■マギー・ジョンソンさん SM H.E.L.P秋サミット講演(その5)

今回は、前回登場した20代前半の場面緘黙症をもつ女性のラーナが、「カフェでウェイトレスに飲み物を注文する」ために行ったスライディングイン法を説明します。すでに話せる同伴者とカフェに行き、そこでウェイトレスをスライドインするわけです。

まずその場で声を出せるかどうか、事前に声を出す練習をしてみます。カフェに入る前にハミングするのもよい方法でしょう。これで「自分はできる」という確信が高まります。

テーブルについてからの<取り組み>は次の3ステップ。
1) メニューを読む (小声 → 音量を上げていく)
2) 同伴者と言葉を交わす(小声 → 音量を上げていく)
3) ウェイトレスに飲み物を注文する (1単語  → 文章)

まずテーブルについてメニューを読んで声を出してみること、そして同伴者と小声でお喋りすることから始めます。注文はそれからです。「知っている人に何か話す」よりも、「ウエイトレスのような知らない人に飲み物の名前を言う」方が、難易度が低いことが多いことも覚えておきましょう。

スモールステップを実践する前に、まず呼吸法で心を落ち着かせて。それから、バックアッププランを立てておくのもよいでしょう。注文したいものをスマホに書き留めておけば、万一声を出せない場合でも文字を見せればOKです。子どもには、事前に失敗はよくあること、まずは勇気を出してやってみるのが大事なこと、もしもダメでもチャレンジすること自体が大切なことを伝えておきましょう。

みく注:本人の場面緘黙症状や緊張の程度によって、ステップを更に細かく分けたり、省略したりできます。

●保護者が子どもの代わりに答えてしまう習慣がある場合:
保護者以外の人(話せる友達や親戚など)とチャレンジする方がよいでしょう。10代にもなると、子どもは親の干渉を嫌うことが多いからです。
もし保護者と一緒に行うなら、すぐに代わりに言ってしまわず、静かに微笑んで数秒間待つこと。それでももし、声が出なかったら、本人に「はい、いいえ」で応えられる形の質問をします。子どもが頷ければ今回はこれでOKとし、発話できなくても落胆しないようにしましょう。

●保護者に見守られてのスモールステップに抵抗がある10代の子どもや成人の場合

「ひとり語り(Lone talking)」というテクニックを使うのもよいでしょう。ひとり語りには、保護者でない第三者が必要(友達でも、親戚でもOK)です。「一人で音読して 録音する → 録音を誰かに聞かせる」という方法です。音読をしている部屋に誰かをスライディングインするという方法も可能です。

実際に誰かに本を読んでいる声を聞かせる場合:
部屋で一人で音読する → 少しドアを開けて外の人に声が聞こえるようにする → 第三者がドアを開けてゆっくり部屋に入っていく
 
●場面緘黙が長く続き、話さなくてもよい状態で止まっている10代や成人の場合:
子どもが「話せなくても構わない。別に話したくない」と言っても、決して鵜呑みにしないことが大切です。話さなければならない苦しい状況に陥ることを恐れているだけです。場面緘黙症をもつ人は、「話すだろう」と誰もが期待している場で話せないことが一番怖いのです。話し始めるためには、その恐怖に打ち勝たなければなりません。重要なのはモチベーションをあげることではないのです。モチベーションは既に持っていて、本心では話したいことが多いのが実情です。ただ、困難で不快な状況に陥ることを想像すると足がすくんでしまうのです。
もし蜘蛛への恐怖症を克服するのにタランチェラを使ったらどうでしょう?もっと怖くなりませんか? 蜘蛛と同じ空間にいなければならないだけで、既に緊張がマックスに達してしまう…。

声を出すことは最終段階で、その前に「場面緘黙症は恐怖症だ」という自覚を本人に持たせることが大切です。それが10代の子どもや成人の場面緘黙克服の要です。

テクニックは複数あり、スライディングイン法はそのひとつ。保護者と行う人もいれば、そうでない人もいます。一人で行う方法だってあります。実際に顔を見ながらビデオで、もしくは音声だけで行う方法もあり、本人が「これだったらできそう」と思う方法を選ぶことが大切です。

マギーさんが支援を行う際は、この人にはスライディングイン法がいいと思っても「他にもこれとこれがある」と別の方法も提案するのだそう。
重要なのは本人がやり方を自分で選択し決めること。彼らは本心では自分をわかってくれる人、どんな思いをしているか理解してくれる人、悩みを話せる人を欲しています。

(次回に続きます)

かんもくネット事務局 みく(ロンドン在住)
注:翻訳には最善をつくしましたが誤訳があるかもしれません。どうぞご了承ください。