると、発話の成功率があがります。

かんもくネット 角田圭子 (臨床心理士/公認心理師)

図引用:NICABM
https://www.nicabm.com/the-difference-between-freeze-and-shutdown-trauma-responses/