【短編小説】肉を1キロ買った日
今日、半額の誘惑に負けて1キロの肉を買ってしまった。
消費期限は明日。まあ時間が迫っているからこその半額であるからそこに異論はない。
ただ俺は一人暮らし。スーパーで「半額の肉だ!」と上がっていたテンションは今は昔。
今はただ、目の前の肉をどう処理するかで迷っていた。
そこで出した答えは分けて残りを冷凍保存。まあ無難な方法である。消費期限など1、2日過ぎても特に冷凍してれば問題はない。というのが俺の経験則だ。
早速俺は油を引いたフライパンに肉を投入した。今日食べる分だけを上手く調整した。はずだった。
ひょんなことから想定よりもかなり大量に肉を入れてしまった。油が激しく弾け、俺に襲いかかる。
「あっ、熱っ!」
飛んできた油に思わず悲鳴をあげる。
そうしているうちにも肉はものすごい勢いで焼かれていく。キッチンは煙だらけになり、目に染みる痛さに耐えながら俺は換気扇をつけた。
その隙にも肉達はどんどん焼かれ、だんだん焦げ臭くなってきた。俺は焦って火力を下げた。
「ふぅ……なんとか大丈夫そうだ」
しかし保存用の肉は全体の十分の一程しか残っておらず、調理を始めてしまった十分の九は早めに処理しなければならないというプレッシャーが俺にのしかかった。
仕方なくそのまま肉を焼き、焼き肉のタレで味付けをした。すると香ばしい香りから俺の食欲が刺激され、意外にもこの量でも行けそうな自信が沸いてきた。
「なんか腹減ったし、これ行けるべ」
こんがり焼けた肉を皿に移し、昨日から炊いてあった白米を用意し、準備はできた。
「いただきます」
白米と肉を同時に口に入れる。
旨い、旨すぎる。
無限にご飯を食える気がして俺は夢中で白米をおかわりした。肉とタレが米にマッチしすぎてすっかり中毒になってしまったのだ。
そしてついにその時がやってきた。米がなくなってしまったのだ。いつも5合炊くというのに一人暮らしで5合を2日は自分にしては異常なスピードだった。
「やっべ、米がない……」
ただ俺はまだ肉の友を探していた。何か、何か肉に合う食べ物はないか。
そして俺が思い付いたのが豆腐だった。
腹にも溜まるし、豆腐自体は味もそんなに主張して来ない。肉やタレの味を優しく受け止めてくれるのだ。
肉と豆腐を同時に食す。やはり旨い。こうして俺は無事に約900gの肉を完食したのであった。
もっと買えば良かったなあ……
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