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東京で音楽を楽しむということ

最近ジャズバーに行く機会が多い。
これも映画BLUE GIANTを観てジャズバーに行ってみたいと思ったところから始まっており、たかが一個人の行動変容ではあるものの、今まで知らなかった世界を広げてくれるきっかけになるエンタメってすごいなと心から思う。

正確にはジャズバーではないものもあるのだけれど、最近足を運んだお店を記録したいと思う。

BODY & SOUL (@渋谷)

会社の上司に『東京のジャズバーに行ってみたい』という話をしたら、ぜひ紹介したいお店があるということで連れて行ってもらったお店。
調べてみると50年くらいの歴史がある渋谷の名ジャズバーらしく、ジャズバー初心者として、一人で行くのは少し怖いけど連れてきてもらうには最適という素晴らしいチョイスだった。

渋谷駅から歩いて10分かからないくらいの渋谷公園通りのマンションの地下にある。地下というと入りにくいように思えるが、1Fに向けて吹き抜けになっているので道路からも店内の様子が覗きこめて閉鎖感はない。

僕らが行った日は、テナーサックス・ピアノ・ベース・ドラムという一般的なカルテットではなく、ドラムの代わりにタップダンスという超変化球の回だった。

右端がタップダンサーの宇川彩子さん

リズム隊でありダンサーでもあるという不思議な存在のタップダンス。
もちろん曲中はソロ(即興)もあり、明らかに2本の足から生まれているとは思えない細かなリズムを刻むのにも驚いたが、ハンドクラップや身のこなしなどから伝わってくるエモーションが普通の楽器とは異なって目が離せなかった。

そこまで広くはないお店なので、演者との距離が近く臨場感ある演奏が聴こえるのはとても良いが、演奏中にほとんど会話ができないので(映画館で上映中に喋るような感覚になる)そこも含めてジャズバーの雰囲気というものを体感できた。

店内にはテーブル席と長いカウンター席があって、一人でコーヒーだけ飲みながら聴いている人もいた。

月に1回くらいこういう平日の夜があると良いなと思う。

BLUE NOTE PLACE (@恵比寿)

恵比寿に去年新しくできたBLUE NOTE PLACE。ここはジャズバーというよりも、食事を楽しみながら上質な生演奏を聴くことができるというコンセプトのダイニングであり、(行ったことはないものの)本家BLUE NOTE TOKYOとかよりはかなりカジュアルめで入りやすい形になっていると思う。

システムも基本的にはミュージックチャージはなく『テーブルチャージ1,000円+必ず3,000円以上飲食してね』という料金体系になっており、『音楽聴くぞ〜』という前のめり感がなくても過ごせるダイニングになっている。

ステージの直上が吹き抜けになっている

この日はピアニストの加藤真亜沙さんのソロステージ。
ピアノの壮大な演奏と時折挟まれるご自身のハミングのようなコーラスがとても心地よかった。

演者との距離感によって過ごし方が変わるのも興味深かった。
先ほど述べた通り、渋谷のBODY & SOULは店舗自体がそこまで大きくないのもあり演奏中に会話するのは心理的な後ろめたさがあったが、今回座った2階席であると演奏に耳を傾けつつも料理や音楽の感想を会話するのにちょうど良い距離感だった。
上から見下ろすと1階のステージ近くに座っている人たちはやはり集中して演奏を聴いている方が多かった。

イベントラインナップをみるとかなり幅広いアーティストがステージに立っているようなので、誰かと落ち着いた少し特別な時間を過ごしたいなという時に重宝する場所だなと思った。


BAROOM (@青山)

BLUE NOTE PLACEで音楽って良いなと思った夜、こんな投稿がふと目に入った。

馬場智章さんはサックスプレイヤーで、まさに映画BLUE GIANTの主人公、宮本大の演奏を担当した方だ。いつか生演奏を聴いてみたいなと思っていたので、この投稿を読んで衝動的にチケットを買ってみた。

このBAROOMはステージとカフェ・バーエリアが完全に分かれていて、食事をしながら音楽を楽しむのではなく演奏に集中するスタイル。サーカス小屋のような円形のステージが斬新だった。

前日にチケットを買ったので、前の方で鑑賞することにこだわりはないけれどきっと後ろの方だろうな〜と思っていた。会場に着いてみると座席が3列しかないことと、正面から埋めていくスタイルだったので側面ではあるものの最前列という驚きの席だった。

今回は2020年に発売されたSTORYTELLERというアルバムの曲をノンストップで演奏するという企画であった。冒頭にその旨のアナウンスが馬場さんご自身からあった後、演奏が始まった。

サックスが物語の主人公だとすれば、ベースが踏み締める大地となり、ピアノが光を、パーカッションが風や匂いなどの大気を作っているような感覚になった。それらのバラバラな楽器が一体となってテーマを奏でるタイミングが何度かあるのだけれど、その瞬間に全身に鳥肌が立った。
サックスとピアノの呼応も、並んで歩きながらもライバルとして火花を散らしているような気がした。
細かい手の動きとか息遣いやアイコンタクトが見えるのも良かった。

こんなに演者の近くで集中しながら音楽を聴いたことがなくて、何故か途中で『このまま老いていくのが怖い』ということが頭に浮かんだ。
今になって思えば、自分の同世代の人たちががこんなに熱気を帯びたものを生み出しているのに、一介のサラリーマンの自分って…ということを頭で言語化する前に肌で感じたからかもしれない(決してそれを悲観しているわけではないけれど)。

馬場さんの衣装、黒のセットアップに緑の靴が映えて格好良かった



今までライブというのは自分が好きな曲を生で聴く場だと思っていた。
だから、ライブを行くには少なくとも最新のアルバムぐらいは把握しておかないというプレッシャーがあった。
最近行ったライブはどれも知らないアーティストで、曲も1曲も知らない状態だった。それでもとても楽しめたし、その場の生演奏をより受け止められたような気がした。ふとライブ会場に足を運んでも良いんだなと思った。
これは流行りのポップスやロックのライブに行くのとは少し違う感覚だ。
(もちろん、イントロが鳴った瞬間の『あの曲だ!』という高揚感も好きだけれど)

知らない会場の知らないアーティストの演奏を聴きにいくと、自分の情報チャネルが増える感覚があることに気づく。
気に入った会場のイベントスケジュールを定期的にチェックするようになることで、少し気になるアーティストの演奏を聴くために、もう一度あの場所に行ってみようと思う。一方で気に入ったアーティストの情報を追うことで、更に知らない会場のライブに行ってみようと思う。
そのようなアーティストと会場の興味が広がっていくサイクルが生まれることで、ヒットチャートを攫うのとは少し違う音楽との出会い方ができる気がする。

何より東京に住んでいるとそのサイクルが回り始めるハードルがとても低くなる。新宿も渋谷も気軽に行ける距離なので、ふと思い立ったら足を運べてしまう。
いつまでカルチャーを消費する生活を続けるのかと疑問を抱く自分もいるけれど、せっかく新しい楽しみ方を見つけたこの生活をもう少し味わってみたい。

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