【短編小説】今年最後の肉の日は

なんとか無事に今年の仕事納めをすることができた。

大学を卒業して新卒一年目。毎日が気苦労ばかりでジェットコースターに振り回されているような日々だった。
職場の環境もあまり良くなく、所謂職場ガチャ失敗というやつだ。

そんな仕事が久々に開放される長期休暇の初日。
私は忙しい日々の反動か、夕方まで眠りこけてしまった。

「う〜、寝すぎた……」

とりあえず水を飲む。久しぶりに物を入れた胃が動きだし、私に「お腹すいたよ!」と教えてくれた。

「ごはん、どうしよっかな……」

帰りも毎日遅かったのでほぼ毎日外食かコンビニ。自炊は殆どしなかった。部屋に散乱したゴミが嫌でも現実を突きつけてくる。

「大掃除もしなきゃじゃん……」

せっかく休みに入ったというのにやる事が次から次へと思い浮かびのしかかる。

「だるぅ〜……」

そう呟いたとき、お腹が「ぐぅ〜」と間抜けになった。
そうだ、私お腹すいてたんだ。やらなきゃいけない事は多いけど、ちゃんと食べなきゃ始まらないよね!

とりあえず着替える、そしてスマホを見る。

「29日……あ!」

私は今日のメニューをひらめき、家を出て夕暮れの町を自転車で爆走した。

たどり着いたのは近所のスーパー。このスーパーでは毎月29日に肉の特売を行っている。
買い物カゴを片手に肉を吟味する。しゃぶしゃぶ用、ステーキ用、ひき肉……色んな肉が並んでいる。私が手に取ったのはデッカイ豚バラブロック。多分普段なら買わない種類の肉だ。特売で安いとはいえそれなりにする。けれども私はなんの迷いもなくソレをカゴにぶちこみレジへ向かった。

仕事が忙し過ぎて、クリスマスも満足に美味しい物を食べられなかった。しかも彼氏ともクリスマス前に別れてしまった。
そんな淋しいクリスマスを過ごした私の執念が「今年最後の肉の日くらい!」と豚バラブロックという肉塊の購入を決心させた。

起床時の気だるさはどこへやら。ルンルン気分で帰宅し、早速調理に取り掛かる。
まず買ってきた豚バラブロックにフォークで穴を空ける。この時に会社のウザい上司や私を捨てた元カレを思うとすごい楽しくなった。

若干穴をあけすぎた豚バラブロックを醤油やにんにくペースト、砂糖などと一緒にジップロックに入れてよく揉む。そんで冷蔵庫で一時間くらい漬けこむ。
この間に炊飯器のスイッチを入れて、お米を仕掛ける。
豚バラチャーシューと炊きたてご飯。
優勝確定コンビを夢見て一時間耐える。

動画などをぼんやり見てたら一時間なんてあっという間だった。だが空腹度合いはそろそろ限界に近い。
冷蔵庫から肉を取り出すと良い感じに調味料が染み込んで茶色い肉になっていた。
これを耐熱皿に移してあとはレンジで待つだけ。

電子レンジで作る簡単ズボラなチャーシューだが、実家にいた頃母が作っていて、すごい元気がでるメニューだった。
今日初めて見よう見まねで作ったが、中々上手くできたようだ。
タイミングよくご飯も炊き上がり、私の大勝利晩餐会が始まる。

チャーシューをスライスすると中までしっかりと調味料が染み込んでいるのがわかる。

「美味しそう……」

私はつばを飲み、チャーシューをご飯の上に乗せ一緒にかき込む。

美味い。美味すぎる。
口の中に肉の脂がジュワぁ〜と溢れてきて、その脂とお米の相性が強すぎる。

無心で肉を貪る私。

そんな私の姿がふと、鏡に映った。

「これが、肉食系女子かぁ……」

今年もあと数日。
良いお年を。

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