ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト
かつて理科の授業でならった考え方に生態系ピラミッドというのものがありました。食物連鎖と生物数を組み合わせたもので、生態系を構成する生き物の種数や個体数が底辺ほど多く、頂点に近づくほど少なくなるというものです。一番底辺には土壌のなかの菌類や土壌動物などが生息しており、頂点には肉食動物が君臨しています。肉食動物を支えるにはそれだけ豊かな生態系が必要であるという説明に使われたりしますが、この図を見たとき、なるほどと納得したと同時に、じゃあ人間はどこにいるんだろうかという疑問がありました。人間を頂点だとするにしては個体数は多すぎる。かといって底辺でもない。もしかするとこの図には人間はおらず、人間は図を描いた側、いわば神の視点として位置しているのかも知れないと今は思っています。食物連鎖の関係も、現実にはたくさんの連鎖が絡み合い、入り乱れた複雑な網目として描かれ、食物網と呼ばれるそうです。ピラミッドではなく網目として考えると人間もその網目の中にいることを自覚することができる気がします。
さて本書の著者のケイト・ラワースさんは経済の在り方がGDPを上げることに心血を注ぐ経済成長至上になっていることに疑問を投げかけ「豊かな生命の網の中での人類の繁栄」をうたいドーナツ型の図を提案しました。ドーナツの内側には食糧や健康など社会指標を、外側には生物多様性や気候変動など環境指標を配置し、ドーナツのある位置に着地することを目指すという図です。本書によると現在は「大加速時代」と呼ばれ、1950年から2010年の間に世界の人口は3倍、世界のGDPは7倍に、エネルギー利用量は4倍と指数関数的上昇をしているそうです。さらにこの人間活動の急拡大の影響が、地球システムの反応を引き起こすほどに大きくなり、1950年以来大気中の温室効果ガスの増加から、生物多様性の喪失など、その変化もまた顕著に見られるようになったと言われています。
1950年代といえば、燃料革命が起こり日本人のライフスタイルにも大きな変化があった時代でその変化はいまも続いています。今から7年前の2013年の10月19日に地元の安原さんから炭焼きの様子をうかがったことがありましたが、水源の森あたりでは1960年代中頃まで炭焼きが行われていたそうで炭焼き自体は平安時代の終わりから始まったとされ実に900年間も続いていたことになります。
大加速以降、生活や衛生面は随分と良くなりましたが、指数関数的上昇を伴った人間活動が地球温暖化の表れとして巨大台風や大雨、酷暑などの地球システムの応答を引き起こしているのだとすれば、経済成長に代わるモデルを検討することは至極もっともであると思います。
そういえば映画「天気の子」では気候変動により雨で沈んだ東京で人々は船で通勤するなど、環境変化に伴った生活様式の変化を受け入れざるをえなくなった姿を描いていました。コロナウイルスにより暮らし方が変わってしまった現在と重なるところがあるのを興味深く思います。空海は即身成仏義において「重々帝網なるを即身と名づく」と記しました。決して自分たちは神の視点に位置するわけではなく、世界の主催者でもなく、網の一部だと自覚して生きる。それが今後の大きな考え方のひとつになってくるのではと思います。(橋本勘)
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