【短編小説】ソフトシェルクラブクラブ
ある日の昼下り、ぼーっとテレビを見ていると、不意に部屋のインターホンが鳴った。
「もぅ……いいところだったのに!」
僕はうんざりしながら停止ボタンを押し、ドアモニターを覗いた。そこにはにこやかに笑うスーツ姿の女性がいた。
「どなたですか?」
『私、ソフトシェルクラブクラブのご案内で伺いました〜』
なんじゃそりゃ!?
それが僕の正直な意見だった。
「あの〜、セールスなら間に合ってるんで」
追い払おうとした時、女性は笑顔を崩さずに言った。
『でも、カニ好きですよね?』
「そ、そんなことないですけど……」
『先月、有給を使って新潟にズワイガニの食べ放題に行きましたよね?』
「えっ?」
『先週届いた北海道産タラバガニのお味はどうですか?』
僕の最近のカニ遍歴をすべて当てられて気味が悪くなってきた。
「な、なんでそんなことまで知ってるんですか」
『私達は真のカニ好きを探すためにありとあらゆるカニを扱う業者と提携しているのです』
「な、なんのためにそんな……」
『もちろん、当クラブに勧誘する為です。なので一度お話だけでも構いませんので……』
どうやらもう逃げ場はないらしい。
僕は恐る恐る玄関に向かった。
玄関の扉を開けるとさきほどの女性がさっきのモニター越しの笑顔のまま立っていた。
「どうも〜!」
「ちょっとお姉さん。まずソフトシェルクラブクラブって、なんなのさ」
「日本では珍しいソフトシェルクラブの食べ放題を提供する会員制のクラブとなっております」
「ちょ、ちょっと待って。ソフトシェルクラブって……」
「そうです。脱皮直後の殻ごと食べられるカニの事ですよ。まぁ、常識だとは思いますが……」
もちろん、僕はソフトシェルクラブも大好きだ。
「んで、ソフトシェルクラブの食べ放題だって?」
「はい!シンプルな茹でソフトシェルクラブから、ニンニクやスパイスで炒めたもの。唐揚げや天ぷらなど様々な食べ方をご用意しております」
その話を聞いていて、思わずよだれが貯まる。
「そ、それで値段は幾らですか?」
「はい!一回5,000円です」
「結構いい値段だなぁ……」
だがカニの価値がわからない僕ではない。財布から5,000円を出そうとしたその時だった。
「ですが、月20,000円のフリーパスもありますが」
2万円!4回で回収できる。2回くらいなら簡単にいけるが4回……いっそのこと10回とかだったら諦めがつくが、4回というのが、頑張れば行けそうな値段なのがニクイ。
そして僕は結局、20,000円を差し出してしまった!
待ってろパリパリソフトシェルクラブライフぅ〜!
※現実にそんなクラブはありません
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